525.エリスの成長(2)
ノームの体が弾き飛ばされ、土煙を巻き上げながらサラマンダーとウェンディーネのいる方向へと転がっていった。
「すぐに殺してやる!」
エリシアの双眸が紅く光り、空気が揺らぐ。彼女の足元から魔力の奔流が弾け、地面を砕きながらその姿が一瞬で掻き消えた。
ギュン!!
次の瞬間、轟音とともにエリシアの残光が閃き、サラマンダーとウェンディーネの方角へと突進していく。アルテナからは瞬く間に距離が離れた。
「今じゃ! 意外と脳筋で助かったのじゃ!」
エリスが口元をゆるめる。
それは余裕と呼べるものではなく、わずかな勝機を逃すまいとする戦場の直感だった。
力をつけたことにより余裕があるだけでなく、エリシアにとってエルフ族は全員復讐の対象。
すぐに血が昇り、サラマンダー、ウェンディーネ、ノームを殺そうとした。
「今のうちにアルテナを治療するのじゃ!」
「はい!」
タッタッタッ――。
粉塵が舞う中を、シルフとエリスが駆け抜けた。
「うっ…シルフ…エリスさん…ダメです…すぐに止めさせないと…あの3人では…1分も経たずに殺されてしまいます…」
アルテナの声は震えていた。
間近で感じたエリシアの魔力は、あの三人の実力では、足止めどころか触れることすらできない――そう悟っていた。
「心配ないのじゃ! 三人とも妾が光魔法【ブレッシングブースト】をかけてあるのじゃ」
エリスの声が戦場に響く。
光魔法【ブレッシングブースト】。
それは光魔法【バフ】の上位互換。魔力と身体能力を五倍にまで引き上げる上級光魔法である。
ただし、ウェル、サヤ、テンテン、アルテナなどエリスと実力差が大きい人間には使用できない。
「光魔法【ブレッシングブースト】!? しかも三人まとめてかけているのですか?」
アルテナは目を見開いた。
上級光魔法【ブレッシングブースト】は、魔力消費が激しく、かけている間エリスの魔力はずっと削られていく。
だが、彼女の表情には一片の迷いもない。
シルフがエリシアを攻撃しなかったのは、【ブレッシングブースト】をかけていないからである。
「さっそく光魔法で回復させるのじゃ! シルフは補助を頼む!」
「はい!」
今日出会ったばかりとは思えないほど、二人の動きは息が合っていた。
それだけ頼りになると信頼されたのだろう。
「我が名において来たれ光の精霊
万象を統べし天空に座
無垢なる光輝より絡み合う意志
闇を裂け
絶望を祓え
理に従え
聖域に祈れ
あらゆる罪を赦し
その温もりは命を紡ぐ導き
無限の慈愛とともに
今一度一つとなり
聖なる浄化で清めよ
超級光魔法【ディヴァインヒール】!!」
カァァァァァ!!!
空気が震え、白に塗り替えられる。
アルテナの身体を包み込んだ光は、まるで太陽の核のような輝きを放つ。




