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新エリアへGO!

 第一回イベント『狼と子羊』を終えると、他のプレイヤーたちのわたしを見る目が大きく変わった。

 なぜかは知らないが、掲示板のほうではすでに知名度があったらしい。


 ともかく。

 アリカは──(黒白二翼は除いて)、クインベルドやリゼルといった有名プレイヤーの順位を越えてしまったのだ。

 不意討ちでも結果は結果ということで……。


 さらにはイベントクリア上位9名のうち、3位と5位に存在する【夜の帳】という謎のクランのメンバーでもある。

 そりゃ当然、ネットでは何者なのか?

 と。

 騒がれるわけでして。


「いやー、その、土曜の朝なのに……ごめん」


「いーよいーよ。それよりさ、どうする?」


「とりあえず──出てみるよ」


 わたしはナギとはじまりの町、ベルサーニュの裏通りで合流すると、隠れるようにこそこそと進んだ。

 建物のカドから通りの様子をうかがってみる。

 いつも通り、賑やかにプレイヤーたちが歩いているのが見えた。


 ある意味で有名なプレイヤー入りしてしまったから、表通りを歩けば、人だかりができてしまう。

 ちなみに逃げれば追いかけられる。これは実証済みだった。


 ここ数日、ベンチに座るとフレンド登録してくれませんか、と知らないプレイヤーたちが列をなしてしまう。

 そんな状況を最初こそおもしろがっていたベルマリアも、いい加減に飽きてきたのか、昨夜いきなり頭部用の防具『武骨なバケツヘルム』をくれたのだった。

 タダで、つまり無料。

 なんともいい響きだね!


 そんな貰ったばかりのバケツヘルムを被ってから大通りに出る。

 ちらりちらりとは見られても、それらの視線はすぐに興味を無くしたかのように前へと向いていく。


それ(・・)被ってるだけで、誰にもバレないね」


 と、ナギはバケツヘルム装備のわたしを見て笑った。若干引いてるような笑顔。

 

「だね。アリカは精霊使いだって知られてるから」


 まさか後衛魔法職がバケツヘルムを被って、剣を背負っているとは誰も思うまい。

 ここにいるのはどこからどう見ても、小柄な剣士だ。


「そういえばランキング上位の報酬? あれ、何くれるんだろーね」


「わかんないけど、そこまで良いものじゃないと思う」


 わたしは遠い目をした。

 イベント上位入賞の報酬、とやらを直接配布すると書かれた運営からのメッセージが届いたのは、イベント終了後すぐのことだった。



 ◇イベントクリアおよびランキング上位入賞おめでとうございます◇

 記念アイテムを進呈いたします。

 ポーションx3

 エリクサーx3



 ランキング上位者限定で、イベントクリアとは別の報酬があるらしい。

 ただ受け取り可能の日付が今日だったので数日待たされてしまった。

 そのせいで町中を逃げ回るはめに……。


 ちなみにナギも頭に装備品を装着していた。

 イベントをクリアしたプレイヤーに報酬として今日送られてきたばかりの『メェメェ帽子』だ。

 ときどき「メェ」と声が聞こえてくる。

 白いモコモコなのに、顔のような部分がないのに、鳴き声が。

 正直怖い。

 現実にあったら呪いの品に違いない。

 ちなみに子羊側のクリア報酬がメェメェ帽子で、狼側のクリア報酬はガオガオ帽子だったりする。

 

 わたしはアイテムボックスから『招待状』というアイテムを取り出した。

 イベントクリア上位者に送られてきたアイテムだ。


「よし、到着」


 招待状に書かれていたのはベルサーニュの中心部にある、お城の場所と日付──だけ。

 到着すると、普段は開かない城の内部へと続く門扉がゆっくりと開いていく。

 そして、城のエントランス部分には見たことのある姿が。


「こっんにっちはー」


「こっんにっちはー!」


「あっ、はい……こんにちは」


 ナギは満開の花びらのように笑っている。

 わたしは死んだ魚のような目だ。


「えっと~……司会のお姉さんが、どうしてここに?」


 問いかけると司会のお姉さんが胸の下で腕を組んだ。うーむ、でかい。どこかは言わないでおこう。


「アリカさん? うん、アリカさんよね?」

 

