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「我が前に現れよ──ルピー!」


 小魔石3個で呼び出した低級氷精霊ルピーを待機させて、様子を見る。

 狼の群れは率いるボスのような存在がいない。いわゆる雑魚モンスターの群れだ。

 とはいえ。

 町からすぐ側にいるのは事実。


 これがイベントだとして、このまま放置した場合はどうなるのだろう。

 孤島にやって来るまでにボートを使わせたり海竜に攻撃させる運営だから、町が襲撃されて滅びるかもしれない。

 さすがにそんなの……あるかも。クリスティアオンラインの運営だし。

 

「とりあえず中央に撃ち込むけど、いいかな?」


 わたしの言葉にアーサーがにやりと笑う。


「待って。この先制攻撃は任せて貰おうか」


「えっ」


 アーサーが人差し指と親指を立ててる。

 まるで拳銃のジェスチャーみたいに。そしてその人差し指には金色の指輪があった。


「あ、それショットリング?」


 ダンジョンのクリア報酬に出てくるアイテムはユニーク装備が最高で、あとは武器や防具、素材、装備の順でレアリティが下がっていく。

 指輪はそんなダンジョンクリア報酬としては装備の中でも最低ランクの品。いわゆるハズレだ。


「うん。宵先輩が入部したときに欲しい物はあるかって聞いてくれて、ボクはこれを選んだんだよね」


 アーサーの右手には他にも指輪があった。

 中指と薬指。3つセットで貰ったみたい。


「でもそれってあんまり威力無かったような気が」


「ひとつの指輪なら、ね」


 ふふん、とアーサーが笑う。


「まあ見てて」

 

 人差し指が淡く光ると魔力の弾丸が飛んでいく。

 何体かいる狼のうちの一体、その眉間に吸い込まれるように光弾が直撃。すると同時に狙撃されたみたいに吹っ飛んで身体が消え去った。


「おお!」


 わたしは驚いた。

 魔王軍四天王のアルマが同じようなことをやってたのは見たことがあったけれど。

 指輪でモンスターを倒すのは見たことがない。


「宵先輩が前作から引き継ぎした指輪らしくてさ、今のレベル帯ならある程度のダメージを与えられるんだよね」


 言いながらも弾丸は発射されていく。


「あとは先輩が砂漠のダンジョンをクリアしたときにドロップしたっていうズームリングとパワーリングがあれば、遠距離の相手限定だけど、良い弓矢並みの威力になるんだ」


 すでに五体の狼が消滅していた。

 さすがに狼も狙撃に気づいてこちらに向かってくる。 


「んー、よし。ナギさんの到着までがんばろう!」


 このクエストのクリア条件はおそらく兵士の到着を待つことだ。

 あの少年は冒険者(わたしたち)に退治を任せるのではなく、兵士への伝言を優先させていた。

 つまり時間経過がクリア条件である可能性が高い。

 だから、兵士がやってくるまでの時間稼ぎをすればいい。はず。


 ナギの脚力ならば、すでに増援を要請した上で、こちらに向かっている最中かも知れない。っていうか、たぶん向かっている最中だ。

 

