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「いつにも増して不幸そうな顔になってるよ。どうしたの?」
それがナギからの第一声だった。
試験会場から出て、冒険者ギルドのカウンターに座っているわたしは、自分でもわかるくらいには不幸オーラを出している。
「いや、その……」
言葉が出ない。
わたしはナギを見上げた。
「そういえば、ナギはどの職業を選んだの?」
「あたし? あたしは治癒使いだよ、仲間を治せるって書いてたからさー。あーちゃんは魔法使いだよね?」
あばばばばばばばばばばばば。
ふたりとも後衛職だ。たまごは……前衛とか後衛とか関係なく、たまごだけど!
「わたし、精霊使い」
「へーそんなのあったんだ。強そう」
「い、いや……そんなことは」
精霊使いは前作クリスティアオンラインにおいて──最弱と呼ばれていたレア職業のひとつだった。
簡単に言ってしまえば、魔法使いの派生上位職業の一つ、召喚師の劣化版という烙印まで押されていたりもする。そんな職業。
わたしだってやりたくはない。
でも仕方がないんだ。
メイン職業のたまごに驚きながらもサブ職業に魔法使いを入れてみると、魔法使いが進化したのだから。
進化先の選択肢はふたつ。『精霊騎士』と『精霊使い』だった。
特定の条件下で職業が変化するのは知っていたけれど、転職と同時なんてのは知らない。聞いたこともない。
でもどちらかを選ばないといけなかった。
キャンセルが出来なかったのだ……。
そうなれば前衛である『精霊騎士』か後衛の『精霊使い』を選ばざるをえない。
前衛はナギとイノシシの戦いを見て、自分は無理だってわかった。
というか。
「ふ」
「ふ?」
「ふたりとも後衛職! 前衛、どうにかしないと……!」
○○○
一方その頃。
クリスティアオンラインⅡのホーム画面から入ることができる掲示板内のとあるスレッドに、一つの動画がアップされていた。
そこにはふたりのプレイヤーが映っている。
どうやら、戦闘の様子をギャラリーの誰かが録画したものらしい。
とある剣使いさん
なにこの動画
とある槍使いさん
ベルサーニュから出て森の方向にいるイノシシとプレイヤーの戦い
とある魔法使いさん
あのイノシシ、結構強いよね
とある盾使いさん
革の防具を造ってから戦えば楽勝なんだけどな
とある大剣使いさん
このピンク髪の少女は新規プレイヤーなのだろうか。
荒いが、良い動きだ。
とある弓使いさん
私、こんなに動けないよぉ
とある剣使いさん
ソロなのか?
とある槍使いさん
いや、音を上げたらわかると思うけど、白髪のプレイヤーが木の上から指示を出しているみたいだよ
これもある意味、パーティーでの戦闘なんじゃない?
とある弓使いさん
確かに聞こえますね
とある大剣使いさん
見事な指示だ。
相手の動きを完全に読んでいる。
とある盾使いさん
前作からモンスターのAIって進化してるんだろう?
その攻撃パターンを完全に先読みなんてできるものかね
とある大剣使いさん
上位のプレイヤーには必須のプレイスキルだ。
とある剣使いさん
そのスキルがどこでドロップするのか教えてくれ
とある槍使いさん
いや、えっ?
とある魔法使いさん
アリカってPNが出てるな
こんな芸当ができるプレイヤーで、そんな名前のやつは知らんが
とある盾使いさん
前作のPCとPNを引き継がなかったんだろうな
この見た目ならわからんでもないさ
とある弓使いさん
こんな薄幸の美少女PC作れるんですね
私のPCも時間かけて作りましたけど、アリカさんとナギさんに比べたら(涙)
とある名無しさん
【速報】ダンジョン前でPKしてた集団が配信者リゼルに殲滅される
あと生産系のクランが連名で声明を出して、反省するまでバカたちにはアイテムを売らないってさ
とある大剣使いさん
ざまあ
とある槍使いさん
ざまあ
とある魔法使いさん
ざまあ
とある弓使いさん
そんな人たちがいたんですね
とある盾使いさん
ざまあ
とある剣使いさん
ざまあ
とある弓使いさん
ざまあ
こうして掲示板内の話は、イノシシと戦っていたふたりの話題から、PKの話題に変わっていった。
そんな話題も流れる川のように止めどなく次々に変わっていく──。