38.ワイバーンはいなかった
第2部完結まで連続投稿します!
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
「さーて、行きますか!」
俺はエリスお嬢様とテンちゃんを連れ、手にした古びた地図を見比べながら村への道を進んでいた。
山々に囲まれたその小さな集落は、昼下がりの陽射しを浴びてのどかに広がっている。
「よー来てくださったなぁ。こげな田舎に。何もねぇーとこだども、ゆっくりしていくべ」
藁束を抱えた村人が、俺たちに気さくに声をかけてきた。
すんごい訛ってる。耳慣れない響きに少し戸惑う。
「依頼主の村長さんは、この道をまっすぐ行ったところですか?」
地図との二重確認を兼ねて尋ねてみる。
「そうだそうだ! この道まっすぐいぐど会えるだ!」
どうやら間違いないようだ。俺たちは安心して歩を進める。
やがて村長の家に到着した。特に他の民家と変わらない、木造の素朴な家だ。だが、その玄関先では村長の妻らしき人が慌ただしく出迎えてくれた。
「よーく来てくださっただ! あんたたつが冒険者だべか?」
「はじめまして! 村長さんはいらっしゃいますか?」
あいさつを終えて奥へ通されると、依頼主の村長は布団に横たわり、顔色は青白く息も浅い。部屋には薬草の匂いが漂い、病床の重さを物語っていた。
「…よ…く…来てくれただ…」
かすれた声。これは普通の病気じゃない。
「もしかして毒に侵されているのですか?」
村長の肌は紫色に染まり、唇は乾いている。俺の問いに妻が涙ぐみながら頷いた。
「ワイバーンはもういねぇだ」
「え!?」
討伐対象のはずのワイバーンは既に存在しないという。
「その代わり、とんでもねぇ魔物がやってきて、ワイバーンを食っちまっただ」
ワイバーンを…食べた? 危険度Aランクの魔物を捕食する存在。つまり、それは危険度Aを凌ぐ、Sランク級の脅威かもしれない。
「その魔物がまき散らす毒で何人も死んで行っちまっただ。ワシもこのありさまじゃ」
村長の震える声に、背筋が凍る。毒までも撒き散らすのか…。
「安心するアル! アタシらはギルドで一番強いパーティーアル! そんな魔物ぶっ飛ばしてやるネ!!」
「妾たちがいれば安心じゃ!」
エリスお嬢様とテンちゃんは動じず胸を張る。その頼もしさに、俺も覚悟を決めた。
「俺たちに任せて下さい!」
俺たちが動かなければ、この村は滅びる。撤退など許されない。最悪の場合でも俺のアイテムボックスで村人を避難させることはできる。
まずは村長の毒を取り除かねば。
「エリスお嬢様、お願いします」
「いわれるまでもないのじゃ」
エリスお嬢様が両手を掲げ、清らかな光を放つ。
「癒しの光、魔を取り除く精霊の加護を、汝に与える輝きの星、その全てを解除せよ! 光魔法【リリース】!」
光が村長を包み、黒ずんだ毒素が煙のように抜けていく。
「か、身体が軽いだ! オラもうダメかと思っただ…」
村長の顔に血色が戻り、妻も安堵の涙を流した。
「オラたつのなけなしの金を集めてやっど依頼出すことができただ…。本当にありがとうごぜぇますだ!」
「うちのもんを助けて頂き、ありがとうごぜぇます!」
二人は深々と頭を下げる。
「妾の力があればこそじゃ! もっと崇めるのじゃ!」
エリスお嬢様は得意げだ。まぁ、らしいといえばらしい。
俺たちは村の近くの森へ向かう。鬱蒼と茂る木々の間、鳥の声が消え、不気味な静けさが漂っていた。
「固有魔法【サーチ】!」
意識を集中させ、魔力で周囲を探る。すると、一際大きな魔物の存在が感知された。
「エリスお嬢様、テンちゃん! デカい魔物を感知しました! 恐らくコイツが…って、え?」
「どうしたのアルか?」
「こっちに向かって来ます! 迎撃準備!!!!」
大地が震え、木々がバキバキと倒れていく。
「む!? 人間もいるネ!」
テンちゃんは気を使い、人間の気配も察知する。どうやら魔物と共に、誰か人間もこちらへ迫ってきているらしい。
胸騒ぎが広がる。
ゴゴゴゴゴッ!!
木々が次々となぎ倒され、ついに“それ”が姿を現した。
全身を覆う黒光りする鱗。鋭い牙。だが、首がひとつではない。二つ、三つ、四つ……八つ。
八つの首を持つ巨大な蛇――。
「危険度Sランク、ヒュドラだ…!」
俺の喉がごくりと鳴る。グリーンドラゴンにも匹敵する凶悪な魔物。過去にSランク討伐を果たした経験はあるが、仲間が大勢いたからこそ勝てた。今は俺たち三人だけ。
「シャアアアアアアアア!!!!!!!!」
ヒュドラの咆哮が森を震わせ、毒の臭気が辺りに漂った。
果たしてウェル、エリス、テンテンの三人だけで、この危険度Sランクの化け物を討伐することができるのか――!?
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