「だね。じゃあ護衛は任せた」


「おっけー、任された」


 わたしたちは、こつんと拳をぶつけた。

 そして。


「──【氷風】ッ!!」


 白木の杖の先を銃口の代わりにして着弾の座標を指定する。

 突撃してくる狼の群れの中央だ。

 氷風がまっすぐに進み、指定通りに狼たちの中央で爆発四散した。


 数頭の狼が宙を舞っている。

 数頭の狼が氷像のように固まった。

 そして……残された数頭の狼が、こっちに向かってきている。


「よっと、やるぞー!」


 飛び出たアーサーは、敵を迎え撃つために単身で突っ込む。

 噛みついてきた狼の牙を、左手に装備しているベルマリア製の小盾で防ぐ。抜き放つ右手の鋼鉄の剣が、盾に喰らいついていた狼の首を斬り落とした。

 返す刀で右から通り抜けようとしている別の狼の横腹も切り裂く。


「【後退(バック)】」


 騎士系職業のスキル【後退】は身体を動かさずに後ろに下がることのできるスキルだ。

 数歩ぶんの距離をそのままの体勢で滑るように下がって、左から抜けようとしていた狼に追い付く。


「【盾攻撃(シールドバッシュ)】」


 小盾から繰り出されたとは思えないほどの打撃で、狼が吹き飛んだ。


「とどめは任せた!」


「了解!」


 わたしはアイテムボックスを操作して白木の杖と配布された剣を交換する。

 剣を使うのは苦手なんだけれど。

 それでも、ひっくり返って気絶してる──スタン状態の狼を相手に負けるほどには弱くはない。


「えいっ」


 何度か攻撃してから、腹の辺りを突き刺すと狼の姿が掻き消えた。

 魔石は極少の大きさのモノすらドロップしない。


 はい、いつもの不幸パワーだ。

 もはや慣れているので、むしろドロップしたほうが動揺するかも知れない。


 狼に囲まれているアーサーは左手を腰に回して短剣を取り出す。

 まるで炎が凝縮したような色。短い刀身。

 灼熱の迷宮をクリアしたときにクリア報酬としてドロップした、【緋炎の短剣】だった。


「【緋炎(フレイム)】!!」


 アーサーの短剣が(くう)を斬る。

 ワンテンポ遅れて、刃の軌跡をなぞるように炎が噴き出した。

 2頭が炎に飲み込まれて姿が掻き消え、一瞬で灰になる。

 それでも油断せずに、即座に防御体勢。


「アリカさん、左から新手!」


「うえっ!? うい」


 まったく見ていなかったので変な声が出た。


氷よ(ヤー)──吹雪となれ(トゥイスク)我の()魔力を捧げる(ルコイラウ)! いけ、【氷風】!!」


 極小魔石をばらまいたあと、剣の切っ先を左からやって来た狼の集団に向ける。

 先頭の狼から数メートル先を狙い、そしてルピーが氷風を発射した。


 氷の華が十数メートル先で咲き誇り、散っていく。

 先頭を走っていた狼が氷像のように固まったあとで掻き消えたけれど、後続の狼たちは魔法を避けたらしい。無傷だ。


「ううーん……勝てるかなぁ」


 ちらりとアーサーを見た。

 アーサーはさらに2頭を倒しているが、8頭もの新手が右側からもやって来ている。

 やるしかない。

 自分で。

 魔法使いだったら、もっと効率的に戦えるんだれど。


 わたしは剣の柄をぎゅっと握った。正面で構えて一歩を踏み出す。


 と。


「りゃあああああああああああああ!」


 なんて声と共に、後ろから誰かが跳んできた。

 まるでライダーキックだ。蹴りを受けた狼が吹っ飛ぶ。そして消滅。

 そのまま宙で回転して(どうやってるんだろう)、流れのままに鋼鉄の剣でもう1頭の狼が両断された。


「大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ。ナギ(・・)のおかげ」


 今のどうやったの?

 聞きたかったけれど。

 聞いてもどうせわたしにはできないや。


「へへ~……っと、アーサーを援護しなきゃ!」


 その場から駆けていくナギを見送って、わたしは背後を見た。

 遠くでがっちゃがっちゃと鎧がこすれる金属音を鳴らしながら、兵士たちが行軍してくる姿が見えた。

 おっそい。

 いや、ナギが速すぎるのか。


「はああああああああああああっ!」


 スキルでも何でもない足技で狼が蹴り殺される様子を見て、わたしの出番はもうないなぁと思った。

 剣を収納してから、その場に体育座りになる。

 しばらく様子を眺めた。


「あれでヒーラーなんだもんなぁ。ほんと……すごい」


 むしろ若干怖い。


 兵士たちが到着すると、ようやく狼たちが湧かなくなった。

 ドドドドドーッ、と兵士たちが突撃して狼があっという間に殲滅される。イベントシーンなのか、戦闘という感じではない。

 少しコメディな感じだ。


 ナギが「すごー強っ! がんばれー!」と喜んでいたので、わたしも応援しておいた。


 

 ◇クエスト【町の危機(狼)】クリア◇

 報酬・狼の毛皮x5

   ・小魔石x5

   ・1500モル

 

 特別報酬・狼のダガー



 特別報酬は一定数の狼を倒したから手に入ったらしい。

 レアな武器だ。たぶん。

 モルは3人で山分けして、毛皮はアーサーに、小魔石はわたしが貰った。

 ドロップしたアイテムなどは倒した人のモノだ。ちなみにわたしは何もドロップしなかった。悲しいぜ。


「このダガーどうする?」


 ナギが持っているのは黒刃のダガーだ。

 狼のダガーという名称ではあるけれども、狼的な要素は柄頭に牙の装飾があるだけ。

 特殊な効果は無いみたい。


「ボクは緋炎の短剣があるから」


 とアーサー。


「あたしもベルマリアさんの剣があるから……はい、あーちゃん」


「えっ、あっ……うん。ありがとう」


 わたし精霊使いなんですが。

 でも後衛職だって、さっきみたいに剣で戦わざるをえない状況も結構あったりする。

 護身用にはいいかも知れない。


 そのあとは町に戻って町の住人から受けられるクエストをいくつか受けて、いくつかクリアした。

 典型的なおつかいクエストの薬草採取やパンを届けて、といったモノはわたしやアーサーからすれば耳にたこレベルのテンプレだったけれども。

 ナギが楽しんでいたので、わたしたちも楽しむことにした。


 こうして新エリアの先行プレイの初日は何の問題もなく終わったのだった。

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