72.三大闇ギルドの一角【グリムリペア】
第4章完結です!
次回は10/29から第5章が始まります!
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
地を割るような轟音が、大地の奥底から響き渡った。
森の木々がざわめき、空を舞う鳥たちが一斉に飛び立つ。
魔物たちが、突然の大暴走を起こしたのだ。
獣たちの咆哮が重なり合い、血と土の匂いが空気を満たす中、ブレイブハートと俺たちは最前線で刃を交えていた。
視界の端で炎が弾け、風が唸り、魔力の閃光が闇夜を裂いていく。
――そして。
あの巨躯が現れた。
全長十メートルを超える灰色の巨獣。
全身を覆う鋼のような毛皮、目は血のように赤く光り、踏み出すたびに地面が揺れる。
危険度Sランク――ジェネラルベヒーモス。
「ふぉっふぉっふぉ! 危険度Sランクのジェネラルベヒーモスがいたにもかかわらず、大したもんじゃわい!」
戦闘後、焦げた草原を見渡しながら国王陛下が愉快そうに笑った。
だが、その笑みの奥には確かな驚きと誇りが見えた。
このベヒーモスを討伐したのは、俺とS級冒険者レオン・スティーブン、そしてテンちゃんを含めたA級冒険者集団【ブレイブハート】。
総力戦だった。
「手助けの必要がないようで安心したわい」
国王陛下は本来、後方で控えていた。
いざという時には自ら前線に出るつもりだったらしい。
「よし! 全部収納できました!」
俺は血と汗に濡れた手を拭いながら、倒した魔物たちの死体を全て【アイテムボックス】に収めた。
ブレイブハートの仲間たちがそれを見て、ほっと息を吐く。
「さて、帰るとするか!」
レオンさんの一声で、冒険者たちは帰還準備を始めた。
空にはまだ薄く煙が漂い、赤く染まった夕陽が戦場を照らしている。
「では、俺たちは先に行きますね! テンちゃん、捕まって!」
「え? え?」
テンちゃんがきょとんとする中、
「空間魔法【エクストラテレポート】」
魔法陣が瞬時に展開し、俺とテンちゃんの姿はその場から掻き消えた。
「中級魔法の無詠唱だと!?」
二刀流の魔法剣士キーファ・コッカーが、目を見開いたまま叫ぶ。
「こ、こりゃたまげたねぇ~」
女性武道家テリーサ・ワイラーは陽気な声で笑ったが、その額にはしっかり汗が浮かんでいた。
「……むにゃむにゃ……」
モニカ・ダート――寝落ち常習の魔導士は、相変わらず眠っている。
「噂以上の逸材だね」
レオンは腕を組みながら、静かに笑った。
S級冒険者である彼でさえ、俺の才能には舌を巻いているようだった。
「ふぉっふぉっふぉ! すごい若者じゃのう」
国王陛下も嬉しそうに頷く。
その瞳の奥には、次代への期待が確かに灯っていた。
「では、我々は徒歩で移動しましょう」
レオンの提案に、ブレイブハートの面々も頷く。
沈みゆく太陽を背に、長い影を引きながら、彼らはギルドへと向かった。
「ワシも先に帰らせてもらうぞ?」
国王陛下も、無詠唱で【エクストラテレポート】を発動できる。
しかし。
「いえ、歩きながら報告したいことがあります。そして、助言もして頂きたいと思っています。
ブルガンリルム王国の国王としてではなく――冒険者ランク元S+2の大魔導【ヴィヴィアン・ブルガンリルム】様として」
レオンの声音には、重みと敬意があった。
ブルガンリルム王国の国王、ヴィヴィアン・ブルガンリルム。
三十年前、千の魔法を操った大魔導。
当時、彼の名を知らぬ冒険者はいない。
「懐かしい呼び名じゃのう」
ヴィヴィアンは肩を揺らして笑った。
その目には、かつて戦場を駆け抜けた冒険者の光が宿っていた。
ブルガンリルム王国は【弱きを助ける】という理想を掲げ、冒険者だけで建国された国。
その理念に惹かれ、各地から志を同じくする者たちが集まった――それが今の繁栄の礎だ。
「して? 改まってなんなのじゃ?」
レオンの表情が、ぐっと引き締まる。
「今回の魔物騒動……恐らく、楽園の使徒【ラプラス】が絡んでいます」
その名を聞いた瞬間、ヴィヴィアンの瞳が一瞬だけ鋭く光った。
――楽園の使徒【ラプラス】。
所在も目的も不明。
信仰なのか、狂気なのか。存在すら疑われる過激宗教団体。
「楽園の使徒【ラプラス】か……。やれやれ、これだけ探っておるのに、ほとんど情報が掴めんとは。
闇ギルドより厄介じゃわい」
ヴィヴィアンの声が、低く響いた。
「【グリムリペア】同様に、人数も所在地も一切不明。どの程度の規模で動いているのか分からないので、うかつに手が出せません」
「【グリムリペア】か……三大闇ギルドの一角じゃな。ラプラスもそれに匹敵するかもしれん」
闇ギルドは基本的に情報を開示していないのでどのくらいの規模でどのくらいの数があるのかほとんど把握できない。
各冒険者ギルドの命がけの諜報活動によってやっと明らかになっていく。
その闇ギルドの中で飛び抜けて巨大な組織なのが三大闇ギルド――【ジャブラ】【ノワ】【グリムリペア】。
かつて、冒険者ギルドが総力を挙げて【ジャブラ】と【ノワ】に挑んだが、S級冒険者数十名が全滅。
つまり、S級冒険者よりも三大闇ギルドの方が強さが上なのだ。それ以降、三大闇ギルドの討伐がされていない。
ラプラスは、そんな三大闇ギルドと同じレベルかそれ以上と考えられている。
「ラプラスがその三大闇ギルドと同等、もしくはそれ以上……考えたくはありませんね」
レオンが小さく息を吐く。
「ふぉっふぉっふぉ! わからんことを考えても、わからんままじゃ。今は情報を得て、わかることだけを考えればよい」
ヴィヴィアンは軽く笑って杖を地面に突く。
その音が、まるで警鐘のように響いた。
「そうですね。承知しました」
「ふぉっふぉっふぉ! お主は昔から堅苦しいのう。
もっと肩の力を抜いた方がええぞ」
レオンは苦笑いを浮かべる。
「ラプラスの情報も大事じゃが――来週の祭りを忘れてはおらんじゃろ?
ブルガンリルム王国の【ギルドバトル】じゃ! 楽しみにしておるからのう!」
ヴィヴィアンの笑い声が、薄暮の街道に響く。
その声を背に、レオンは小さく息をついた。
――嵐の前の静けさ。
そして、俺たちの物語は、次なる戦いへと向かっていくのだった。
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