09.英雄への第一歩
第一部完結まで連続投稿します!
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
俺は再び、まだ壊れてない的に向かって手を前に突き出した。心臓の鼓動が一段と高鳴る。
「炎魔法【フレイムバースト】」
瞬間、俺の手から身長ほどもある巨大な火の玉が飛び出し、空気を焦がす熱と煙が一気に広がった。玉は的に直撃し、轟音とともに炎の爆発が炸裂する。炎の光が周囲を赤く染め、砂ぼこりが舞い上がった。
「ど、どうだ!!」
ミリアさんとゲルドさんは目を見開き、口元がわずかに震えている。青ざめた顔が夕日の赤に反射して、さらに不気味さが増していた。
一方でエリスお嬢様とココさんはニヤリと笑い、余裕のドヤ顔。俺だけが、これがどれほど凄いことなのか、まだ実感できていない。三者三様の空気が混ざり合い、場が一瞬静止したかのような錯覚に陥る。
「な、なんなんだこの状況は…」
緊張の空気を破ったのは、ギルマスのゲルドさんだった。
「し、信じられない…まだ子供なのに中級魔法を無詠唱で放つとは…」
頭の中が混乱する。誰か、解説してくれ。
「中級魔法を無詠唱で発動できるなんてA級冒険者以上の魔導士だけですよ!こんな天才がいるなんて聞いたことがありません!」
ミリアさんの言葉で少し理解できた。新人冒険者として登録に来た俺だが、実は一流魔導士で、ココさんと同格レベルの冒険者だということか。期待の新人どころか、規格外の存在だった。
「そういえばまだ名前を聞いていませんでしたね。君の名前はなんて言うのかな」
ミリアさんが、まるで姉が小さな子に話しかけるような柔らかな声で尋ねる。
俺が答える前にココさんが口を挟んだ。
「クズイチ…ゲフンゲフン!ウェル・ベルクと言うそうです」
え!? 今クズイチって!?まだクセが抜けてない!?俺はさっき名前とお別れしたばっかなのに!!!
おかえり、クズイチ。
そうだ、これは実力を測るテストだった。魔力も、魔法の種類もまだ余裕がある。目立つのは良くないが、この二人なら言い広めないだろう。せっかくだ、全力を見てもらおう。
残りの的をすべて落とす――決意と共に手を構える。
「雷魔法【サンダーボルト】」
「氷魔法【コールドランス】」
「風魔法【ウィンドウジャベリン】」
「毒魔法【ヴェノム】」
「光魔法【フォトンショット】」
「闇魔法【ダークネス】」
次々と色とりどりの魔法が炸裂する。雷光が地面を割り、氷の槍が空気を切る。風の槍が羽のように飛び、毒の霧が的を包む。光の弾丸はまばゆく、闇の闇が影を深く落とす。衝撃波が耳をつんざき、砂や木片が宙を舞う。
これで俺が見せた属性は全部で9つだが、二人の反応は息を呑んだまま、動きが止まっていた。
「…」
「…」
ちょ、ミリアさん!ゲルドさん!息してない!?生気を感じない!?
「…俺は夢でも見ているのだろうか…。歴史上でもこんな天才は聞いたことがない」
「世界一の英雄になるのも夢じゃありませんね!」
英雄?この世界の英雄って何を意味しているんだろうか。
「ふっふっふ、まだこんなもんじゃありませんよ。ゲルドさん、ウェルくんと剣で戦ってみませんか?」
え? ココさん、ちょっと待って!?
「…ふ…はっはっは!面白い!剣も使えるのか!俺自ら実力を確かめてやる!」
ま、待って!俺はココさんに「執事足るもの強くて当然」と言われ、半ば強制的に木刀で剣術を学んでいたが、ボコボコにされたことしかない!
頭で考えている間にゲルドさんはやる気満々で木刀を構える。俺にも子供サイズの木刀が渡され、仕方なく構えるしかなかった。
「さぁ!どっからでもかかって来い!」
あぁ、やるしかないのか。やるだけやってみるか。ココさんの意図は必ずあるはずだ。
そのとき、固有魔法【ラーニング】の効果が発動。ココさんから学んだ剣術が、頭と体に直接流れ込む。
わかる、わかるぞ。この木刀をどう振るえばいいか。理屈でなく、体で覚える感覚が確実にある。
縮地。
一瞬でゲルドさんの懐に飛び込む。
ガッ!!
「うぉ!?」
ゲルドさんは咄嗟に反応し、攻撃を防ぐ。しかし、俺の体が感じる一瞬の隙は確実にそこにある。
ガガガガガッ!
激しい剣戟が飛び交い、火花が散り、木片が空中で弾ける。だが、徐々に俺の攻防は押され、防戦一方になりつつある。経験の差か。
「く!?」
「はっはっは!最初は驚いたが、まだまだ俺を倒すには足りんぞ!」
大人気ないが、一人前として認めてくれているのかもしれない。
「ココ、ゲルドとやらはどのくらい強いのじゃ?」
「簡単にいうと私より強いですね。私と手合わせして2勝8敗といったところです。ウェルくんが剣だけでゲルドさんを倒すのは相当難しいです。剣だけでは…ね」
防戦から次第に押される。いくら他人の経験が頭に流れ込んでも、体が追いつかなければ意味がない。
だが、まだ見せていない魔法がある。これはテストだ、ズルじゃない!
「空間魔法【テレポート】」
一瞬で俺はゲルドさんの背後に移動した。距離は約3歩分。
「な、何!?消えた!?」
ぴと
木刀を首元に当て、俺は勝利した。
「……ふ……はっはっは!参った!俺の負けだ!」
剣ではゲルドさんに及ばなくとも、魔法を組み合わせれば明らかに上回る。
本日披露した魔法は全10種類。全属性魔法を操り、剣術もココさんレベルに一流。
「す、凄すぎです!」
ミリアさんは興奮と驚きで声を震わせた。ここでテストは終了。
結果、期待の新人ウェル・ベルクはA級冒険者に任命。ギルド初の特例であり、歴史的瞬間だった。
しかし、これが英雄への第一歩であり、波乱の幕開けでもあることを、まだ誰も知らない。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。




