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39.危険度Sランク!ヒュドラ

第2部完結まで連続投稿します!

追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!

「シャアアアアアアアア!!!!!!!!」


 大地を震わせる咆哮とともに、8つの首が大きく持ち上がった。鋭い牙を並べ、紫色に光る瞳がこちらを射抜く。


 その巨体は樹々を押し潰しながら現れ、毒々しい緑黒の鱗が月光を反射して不気味に輝いていた。


 危険度Sランクの魔物――ヒュドラ。森全体を支配するような圧迫感に、空気そのものが重く沈んでいく。


「思ったよりデカいアルな…」


 テンちゃんの額に汗が浮かぶ。初めて相対する大型魔物、それも猛毒を備えた存在に、拳を武器とする彼女が恐れを抱くのも無理はない。


「妾がいれば毒など恐るるに足らぬ! 思いっきりぶちのめすのじゃ!」


 エリスお嬢様が胸を張り、黄金色の髪をなびかせて宣言する。その声は怯えることなく澄み渡り、森のざわめきすら打ち消すようだった。


 確かに彼女の光魔法【リリース】があれば毒の心配はない。だが――その直後。


「ほーっほっほっほ! 誰かと思えばオークロードのときのガキではないか」


 ヒュドラの首の一つから、低く響く男の声が漏れた。


「オークロードを…知ってる!?」


 闇色のローブ、深く被ったフード。その姿に見覚えがある。


「その格好は【ラプラス】か!!」


 グリーンドラゴンの時と同じ、忌まわしい名。オークロード討伐の裏でも関わっていた組織――【楽園の使徒ラプラス】。


「ほーっほっほっほ! ご名答! 私は楽園の使徒【ラプラス】の使い、【アザトース】!!! このヒュドラで今日こそ国を救ってみせるのです!」


 アザトースと名乗った男の声は、狂気に満ちた笑いとともに木霊する。


「救う? その化け物で何から救うというのじゃ?」


 エリスお嬢様が眉をひそめ、鋭く問いかける。


「あああああああぁぁぁ!!!! 可哀想にいいいい!!!! この子の魅力がわからないとは!!!! なんて酷い生活を送ってきたのでしょうか!?」


 アザトースは突如発狂し、ヒュドラの鱗を撫でるようにして狂気じみた叫びを上げる。森の空気が一層不気味に震え、俺たちは思わず構えを固めた。

 前のやつもそうだがみんなこんな性格なのか!? ラプラスはハチュウ類好きの発狂集団か?


「はぁ…仕方ないですね…。お伝えしましょう。我ら【ラプラス】の崇高な理念を! 救いとは――【現実からの解放】なのです!!」


「現実からの解放…?」


「そう! 楽園の使徒が魂を集め、世界を夢へと導く! 死ではなく救済なのです!!」


 その声に冷たい怒りが込み上げる。


「ふざけるな! みんな生きるために戦ってるんだ! お前らの自己満足のために命を奪われてたまるか!!」


 俺は二本の剣を抜き放つ。隣でテンちゃんが気を練り、エリスお嬢様が魔力を集中させる。


「ヒュドラに食べられなさい!!」


 その号令とともに、8つの首が一斉に襲いかかってきた。


「行くぞ!!」


 俺とテンちゃんは左右に跳び散り、エリスお嬢様は安定の俺の肩の上へ。


「図体のわりにオーガより素早いアル!」


 ヒュドラの巨体が信じられない速さで迫り来る。森を薙ぎ払い、枝葉が破片となって飛び散る。


「炎魔法【フレイムバースト】!」


 轟音とともに炎が迸り、ヒュドラの鱗に炸裂する。


「八極気功拳! 【裡門頂肘(りもんちょうちゅう)】!!」


 テンちゃんが踏み込み、首を受け流しつつ肘打ちを叩き込む。地面が大きく陥没し、衝撃波が走った。


 だが――。


「シャアアアアアアア!!!!」


 鱗の硬度は異常で、攻撃は弾かれたも同然だった。逆に怒りを買ったヒュドラの瞳が毒々しく光る。


「シャアアアア…ブアアアア!!」


 次の瞬間、黒緑の毒霧が噴き出した。


「マズイ! 避けろ!!」


 しかし毒は外に広がらず、ヒュドラの頭を覆い尽くすように逆流した。


「全く世話が焼けるのじゃ」


 エリスお嬢様の光魔法【シールド】。複数の結界を組み合わせて密閉空間を作り、毒の行き場を封じたのだ。


 しかし――。ズガン!!


「シャアアアアアア!!!!」


 ヒュドラは巨体を地面に叩きつけ、【シールド】を粉砕する。


「…とんでもない化け物じゃな」


 エリスお嬢様が目を細める。これで【シールド】では、ヒュドラの物理攻撃はほとんど防げないことがわかった。

「面白かった!」


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