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466.飛行船【ルシエール】

追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!

 ドナーは一度、ラビリンスを離れ、グリムリペアの仲間と連絡を取ることになった。

 乾いた風が吹く街道を歩きながら、通信魔具を耳に当てる。遠くの空では、砂嵐がゆっくりと地平線を飲み込んでいた。


 グリムリペアのボス【キュリア・ロザリオ】は、大教会デウスの大司教【クラルテ】に直接掛け合い、事情を説明した上で、本部の場所を教える許可を取りつけた。

 その報せを受け、ドナーはすぐに動いた。


 そして彼が連れてきたのは、グリムリペアNo.10――【クレスト・キオール】。

 ドナーは極度の方向音痴のため、道案内をすると聞いたグアルが「絶対やめろ!」と怒鳴り代わりを送ると言い出した。


「ほっほっほ。ワシはクレスト。大教会への道案内はドナーに代わってワシがやることになった」


 ドナーと入れ替わりで現れたのは、機械まみれの便所サンダル姿という、なんとも個性的な老人。

 白髪を無造作に束ね、腕や背中には大小の機械やパーツがぶら下がっている。油と金属の匂いが漂うその人物に、場の全員が思わず息を呑んだ。


「クレスト…確か天才発明家として有名なあのクレストなのですか…!?」


 ココが驚きの声を上げる。

 クレストは超科学都市ラディソスから離れ、今は独立して自営業を営む発明家。

 その腕は確かで、ギルドバトルで使用される結界装置などにも多大な貢献をしてきた。


 そんな人物が、闇ギルドの一員だという事実に、ココは目を丸くする。


「ほっほっほ! 自己紹介をする必要はないようじゃな! 人生いろいろとだけは言っておこうかのう」


 クレストは朗らかに笑い、どこか飄々とした態度を崩さない。

 だがその瞳の奥には、確かな経験と知識を秘めた光が宿っていた。


 エリスたちは質問したいことが山ほどあったが、今はウェルの命が最優先。

 彼を救うため、クレストの協力を得ることになった。


 ――ラビリンスの街の外。


 干ばつに焼かれた大地の上で、突如として巨大な影が地表を覆った。

 砂を巻き上げながら、空間が揺らぐ。


「な、なんじゃあれは!?」


「何も無いところからいきなり現れたアル!」


「不思議ですわ!」


 エリス、テンテン、リーズが同時に声を上げた。

 そこに現れたのは、巨大な鉄の塊――飛行船だった。


「ほっほっほ! ワシの飛行船【ルシエール】じゃ! ずっと見えなかったのは【ステルス機能】というのがあってのう」


 クレストが胸を張る。

 その瞬間、彼の背中の工具がガチャガチャと鳴った。


 そして始まる、専門用語だらけの長い説明。


 ペラペラペラペラ……


 魔力干渉フィールドだの、光屈折システムだの、一同にはまったく意味が分からない。

 ぽかんと口を開けたまま、ただ頷くしかなかった。


「…ということで、この飛行船に乗って大教会デウスの本部にいくのじゃ」


 ようやく説明が終わり、皆が一斉に安堵の息をつく。


「この奇っ怪な鉄の塊…どうやって飛ぶでござるか…!?」


 サヤが目を細めて船体を見上げた。

 ウェルたちは以前、【空飛ぶクジラ】の船に乗ったことがある。

 この世界では、巨大な精霊や魔法を動力にした飛行船が存在するが――目の前のこれはまるで違う。


 甲板には魔法陣の一つも見当たらず、精霊の気配もない。

 ただ無数の鋼鉄の羽根と、無骨なパイプが伸びているだけ。


 それどころか、一個人がこんな巨大な飛行船を所有していること自体、常識ではあり得ない話だった。


 だが、それを可能にしているのが――クレストという男そのもの。

 飛行船【ルシエール】は、彼の狂気的な執念と才能で作り上げられた、自作なのだ。

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