46.戦いの果て
第2部完結まで連続投稿します!
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
あー…この感覚…。
俺はまた無理をして眠り込んでしまったらしい。
思えば、イレギュラーが起こるたびに俺は倒れている気がする。もう少し余裕を持って動きたいものだが――余裕がないからこそイレギュラーなんだよな。
それにしても、今回はどれくらい眠ったのだろう。身体が少しずつ軽くなり、意識が水面へと浮上するようにハッキリしていく。
パチッ。
目を開けると、見上げたのは木の梁がむき出しになった古い家の天井だった。湿った木の香りが鼻に残り、どうやらベッドではなく布団で寝かされているようだ。周囲を見渡すと、薄暗い部屋には誰の姿もなかった。
エリスお嬢様とテンちゃんはどこに行ったのだろう?
「………腹減った…」
口から漏れたのは情けない声だった。胃がきしむように空っぽで、暫く何も食べていない感覚がある。
「……とりあえず…水…」
乾いた喉を潤したい。
「…よっころせっと…」
身体を起こした瞬間、思わずおっさんみたいな掛け声を漏らす。……まぁ、中身はおっさんなんだから仕方ないか。
「あ、起きたアルか!」
戸口から軽快な声。振り返れば、元気そうなテンちゃんが立っていた。
「おはようテンちゃん。俺ってどのくらい眠ってた?」
まだ声が掠れて寝ぼけている。
「3日眠っていたアル。相当無理したアルね!」
三日間もか……。やっぱりそうなるか。もう慣れてしまった自分が少し怖い。
「とりあえず水飲むネ!」
テンちゃんが差し出してくれたのは、澄んだ水の入ったコップだった。光を受けてきらきらと揺れる水面に、思わず感謝が込み上げる。
「ありがとう!」
ゴクゴクッ……プハァ!
「美味しい水だ…」
山奥から引かれた大自然の恵みが喉を駆け抜ける。全身に活力が戻ってくるようだ。
「やっと起きたか…ウェル」
厳しい声と共に、エリスお嬢様も部屋へ入ってきた。
「おはようございます、エリスお嬢様」
「無理をするなと言っても、どうせまた無理をするだろうから…もう説教する気もないのじゃ」
ついに呆れられてしまった。まぁ、これで三度目だからな。言い返す言葉もない。
「…ははは…」
結局また無理をするだろう。冒険者として。仲間のために。そして――エリスお嬢様のために。
「おーやっと起きただべか!」
今度は村長さんと奥さんが顔を出した。
「お祝いに今日はたっくさんうんめぇもん食わしてやるかんな!」
それは楽しみだ。腹が鳴る。
「あんたたつのおかげで村が救われただ。ほんと感謝しきれねぇだ」
良かった。本当に良かった。ヒュドラを倒した直後に気絶したから、村の無事を直接確認できていなかった。胸の奥から安堵が溢れる。
「いえいえ、冒険者として当然のことをしたまでです!」
「ほんとに謙虚すぎて頭が上がらねぇだ」
冒険者として当然のこと。それが俺の信条であり、ギルドでクエストを受けるたびに胸に刻んでいる言葉だ。転生してからずっと、変わらずに。
「ウェル!! ヒュドラの解体が終わって素材をわけたアルが、全部でいくらになるアルか!?!?」
テンちゃんが目を輝かせている。そういえば今まではグリーンドラゴンやオークロードを倒しても、【マナメイク】で作られた幻だったから素材が手に入らなかった。今回は本物だ。
「いくらになるんだろう?でもかなりの額になりそうだ!」
Sランク魔物の素材。これはとんでもない価値があるはずだ。
「山分けしても小金持ちになりそうな予感アル!」
テンちゃんの目が完全に金貨マークに見える。
「はっはは!」
俺、エリスお嬢様、テンちゃん――やっぱり最高のパーティーだ。
「これからもよろしく!テンちゃん!」
「もちろんアルー!ウェルたちと組んだらお金がもっと稼げそうアル!」
……やっぱり目が金貨になっている。(Part2)
「ま、妾たちの力ならまたSランクの魔物なんてぶっ飛ばせるのじゃ!」
エリスお嬢様、それは言いすぎです……。俺は痛感している。まだまだだ、と。だが新しく手に入れたスキルがある。
ラーニングにて習得――【ヒュドラファング】、【ヒュドラゲール】。
牙の力と鱗の防御。どちらも強力だ。恐らくAランクの攻撃なら防げるだろう。ラーニングが成長したのか、強敵との戦いで幅が広がったのか……。まだまだ魔法は謎だらけだ。
それでも、この力を研ぎ澄ませていくしかない。次は【気】と【魔】の融合を、せめて一分は持たせたい。
そして数時間後――。
「そんだら! この村を救ってくれた英雄たつに!乾杯!!!!」
「カンパーーーーーイ!!!!!!!!」
歓声が夜空を震わせる。村中が灯籠と焚き火に照らされ、温かい光と笑い声に包まれていた。
村人たちが腕によりをかけた郷土料理が長い木の卓に並ぶ。山菜の香り、肉の炙り焼き、どれも素朴だが心に染みる味わいだ。
「もぐもぐバクバクガツガツ!!」
久々の食事に箸が止まらない。口いっぱいに広がる旨味に、腹も心も満たされていく。
「このお酒美味しいアル!」
「美味じゃ」
テンちゃんとエリスお嬢様まで杯を掲げている。……ちょっと待て。
「未成年はお酒飲んでは…!」
「固いこと言うなアル!今日は無礼講ネ!!」
「ギルドでは飲ませてくれんからのう!妾は成人じゃ!今日は飲んでやるのじゃ!!」
エリスお嬢様、ちょっと年齢バレてません!?前世を加えれば確かに成人だろうけど……三十路かも、なんて思ってしまった俺は即座に心の中で口をつぐんだ。
けれど、確かにギルドでは飲めない。街では未成年扱いされる。ならば――
「今日は飲むぞーーーーー!!!!」
見た目は十三歳でも中身は三十六歳だ。酒ぐらい飲ませろ!!
こうして俺たち三人は、初めて酒を酌み交わす仲間となった。
久しぶりに飲む酒は、驚くほど旨くて――そして、驚くほど効いた。翌朝、頭を抱えることになるとは知らずに。
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