493.思い出と現実
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
数年前。
大教会本部――荘厳な石造りの天井の下、魔力の光が差し込む訓練場に、金属の音が鳴り響いていた。
新しく選ばれた守護精霊のシルフとウェンディーネが、まだぎこちない動きで槍を構えている。
空気が張り詰める中、ウェンディーネの汗が床に落ちる音がやけに大きく感じた。
「おいウェンディーネ! そんなに気を張るなよ! 身体が持たんぞ!」
サラマンダーが豪快な声で呼びかける。炎のように赤い髪が光に反射して眩しかった。
その声に気遣いが滲んでいたが、ウェンディーネは手を止めない。
「…サラマンダーさん…まだ足りないんだ…力が…もっと守る力が…!! こんなんじゃいつまで経ってでも一流の戦士になれない!!」
彼の瞳には焦燥が宿っていた。
ウェンディーネは子供の頃、両親を人族に奴隷として連れ去られた過去がある。
その後、酷い扱いの末に命を落とした両親の亡骸が、彼の故郷の森のそばに打ち捨てられていた。
その悲しみの中で泣き崩れていた彼を拾ったのがクラルテだった。
それ以来、彼は大教会【デウス】に住むことになり、ただひたすら「もう誰も奪わせない」と誓って鍛錬を重ねてきた。
ちなみに、彼の両親を連れ去った人族はかつての奴隷国家【ヴェルト】――後に帝国へと変わる国だ。
「ときには休むのも大事です。強い戦士を目指すなら力だけでなく心も鍛えなければなりません」
サラマンダーの隣に、静かに土の精霊ノームが現れ、穏やかな声で助言を送る。
その声には、長年戦いを見てきた者だけが持つ重みがあった。
「そうですよ…焦っても強くなりません。ゆっくりでいいから少しづつ成長しましょう!」
今度は風の精霊シルフが舞うように降り立ち、ウェンディーネの肩に手を置いた。
ふわりとした風が彼女の髪を揺らし、焦りに覆われた心を少しだけ和らげた。
「ノームさん…シルフさん…そうですよね…ボク…焦ってました」
ウェンディーネは深呼吸をして槍を下ろし、訓練場の片隅に置かれた木桶に槍を戻した。
「まぁ何はともあれだ! 俺たちはエルフ族の中でもエリートとして選ばれた! シルフとウェンディーネは今日からだからまだまだこれからだ!!」
サラマンダーが笑いながら肩を叩く。
ノームとサラマンダーはすでに長く守護精霊として活動しており、まるで兄貴分のような存在だった。
とくにノームは最古参で、この中で一番の実力者だ。
「前任のウェンディーネとシルフは勝手な行動を取って殉職してしまいましたが、四人で力を合わせれば誰にも負けないと信じています」
ノームの声には、かつての仲間を悼む静かな決意があった。
もう二度と、誰も失いたくない――そんな想いが伝わってくる。
「…分かりました。クラルテ様を…大教会デウスを守れるような立派な戦士になります!」
ウェンディーネの声が、訓練場の天井に反響する。
その瞳はもう迷っていなかった。
「おう! その意気だ! ついで酒の飲み方を教えてやろうか?」
サラマンダーが豪快に笑って肩を組む。
その様子にシルフがすぐさまツッコミを入れた。
「サラマンダーさん! ウェンディーネに変なこと教えないでください!!」
ノームは苦笑し、ウェンディーネは小さく笑った。
四人の間に、あたたかい空気が流れていた。
その笑い声は、いつまでも訓練場に響き続けていた。
―――――――――――――――――――
そして、現在。
黒雲が渦巻く空。
焦げた大地の上に、血を吐いて倒れ伏す四人のエルフ族がいた。
彼らの前には、二体のドラゴンが立ちはだかっていた。
その鱗は光を反射し、見る者の心を圧するほどの存在感を放っている。
竜たちの咆哮が響き、焦げた大地がさらに崩れていった。
シルフ、ノーム、ウェンディーネ、サラマンダー――彼らは二体のドラゴンに敗北したのだった。
イエロードラゴン
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ブルードラゴン
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