43.命以外の大切なもの
第2部完結まで連続投稿します!
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
ラーニングの力によって【気】と【魔】の融合を試みたウェル・ベルク。
しかし、その集中はヒュドラの咆哮によって無残に打ち砕かれ、膨大なエネルギーは制御を失い暴発した。
ウェルは全身を打ち据えられ、轟音の中に倒れ込んでいた。
「ウェルーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
焦燥に満ちた声が森を震わせる。叫んだのはエリス・グランベルとリン・テンテン。
二人は砂煙を蹴立て、倒れたウェルに駆け寄った。
「ウェル! しっかりするアル!」
テンテンが肩を抱き起こし、必死に呼びかける。しかし返事はない。
「起きるのじゃ! ウェル!」
エリスも両手を組み、震える声で名を呼んだ。
「治癒を促す精霊の加護を、汝に与える輝きの星、癒しの光を与えよ! 光魔法【ヒール】!」
彼女の手のひらから柔らかな光がこぼれ、ウェルの身体を包む。だが――
「ぐ、あまり回復せぬのじゃ!」
その輝きはただ傷を塞ぐだけ。命を繋ぐ応急処置に過ぎなかった。
「……ぐ! ゲホッ、ゲホッ!」
それでも、微かにまぶたが震え、ウェルは咳き込みながら意識を取り戻す。
「ウェル! 生きてるアル!」
テンテンの瞳に安堵の色が浮かんだ。
「……俺は……?」
「【気】と【魔】の融合に失敗して爆発したのじゃ。そのせいで倒れておった」
状況を説明するエリス。その声にも焦りが滲んでいた。
「……そうか……ぐっ!?」
ウェルは立ち上がろうとするが、体は思うように動かず、魔力の流れも掴めない。
「【フルヒール】で全回復を試みようとしているのですが……魔法が上手く発動しない……」
歯噛みしながら呟くウェル。
上位光魔法【フルヒール】。通常なら一度の発動でほとんど全快する便利な術。ラーニングであれば詠唱すら不要のはずだ。だが今は、魔力が思うように流れない。
「もしかしたら経絡系が傷ついたかもしれないアル!」
テンテンが険しい顔で言う。
経絡系――それは【気】を巡らせるために全身に走る見えざる道。
そこに損傷があれば、体は力を失い、魔力すら制御できなくなる。
「経絡系は身体を動かす資本ネ。そこが壊れれば、どれだけ回復魔法を使っても思うように動かせなくなるアル!」
恐らく、爆発の衝撃が経絡系を破壊したのだろう。
「でも、何度も【ヒール】をかければ少しずつ戻るはずアル!」
テンテンの声にわずかな希望が滲む。
「ならば妾が重ねがけするのじゃ!」
エリスの手が再び光を帯びる。小さな癒しでも積み重なれば大きな力となるはずだ――。
だがその時、
「シャアアアアアアア!!!!!!!!」
森を震わせる咆哮。ヒュドラが血走った八つの目でこちらを睨み、暴れる尾を振り下ろす。
「エリス! 危ないアル!!」
ドン――!
テンテンが身を投げ出し、エリスを突き飛ばした。
「テンテン!!」
次の瞬間、轟音と共に巨大な尾がテンテンを薙ぎ払う。
ドガ!!!
「ぐはぁっ!!!」
巨木が軋む音と共に、テンテンの体が何度も木に叩きつけられ、血を吐いて地面に崩れ落ちた。
「テンちゃん!!!!」
胸の奥が焼けるように熱くなる。ウェルは剣を握り締め、立ち上がろうとした。
「撤退じゃ!!!!」
エリスが必死に抱きとめる。
「怒りに任せて突っ込めば死ぬだけじゃ! 抑えるのじゃ!」
「でもエリスお嬢様!!」
「目を覚ますのじゃ! まずは回復を! 妾たちでは今のヒュドラに勝てぬ!!」
ウェルは奥歯を噛み締める。理屈はわかる。だが胸の奥で燃え盛るものは、抑えられない。
「……もう一度やってみます。【気】と【魔】の融合を」
「なっ……正気か!? さっき死にかけたばかりなのじゃぞ!」
その叱責は正しい。次は本当に死ぬかもしれない。
それでも――
「シャアアアアア!!!!」
ヒュドラの首がこちらに向き、毒の瘴気を吐き出した。
「回復してきた…今なら魔法が使える!! 空間魔法【テレポート】!」
ウェルは瞬時に詠唱し、30メートル離れた位置に転移する。
そこは偶然にもテンテンが吹き飛ばされた場所だった。
「テンちゃん!」
「……八極気功拳をナメて貰っちゃ困るネ……」
血を滲ませながらも、テンテンはまだ意識を失っていなかった。
「【気】で防御したアル……でもアバラは何本か折れたネ……」
震える声で笑う彼女。無事を確認したウェルは胸を撫で下ろす。
「今は撤退するべきアル……このままじゃどうにもならないネ」
テンテンの言葉は現実を突きつける。だが――
「俺は……もう一度やってみる。【気】と【魔】の融合を」
「バカ言うなアル! 経絡系の損傷が悪化すれば一生身体が動かなくなるアル!」
彼女の声には怒りと哀しみが混じる。
だが、ウェルの決意は揺るがない。
「……それでも、やらなきゃならない。俺は冒険者だから……」
異世界に来て、やっと掴んだ冒険者としての誇り。
守るべきものがある。命だけではない。街も、建物も、思い出も――そのすべてを。
「俺は守りたいんだ! 命だけじゃない! できる限り大切なものを! 俺は……冒険者だから!」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。




