42.【気】と【魔】の融合
第2部完結まで連続投稿します!
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
「【アイテムボックス】!!」
俺は空間に手を差し伸べ、光の粒子を纏って現れた箱からマナポーションを取り出す。冷たい瓶の感触が手に馴染むと同時に、一気に中身をあおり、魔力を回復させた。
だが――。
「あと何十発、大技を叩き込んでも倒せる気がしない…」
目の前のヒュドラは、八つの首をのたうたせていた。その巨体は吐息のたびに辺りの草木が黒ずんでいく。腐食と毒を孕んだその存在は、魔素で創られた危険度Sランクの模造品とは比べ物にならない。
「やっと【ラーニング】三つ同時発動を安定させられるようになったのに…」
これまでの戦い――グリーンドラゴンやオークロード。どれも死線を潜り抜けてきたが、三つ同時発動を決めれば勝機を掴めた。
だが今回は違う。
周囲には魔力を分けてくれる仲間もいなければ、吸収できるリザードの群れもいない。俺ひとりの力だけで討たねばならないのだ。
ヒュドラの八つの首が一斉にこちらへ向き、咆哮が響き渡る。
「シャアアアアアアアア!!!!」
耳をつんざく声とともに、毒霧が空を覆う。
ズガンッ!!
「ぐっ!?」
テンちゃんが鞭のように振り下ろされた尾に直撃し、木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされた。幹が大きく軋み、乾いた音を立ててひび割れる。
「テンちゃん!!」
俺は叫びながら駆け寄ろうとする。だが彼女は苦しげに立ち上がり、拳を握り締めて笑った。
「くっ…油断したネ。大丈夫アル!【気】で防御したネ!」
彼女の周囲に、かすかな蒸気のような【気】のオーラが立ち昇っていた。あれがなければ、今頃命はなかっただろう。胸を撫で下ろす暇もなく、俺は怒りを剣に込めた。
「【ラーニング】三つ同時発動!【発勁】【剛剣】【獣豪腕】! 合成!【剛勁獣剣】!!!!」
周囲の大気が震える。力強い剣技に、オークロードの怪力、そして八極気功拳法の発勁――それらが融合した一撃。
ズガーン!!!!!!!!
「シャアアアアアアアア!?!?」
斬撃が、先に傷を負わせた部分を切り裂き、鮮血が噴き出した。地面が赤黒く染まり、腐臭が辺りに広がる。
「よし! …くっ!?」
しかし魔力の消費は激しく、さっき飲んだマナポーションの効果など瞬く間に霧散した。全身の力が抜け、俺は膝をつく。
「くそ…ここまで消費するとは…」
【気】と剣技をラーニングで併用する――それは魔力を二重に燃やす行為。さらに三つ同時発動を維持するために、血の気が引くほどの魔力が削られていく。
「ウェル! もうアレしかないのじゃ!」
エリスお嬢様の声が鋭く響く。
「アタシもそう考えていたアル!」
テンちゃんも頷く。
「【気】と【魔力】の融合ですね…」
――数日前。
俺は試行錯誤を繰り返していた。【気】と【魔力】を同時に操り、一つに束ねる訓練。身体の奥から沸き立つ生命の気と、外界から巡る魔力。それを合わせることができれば、かつてない力が手に入る。
一度だけ、成功しかけた。
「わわわわっ!! すごい力を感じる!!」
身体の芯から光が溢れ出し、世界そのものが震えて見えた。だが次の瞬間――。
パシューン!!
「うわっ!?」
爆発的な力に弾かれ、俺は地面を転がった。結局、実戦には使えない。そう結論づけたはずだった。
だが――。
今、俺たちの前に立ちはだかる格上の魔物。ここで試さずにどうする。
「…俺にできるのか?」
不安が胸をよぎる。だが、怯んでいる場合ではない。
「いや、やるしかない!!!!」
剣を強く握り直し、俺は腹を括った。
「エリスお嬢様!! テンちゃん!! 時間を稼いでくれ!!!!」
「任せるアル!!!!」
「ペットの願いを叶えられんなら、主人失格じゃからな!!!」
二人が同時に駆け出す。
ヒュドラの八つの首が、唸り声とともに毒霧を吐き散らした。月明かりが完全に飲み込まれ、世界が紫の霧に覆われる。
「毒ガスがなんだアルか!!」
テンちゃんがその中を突っ込み、拳を構える。
「癒しの光よ、魔を祓う星の加護よ――全てを解き放て! 光魔法【リリース】!」
エリスお嬢様の詠唱と共に、白銀の光が辺りを包み込み、毒の霧を吹き払った。ヒュドラは視界を奪われ、テンちゃんの姿を見失う。
「ここアル!!」
テンちゃんが一気に懐へ潜り込み、渾身の一撃を放つ。
「八極気功拳【砲滅覇山】!!」
ズガーン!!!!!!
「シャアアアアアアアア!?」
巨体が揺れ、地面が揺動する。だが、それでもヒュドラは致命傷を負わない。
俺は剣を構え直し、深く息を吐いた。
「【ラーニング】二つ同時発動…!」
体内の【気】と魔力を同時に燃やし、一つに束ねる。全身が眩い光を放ち、力を帯びていく。
「少しでいい…! ヒュドラを倒す力を!!」
集中し、力を込める。全身を駆け巡るエネルギーが暴れ狂い、制御を失えば爆発する。だが――。
「うぉぉおおおお!!!!」
二人の叫びが俺の背を押した。
「行け、ウェル!!」
「やっつけるアル!!」
仲間の声を背に、俺は全力で駆け出した。剣が閃き、ヒュドラへと迫る。
だが――。
「シャアアアアアアアア!!!!!!」
ヒュドラが咆哮し、天地が揺れる。恐怖と殺意が押し寄せ、俺の集中が一瞬だけ乱れた。
ピカッ!!
「なっ!?」
力が暴発し、光が弾け飛ぶ。
ズドォォォォォォン!!!!!!!!!!!!
「ウェル!!!!」
爆煙が晴れたとき――俺は地面に叩きつけられ、ボロボロの姿で倒れていた。
「ウェルーーーーーー!!!!!」
エリスとテンちゃんの叫びが夜空に響く。
――果たして、ウェルは生きているのか……!?
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