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502.リバースペイン(2)

追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!

「さぁ本気で来いよ!! 俺に【痛み】を教えてくれ!!」


 冷たい岩壁にその狂気じみた声が反響する。

 黒煙のような瘴気が地を這い、崩れかけた大聖堂のような瓦礫の中で、デーモンがニヤついた笑みを浮かべた。


「言われなくてもやってやるネ!!」


「行くでござる!!」


 ズガッ!!


 足元の石床が砕け、二人の足裏から衝撃が広がる。

 テンテンとサヤの身体がほとばしるように弾け飛び、風を裂いてデーモンに向かう。


 ギュン!!


 先にしかけたのはサヤだった。

 鞘鳴りとともに、刀が閃光のように抜ける。


「滅魔流奥義【零魔崩滅閃】!!」


 その声と同時に、空気が震えた。

 サヤの全身がひとつの閃光となり、抜刀の軌跡が白線を描いてデーモンを斬り裂く。


 ズバン!!!


 確かな手応え。デーモンの胸元に深々と斬撃が刻まれた。

 しかし——


「ぐはぁ!?」


 同じ箇所。サヤの胴にも同じ傷が走る。

 刃が返ったように、彼女自身を斬ったのだ。


 ドサッ。


 血飛沫が宙を舞い、サヤはそのまま崩れ落ちた。


「サヤ!! お前…何したアルか!!」


 テンテンの叫びが空気を震わせた。怒りが一気に身体を駆け巡る。

 地面を蹴り、砂塵を巻き上げながらデーモンに突撃する。


「八極気功拳・剛の型【仙王崩拳】!!」


 スガッ!!!


 拳が地鳴りのような風圧を生み、デーモンの脇腹にめり込んだ。

 しかし、その瞬間——


「かはぁ!?」


 テンテンの口から鮮血が溢れた。

 脇腹に鋭い痛みが走り、そのまま身体が吹き飛ばされる。


 ズサァ…!


 地面を転がりながら、テンテンは血を吐き出す。


「おーい? どうしたー? いてぇのは脇腹かー?」


 デーモンはゆっくりと歩み寄り、血の滴る顎を吊り上げて嗤う。

 その声音には、愉悦と狂気しかなかった。


 しかも——テンテンがどこを負傷したのかを、まるで見透かしているように言い当てる。


「な…に…を…した…アル…!?」


 テンテンは苦痛に顔を歪めながらも問いかけた。


「んー? 俺は何もしてないぜー? お前らが自分で深手を負っただけだぁぁ!!」


 デーモンは腹を抱えて笑う。

 その声は耳障りな金属音のように響いた。


 サヤもテンテンも確かに攻撃を命中させた。

 だが、その代償として自分たちが傷を負った。


 一体、どういう理屈なのか。


「俺の呪術【リバースペイン】の力だ!! 俺に攻撃したらダメージが返ってくる! そして俺は呪術に守られてノーダメージだぁ!!!」


 呪術【リバースペイン】——。

 それは、攻撃を仕掛けた者に同じ攻撃を返すスキル。


 つまり、デーモンを攻撃すればするほど、傷つくのは自分たちなのだ。

 さらに呪術に守られ、一切の痛みを受けない。


「…そ…そんな反則みたいな…」


 テンテンの唇から震える声が漏れる。

 拳を握る手が血で滑り、震えていた。


 サヤの【零魔崩滅閃】も、テンテンの【仙王崩拳】も、どちらも己に返ってしまった。

 皮肉にも、全力の一撃が自らを滅ぼす結果となったのだ。


 そして、デーモンはただの一つも傷ついていない。

 その姿はまさに無敵の盾そのものだった。


「もうおしまいかー?」


 デーモンは退屈そうにあくびをし、ゆっくりと腕を広げる。

 風が渦を巻き、血の臭いが濃くなる。


「…痛み…痛みを…俺に痛みを教えてくれよー!! ギャハハハハ!!」


 天を突くように両手を掲げ、空へ向かって咆哮する。


 テンテンとサヤは血に染まった床の上に横たわり、息を荒げる。

 デーモンは無傷のまま、嗤いながらその様子を見下ろしていた。


「(…こいつ…強すぎるアル…!!)」


 テンテンの心に絶望が広がる。

 自分の拳が、悪魔に届かない。

 この戦いは、常識の通じない呪いの領域へと踏み込んでしまっていた。

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