一緒にゲームしようよ
日本には四季がある。
なんだか最近、二季になりつつある感じがするけれど。
それでもやっぱり暑い夏よりは涼しい春が、わたしは好きだ。
二階にある自室のベランダから桜の並木通りを見ていると、その舞い散る桜吹雪の美しさに目を奪われた。
青い空に白い雲。
髪を揺らす優しいそよ風と桜の花びら。
憂鬱な今日という日を……ほんの少しだけ忘れられた。
「さっさと降りてご飯を食べなさい。初日に遅刻するわよー?」
ああ、やっぱり憂鬱だ。
わたしは急いで制服に着替えるとリビングに向かった。
お母さんがトーストを食べながら、テレビに向かい、情報番組の占いコーナーを見ている。
「あれ、カナは?」
「20分くらい前に出ていったわよ。『お姉ちゃん行ってきまーす』って言ってたじゃない。あんたも『んー、いってらっしゃい』って返事してたでしょ?」
「……うっそお」
そんなのまったく知らない。寝ているわたしは返事ができるのだろうか。
専業主婦の母である此処が見ているのは、どんぐりを持ったリスのキャラクターがゴールまで走るという、謎の占いだった。
「あ、4月生まれのあなたのラッキーカラーは銀色、だってさ」
「銀色? 百円とか?」
「そこは、ほら……あれ? 銀色ってあんまりないわね」
「でしょ」
「それはそうと、制服、似合ってるじゃん」
「見てないくせに」
「画面に反射してたけど?」
「娘の晴れ姿くらい、ちゃんと見てよ」
灰色のブレザーと紺色のプリーツスカート姿は、中学生の頃のセーラー服と比べると、なんだか着ているだけで大人になったようにも感じてしまう。
少し照れくさいので、正直に言ってしまうと見られなくてよかった。
が。
お母さんはくるりと上体を回す。
手には携帯端末。
カシャリという音。
「いっくんに送ろ~っと!」
わたしは唖然とした。
いっくんというのは父だ。海運関係の仕事だから、一度航海に出ると数か月は帰ってこない。
地球の裏側にいることだって珍しくはないし。
「ちょ!」
そんなお父さんからの返信を知らせる通知音が。
「いっくん、似合ってるってさ。高校生活は初日が大事だから、気合いでがんばれって。あと自己紹介のときにはギャグをふんだんに──」
「行ってきます!」
「ちょっと待ちなさい。ネクタイが曲がってる」
少しだけわたしよりも背の高い母が、ネクタイを直してくれた。
照れくさい。
お母さんもにやけている。
わたしはトーストを口でくわえながら家を飛び出た。
途中まで軽快に動いていた足が、まるで足枷でもされたみたいに突然重くなる。
「自己紹介、あるんだよなぁ。嫌だなぁ。すっっっごい、嫌だなぁ」
バターといちごのジャムが塗られたトーストを食べながら、飛び出してきた誰かとぶつかれば、恋愛フラグでも立つのだろうか。とか思ったり。
高校生ならそういうテンプレもアリかも。
通学路には大勢の人がいた。
小走りの人も歩いてる人もいる。
でも。
そうそうぶつからない。
運命的な出会いなんていうのは、運命的だからこそ滅多にないことなんだろう。
だから──あっという間に学校にたどり着いていた。
春。
今日からわたしは高校生だ。
三日月在処【アリカ】
年齢15歳
身長156cm
体重43kg
髪型は黒髪ロングで体型は出るところが出ていないタイプ。
元々は明るかったが、今はぼっち。
クリスティアオンラインでは有名なプレイヤーだった。
天滅のルナルーンが爆撃魔法を使用して敵クランホームを壊滅させた動画は、各動画サイトに転載されたのち、現在でも人気らしい。
ぼっち生活が長かったので人見知り。初対面の人には吃る。