44.新技再び
第2部完結まで連続投稿します!
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
「俺は…守りたいんです! 命だけじゃない! できるだけ大切なものを! 俺は冒険者だから!」
空気は冷たく、土と焦げた木の匂いが鼻を刺す。
村や建物はまた作ればいい。それも選択肢。しかし、一生懸命に作り上げたものを、怪物に壊されるのはあまりに悲しすぎる。
「できるだけ…足掻いていたい! 後悔したくないから!」
俺は胸の奥から絞り出すように、エリスお嬢様とテンちゃんへ想いを告げた。
「ウェル…」
その言葉に、テンちゃんは返す声を失った。そしてエリスお嬢様が話しかける。
「…自分の命を犠牲にするお人好しが一番の根底じゃろう? 全く、しょうがないやつなのじゃ」
まぁ、そうなんですよねぇ。わかっていても足は止まらない。
「ウェルは顔の割に頑固アルな。しょうがないから付き合ってやるアル!」
顔の割にって…。
「シャアアアアアアアア!!!!!!!!」
大地が揺れ、巨体が森を割って現れる。ヒュドラだ。無数の蛇の首を持つその怪物が、血の臭いと共にこちらへ迫ってくる。地面に残る爪痕と焦げた草木が、その凶暴さを雄弁に語っていた。
このままヒュドラが前進すれば村は飲み込まれる。
「なんとか食い止めなければ!」
しかし、どうする?胸の鼓動がうるさいほど鳴り響く。
「アタシが時間を稼ぐネ!」
「テンちゃん! 無理をしては…」
彼女の胸は荒く上下し、血に濡れた衣が痛々しい。アバラが折れた重症だというのに。
「ウェルの想いは受け取ったアル…時間稼ぎくらいわけないネ!」
俺の気持ちを受け取ったからこそ、彼女は無茶を選ぶ。あぁ、そうか…。俺も同じだ。お互いさまなのかもしれない。
「光魔法【ヒール】!」
エリスお嬢様が、光の魔法を放つ。柔らかな光がテンちゃんを包み、ひび割れた骨に一瞬の安らぎを与える。
「揃いも揃って無鉄砲なやつらじゃ。無詠唱じゃがこれで少しは動けるようになるじゃろう」
光が消えたあとも傷は残る。それでも立ち上がれるだけの力を取り戻す。
「エリス! 感謝するアル!」
テンちゃんは地を蹴り、ヒュドラの進路に立ちはだかった。
「シャアアアアアアアア!!!!」
迫る巨体。足元の土がえぐれ、空気が震える。
「来いアル!!!!」
ズガーン!!!! ズガーン!!!!
大地が割れ、岩が砕け飛ぶ。テンちゃんはその中で舞うようにかわし、拳を打ち込んで注意を引きつけていた。
「本当に硬いウロコアル…」
刃をも通さぬ鱗に、拳が沈むたび骨まで響く。だが彼女は叫んだ。
「でもあきらめないアル! 仲間があきらめないならアタシもあきらめないアル!!」
幾度も繰り返される八極気功拳。拳の衝撃で空気が爆ぜるたび、ヒュドラの首がしなり、唸り声を上げる。
「今のうちにウェルを回復させるのじゃ!」
エリスお嬢様の詠唱が響き、白い光が俺の体を癒す。冷たい体に再び熱が戻り、痺れた指先が力を取り戻す。
「はぁ…はぁ…まだ…まだアル!!」
テンちゃんの息は荒い。傷口から血が滲み、彼女の足元を赤く染めていく。それでも拳を止めない。
その時――。
「うおおおおぉぉぉおおおお!!!!」
大地を揺らす雄叫び。背後から駆け寄る人影。
「なにアル!?」
テンちゃんが振り返ると、そこには村人たちがいた。顔は決意に満ち、手には古びた剣や農具を握りしめている。
「オラたつも戦うど!」
「この村はオラたつの村だ!」
「好き勝手にさせねぇべ!」
震える声の奥にあるのは、恐怖ではなく覚悟だった。
「田舎モンだげど団結力は負けねぇだ!」
「隙あらば攻撃するだ!!」
村人たちが散開し、鎌や斧でヒュドラに挑む。連携はぎこちないが必死だ。
「アタシに任せるアル! 取っておきをお見舞いしてなるネ!!」
テンちゃんが残る【気】を練り上げる。空気が震え、彼女の手に蒼白い光が集まっていく。
「八極気功拳!!! ……【超発勁】!!!!!!!!」
ズガーン!!!!
大地を割るほどの衝撃が走り、ヒュドラの一つの頭が陥没した。土煙が上がり、空気が爆ぜる。
「…あとは…任せるアル…」
力尽きたテンちゃんは地面に倒れ込んだ。
「シャアアアアアアアア!!!!!!!!」
ヒュドラの影が覆いかぶさる。鋭い牙が迫り――。
「待て!!!! ヒュドラ!!!!」
声が空気を裂いた。
犬耳に尻尾、痩せた身体に鋭い瞳――ワンコ姿の少年。ウェル・ベルクが立っていた。
その頃、エリスは地面に膝をつき、血の気を失った顔で笑っていた。
「ぜぇ、ぜぇ、何とかしてやったのじゃ…妾がここまでしてやったのじゃ。勝ってくれなければ地獄でお仕置してやるのじゃ!」
ここまで繋いでくれたみんなの想いを無駄にできるはずがない。
「ラーニング発動!!!!」
俺は左手に【気】を、右手に【魔力】を集める。手のひらで光と力が渦巻き、轟音を立てる。
「【気】と【魔】の融合!!!!」
指先から火花が散り、空気が震えた。武器を通さず、掌に直接凝縮させる。
「凄い力を感じる!」
圧倒的な力のうねりが身体を突き抜ける。これなら――ヒュドラを倒せる!
だが。
「もって10秒といったところか…」
決着をつける猶予は、わずか10秒。
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