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22時ごろにナギが落ちると、パーティーは解散となった。
見た目はギャルなのに、規則正しい生活だ。見た目はギャルなのに。大切なので二回言いました──。
一方で不規則な生活が染み付いているわたしは情報収集のため、一度ホーム画面にまで戻って掲示板を見てみた……わけなんだけど。
「うわ、やっぱり噂になってる」
掲示板には、小舟が孤島に向けて出航したのを見た、と書かれていた。
それでも誰が乗っていたかなどの情報は書かれていないので(まあ剣士が三人って書かれていたけど)、よかった。
「あっ、旅券の入手方法について」
いろいろなスレッドに旅券入手のためのクエストが難しいと書かれてる。
まずベルサーニュの広場にいる商人NPCが『モンスターに襲われて、砂漠地帯で荷馬車と積み荷を失った。それを取り戻して欲しい』と言ってくるらしい。
広い砂漠地帯でモノを探す。
そんなのは無茶だとは思うものの、ヒントがいくつかあってなんとか場所は特定されたようだ。
しかし。
荷馬車と積み荷の周辺には小型犬くらいの大きさをした虫系モンスターがたくさんいるらしい。
モンスターを撃退し、依頼物を確保すれば、今度は護衛クエストに更新されるのだとか。
で、巨大なサソリのモンスターに追われるので積み荷を載せた荷馬車を町まで護衛する。
破壊されれば、もちろんクエスト失敗。
クエストは最初からやり直し……。
そんな荷馬車は複数台、複数箇所にあるみたいで。
どの地点の荷馬車が護衛時間が短いだとか、地理的に良いだとか。そんなことをプレイヤーたちが言い合っている。
「ひっどいクエストだなぁ」
掲示板は阿鼻叫喚だったが、それでもクエストをクリアした猛者もいた。
とある槍使いさん
や、やったぜ
クソみたいなクエストをクリアした
とある魔法使いさん
すげー
とある盾使いさん
じゃあ孤島にいったのか?
とある槍使いさん
いや……そこからまだクエストが続くんだよ
積み荷のフルーツが腐ってるとかでな、指定された場所でフルーツを採取させられる
他にもやってるパーティーがいくらかいたから、クリアしてるやつは結構いるみたいだな
とある大剣使いさん
私は毛皮の採取だった。
おそらく積み荷はランダムなのだろう。
とある槍使いさん
マジか
んでフルーツを届けたらそれを売ってくるからって言われるんだ
とある盾使いさん
それで?
とある魔法使いさん
クリア?
とある槍使いさん
品物が売れるまで待ってくれ、と言われた
たぶんあの大型帆船で向かうんだろうから……ある程度の人数が揃ってから出発なんじゃないかな
とある剣使いさん
あークソだ
荷馬車の護衛中に弓使いの女が援護をサボりやがってクエスト失敗になっちまったぜ
とある弓使いさん
わたしも剣使いの人がひとりで突っ込んだせいでクエスト失敗になりました………
とある剣使いさん
うわ、同じだな
とある弓使いさん
同じですね
明日は祝日なので1日中、クリスティアオンラインⅡを遊ぶ予定だったわたしは、ホッとするような不思議な感じを味わっていた。
3人で遊ぶ約束もしている──けれど、このお祭り騒ぎには参加できない。
惜しいような、もったいないような、背中がチクチクするような気分がする。
わたしたちは孤島アースラで多少のクエストはクリアしたが、攻略系のガチ勢がやって来たら、あっという間に追いつかれてしまう。
「別に……一番を目指してるわけじゃないけど」
今の孤島エリアは言ってしまえば貸し切り状態だ。
他にプレイヤーがいない。
自分たちだけの島。
それはそれでワクワクする。
他のプレイヤーがやってくるのは、明日だろうか?
それとも、今日?
日付はまだ変わっていない。でも、もうすぐ変わりそう。
わたしはホーム画面に戻り、ログインを選択した。
光に包まれ、目を開ける。
現実世界は夜だというのに、朝焼けのような淡い光が顔に当たっていた。
上体を起こすと宿屋の部屋だとわかる。どうやらベッドに寝ていたらしい。
干し草の上に綺麗なシーツを掛けているだけのベッドは、ごわごわとした感触だった。
扉を開け、廊下に出る。
宿屋の二階にある一室だったらしい。
吹き抜けの一階からミノンが手を振っているのが見えた。
「おねえちゃん、おはよう!」
「えっと、おはよう。わたしはアリカだよ。よろしくね」
「アリカおねえちゃん! おはよー!!」
「お、おはよう」
表情豊かなNPCだ。
「ミノン、船って来てる?」
「船? ううん、来てないよ!」
「そっか」
わたしは手のひらをぎゅっと握った。
階段を下りて、一階で装備を変更。
バケツヘルムはもちろんいらないが、それとは別に精霊王のローブを装備した。
「わー! かわいいー!!」
ミノンがわたしを見て、目を輝かせている。
NPC。されど可愛らしい女の子だ。
褒められるのも嬉しい。
それに、周りには他のプレイヤーもいない。
「でしょ! 実はこの色はわたしが染めたんだよね~」
「綺麗な色だねっ」
すごく。
すっごく……受け答えが自然だ。そんな気がするだけ?
NPCもⅡになったことで進化している? いやでも、定型文しか喋れなかった前作とこんなにも違うものだろうか?
なんか、NPCなのかどうかが……わかんなくなっちゃいそう。
プレイヤーであれば、最低でも『Lv1』と表示されているはずで。
でも、ミノンはネームしか表示されてないわけで。
となればやっぱりプレイヤーではないのだろう。うん。
「ミノンは──」
NPCだよね、と聞こうとして。
わたしはかぶりを振った。
それはそれで変だ。
そうだよって言われても嫌だし、違うよって言われても嫌だ。怖い。
自分の設定なんてつらつらと発された日には、もうミノンという少女NPCを可愛い少女に見れなくなりそうで。
「いや、なんでもない。ちょっと町を見てくるよ」
「あちしはお部屋のお掃除しておくね!」
「うん。よろしく」
宿屋を出ると、通りは賑わっていた。
買い物をしている女性だったり、言い争いをしている彼らだったり、値切りの最中の少年だったり。
フルダイブ系のゲームだからこその臨場感は、少しばかりうるさくもあったりするわけだけれど。
本当にどこかの国、それも海外を旅行しているような気分になった。
「さて」
と。
わたしはいく宛もなく、町をさ迷ってみることにした。
クエストクリアを目的としている訳ではなく、単純に観光目的だ。




