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368/620

368.ジョーカーの意味

追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!

 いっぽうこちらは、転送魔法陣によって別の場所へ飛ばされたアルテナ、ガル、ジョーカーの三人だった。


「くそ! 何だこの部屋は!? 早く【マーク】で移動しないと!?」


「お願いします! 早くリョウマの所へ!!」


 彼らが転送された先は、壁も天井も床もすべてアダマンタイトで囲まれた閉鎖空間。

 光を吸い込むような灰銀色の壁が、冷たい反射光を返している。

 圧迫感があり、空気は重く、息をするたび胸が締めつけられた。


 部屋には分厚い鉄扉が一つだけ。

 そこから出ることもできるが、【マーク】を使って転移するほうが早いと誰もが考えた。


「それじゃぁ~早く~移動しよう~!」


 アルテナは焦るようにガルの肩に手を置いた。

 その手は震えていた。リョウマの危機が頭をよぎり、胸がざわめく。


「よし! 行くぞ! リョウマの所へ!」


 ガルが魔力を集中させる。

 その瞬間——


 グサッ!


 ドン!


「ガル!?」


 ドサッ!


 突き飛ばされたアルテナは床に倒れ込んだ。冷たい金属の感触が背中を打つ。


「ガル!? 何を!? これは…!?」


 ガルの背中には、【カードから出現したナイフ】が深々と突き刺さっていた。

 血がアダマンタイトの床を汚し、蒸気のように薄く漂う。


「やっぱ…てめぇの仕業か!! ジョーカー!!」


「よく気づいたね~? 急所も避けて~? 残念~!」


 ナイフを刺した張本人、ジョーカーはニヤつきながら一歩下がった。

 リョウマと分断する転送魔法陣を発動させたのも、ガルを刺したのも、すべてジョーカーの仕業だった。


「ジョーカー!! どうして…!?」


 アルテナの声は震えた。

 普段の彼女なら冷静に分析できただろう。

 だが、さきほど見たリョウマの苦戦が脳裏に焼きつき、感情が先走っていた。


「…転送魔法陣はもともとそこにはなかった。あったら俺やリョウマが気づいているはずだからな…となれば誰かが発動させたということになる。お前の【カード】なら転送魔法陣を収納していつでも引き出せるだろうからな!」


 ガルの言葉は荒い息に混じっていた。

 血が喉に絡む。それでも、仲間を守ろうとする眼差しは揺らがなかった。


 ジョーカーの固有魔法【カード】。

 それは魔法・物・生物を【カード】に収納し、好きなときに出し入れできるスキルだった。


「その通り~! 【モルモット】の大事な試運転の邪魔になるから強制的に退場しました~! なのでリョウマの所に戻るのは許さないよ~?」


 悪びれるどころか、楽しげに全てを語るジョーカー。

 その笑い声が、密閉空間に反響して耳を裂く。


 ブゥン——


 次の瞬間、ジョーカーはカードから黒いローブを取り出した。

 それをゆっくりと身にまとい、深くフードをかぶる。


 見覚えのあるそのローブ——ウェルたちが何度も見た、あのラプラスの象徴だった。


「【ジョーカー】は【不正確な行動】を意味する隠喩。そして、僕は楽園の使徒【ラプラス】の一員であり【アモスデウス】様の右腕。四肢切りのリチャードを牢屋からここへ連れ出したのも僕さ! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!! これを着ると信仰心が蘇るねぇぇぇぇ!!!!! 全てはラプラス様のためにぃぃぃぃぃ!!!!!」


 ローブを着たジョーカーの瞳が狂気に染まる。

 血走った眼が天井を仰ぎ、口からは涎が垂れ、全身が痙攣するように震えていた。


 その光景に、アルテナは息を呑んだ。

 目の前にいるのは、もうかつての仲間ではなかった。

 ラプラスの信徒——狂信者、そして裏切り者。


 アダマンタイトの壁に響く笑い声は、まるでこの空間そのものを歪ませているかのようだった。

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