「はい。あの、アリカです」


 わたしはハッとした。

 とりあえずヘルムを脱ぐと、司会のお姉さんはうんうんと確認するように頷いてる。


「確認できました。……どうして、と言われたら進行役を任されているから、かな。お姉さんね、今回のイベントの上位入賞者に報酬を配るのも任されてるのよねー」


 司会のお姉さんはちらりとナギを見た。

 同行者がいても良いのか、悪いのか。

 顎に指を当てて考えて。

 まあいいやって顔をする。


 この人、すごい顔に出るタイプの人だな。


「さっそくだけど、欲しいアイテムを選んで欲しいの。一応説明すると──上位入賞者、1位の人から順番に報酬を選んで貰ってるのよね。個数に限りがあるから、順番に呼んでるんだけど」


「個数に限りがって……ユニークアイテムってことですか?」


「ユニークアイテムもある。って感じかな。とりあえず見てみて」


 司会のお姉さんは目録を手渡した。

 青い背表紙の巻物をスルッと伸ばしてみると、そこにはいくつかのアイテム名が書かれている。

 ちなみに2つのアイテム名には赤線が引かれているが、これはわたしの前に来ていたであろう、黒白二翼という有名なプレイヤーたちが持っていったものに違いない。


「んー」


「土地の権利書、名剣の素材各種セット……青い翼、上位職の色水晶、ルーンソード」


 並んで見ているナギが、首をかしげつつ読んでいく。

 確かに初心者からすれば、わけのわからないアイテムばかりのはず。

 わたしも知ってる物と知らない物が混じっていてあんまりわからない。


 むむっ。黒白二翼、黒と白はユニーク装備を選んだのかぁー。


「うーん」


 あんまり欲しい物がない。

 土地があればクランのホームが造れるけど、建築の素材も無ければ維持費も払えなさそうだし。

 ルーンソードでも選んで、ナギにプレゼント……。


「へ?」


 わたしは巻物の最後に書かれている文字を見て、口をあんぐりと開けた。

 旅券と書かれている。どこへの旅券だろう?


「この旅券ってなんですか?」


「おっ! お目が高いわね。それは、新規エリアの先行プレイ権なの」


「新規エリア……?」


「ええ。この『狼と子羊』の報酬を上位入賞者に配り終えたあと、アップデートが入るの。それで新しいエリアが開放されるんだけど」


「先行して、入れる?」


「そう。他のプレイヤーはアップデート後に特定のクエストをクリアして、そのあと新エリアを目指すことになるのね。でも旅券を持っていればアップデート後、即座に新エリアに進入することが可能ですーって感じ」


「おお! じゃあそれにします」


 わたしは『旅券』を貰うことにした。

 喜ばれる装備品よりも一緒にできる楽しいことの方がいいし。


 ナギが目を輝かせた。


「どんな場所だろうね!」


「綺麗な場所だといいけど……うん? あっ!?」


 おろおろと狼狽(うろた)えているわたしに、アイテムボックスから旅券を取り出したばかりの司会のお姉さんが首をかしげた。


「どうかした?」


「これ……定員ってありますか? わたし、ひとりで行くのはちょっと……」


 出来るのであれば、クランメンバー全員で新規エリアに乗り込みたい。

 司会のお姉さんは旅券を確認すると、誰かにチャットを飛ばしていた。

 左下辺りを見ながら「なるほど」なんて呟く。


「ワンパーティー3名まで、許可するー、らしいわよ? 本来は2名までらしいんだけど、アリカさん後衛だものね」


 どうやら配慮してくれたらしい。

 ナギが後衛職なのも知っているのだろう。


「わたしとナギと……先輩かアーサー、か」


「じゃんけんでもしてもらう?」


「どうだろうなぁー」


 無くしてしまいそうな名刺くらいの大きさの旅券を受け取ると、わたしはそれをアイテムボックスに大事に入れた。

 さて、もうここに用事はない。

 ……順番待ちだとか言っていたから、ランキング4位クインベルドが城の外で待っているかも。

 あの人はヤバい。苦手だ。


 急いで城から出ようと司会のお姉さんに背を向けると、


「そういえば」


 と声が聞こえてきた。


「黒さんと白さんから伝言を預かってたの。……おもしろい勝負だった、また会おう。──ですって」


 はて、アリカもルナルーンも、黒白二翼とは直接戦ったことなんてないんだけれど。

 そもそもイベント中にあのふたりが向かった方向は『南』で、わたしたちは『西』。

 会ってもいないはず。

 わたしたちは顔を見合わせてから、わずかに眉根を寄せた。


 背後で重苦しい音が響く。

 城の門扉がゆっくりと閉じていく。

新章はじまりました。

※次回から隔日更新にします。( ´・∀・`)ノ

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