次の勇者は俺だ
「お前はもういらない。」
俺は今日、Sランクギルド「アリス」からクビ宣告を受けた。
「お前の実力は到底この「アリス」に相応しくない。さっさとAランク…いやBランクギルドがお似合いかなぁ。早く引っ越せ。俺たちは北東に現れた海王を討伐しに行くんだ。」
そう話すのはリーダーのダーチェスは笑いながらそう言った。
「私たちはついに”王”の討伐を命じられたのよ。あなたなんかがパーティに居たら足手まといだわ。」
ダーチェスに金魚の糞みたいにくっついてる女、チエもほくそ笑みながら言った。
ムカつく奴らだ。
こんな奴らと何年も我慢してパーティを組んでやっていたのか俺は…。
「さ、早く出て行け。」
俺はわずかな荷物を持ってギルドを出て行った。
イライラが止まらない。
どこの宿に泊まるとか、仕事はどうするかとか、考え事はたくさんあるのに、考えがまとまりやしない。
腹を立てながら歩いていると、走る少年たちにぶつかった。
「っ!おい!気を付けろ。……ったく、何を急いでいるんだ…?」
角を一つ曲がると、そこにはあふれんばかりの人、人、人。
「きゃあああ!!勇者様ぁ!!こっちむいてーー!!」
「アッッッ!今私を見たわ!ワタシ、私!」
これは…今、最も見たくなかったものかもしれない。
勇者サマの凱旋だ。
世界が最も頼りにしている存在”勇者”今回の遠征で東の闘王を討伐したらしい。
闘王は四天王の一角。あの勇者サマはそれを一人で倒したらしい。
俺はこういう才能に溢れていて、それを自慢するかのような功績をわざと残す奴が大嫌いだ。
勇者のパーティに入りたいという希望は常に殺到している。勇者はそれをすべて断っているそうだ。鼻につく…、鼻につく!!
俺は走り出した。勢いをつけ、思い切り跳び、勇者の目の前までやってきた。
そして、何も言わずに右手で殴りかかった。
勇者は強大な魔法を使うらしい。そういう奴に限って不意打ちの近接攻撃に弱いって決まってる。
だが、俺の拳はぴたりと止められ、さらに勇者は拳にキスをしやがった。
「おやおや、僕のファンかな?過激なアプローチはいけないよ。」
余裕があって透かした態度…!二重にムカつく!
勇者の護衛が俺をひっとらえに来た。
「おい!無礼者を連れていけ。裁判はいらん。牢獄に突っ込め!」
三人がかりで押さえつけられる。俺は抵抗せず、そのまま王都の牢獄へ閉じ込められた。
牢獄で三日が過ぎた。俺に面会したいという奴が来たらしい。誰だろうか。この国で俺とかかわりがある人間なんてそういない。
面会室で待っていたのは三日前殴りかかった勇者だった。
俺は正直驚いたし、意味が分からなかった。でも三日間何も口にしていないからか、反応は出来なかった。
「君…名前はクルス=ポグロムっていうんだね。三日前、Sランクギルド「アリス」から脱退している。その腹いせかな?僕に殴りかかったのは。」
「ああ、そうだ。お前にムカついた。」
「ははは。そうだったのか。うーん、君が僕のファンだったら話は簡単だったんだけどなぁ。実は、君にお願いがあるんだ。」
「お願い?はっ、世界の勇者サマなら大概の事はどうにでもなるだろ?無職の罪人に何を頼む?」
勇者は手を組んで、口元に当て、机に肘をついた。顔はいたって真剣だ。
「君に次の勇者になってほしい。」
「は…?」
俺はぽかんと口を開けた。
「僕ね、もうじき死んじゃうんだ。あ、これ秘密だよ、シーッ。国に戻ってきたのは、後継者探しの為でさ、はやく後継者を見つけたいんだ。イエスかノーか、決めてちょうだい。」
「な!な!待ってくれ!意味が分からない。なぜ自分が死ぬとわかる!?なんというか…その、お前は健康に見えるぞ!」
「勇者として旅をすればわかるさ。危険とは常に隣りあわせ、リスクある選択を何度も迫られる。」
…確かに、大陸の端に行けば行くほど常識では考えられない世界が待っている。それはSランクギルドでの生活で嫌と言うほど体感している。
「じゃあ…なんで俺なんだ。死ぬほど悔しくて言いたくはないが、俺より強い奴はいる。」
「はっはっは!確かに、それはその通りだねぇ!」
勇者は高笑いしながら言った。ちょっとかわいそうだと思ったけど、やっぱりこいつはムカツク。
「でも君には才能がある。勇者に授けられる武器を扱う才能がね。それも圧倒的だ。」
勇者はそう言って懐から一つの砂時計をとりだした。
砂時計はガラスの中には赤色と青色の砂が入り交じって入っている。
「これは”時の砂時計”代々勇者に受け継がれてきた道具だ。…かっこいい剣じゃなくてガッカリしたかな?さぁ、どうする?勇者になるか、ならないか。」
俺は悩まず、机の上に置かれた砂時計をつかみ取った。
「当然なる!次の勇者は俺だ!!」
「オゥケイ!その心意気は素晴らしい。さぁ、王への謁見と能力の継承を済ませたら今すぐ旅立ちだ!」
俺は牢獄を出て、城へと向かった。