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35.悪役令嬢とロリっ子チャイナ娘の修羅場

第2部完結まで連続投稿します!

追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!

 ロリっ子チャイナ娘ことテンちゃんと俺は、ようやくギルドの重厚な扉を押し開けて戻ってきた。


 夕暮れの街を背にして、石造りのギルドの中へ足を踏み入れる。


 今回の依頼は危険度Bランク――オーガの討伐だった。巨大な体躯と腕力を持つオーガは、冒険者たちにとっても油断ならない強敵だ。


 しかも相手は二体。たった一体でも命がけなのに、二体同時は完全にBランクの範囲に収まる案件だった。


 報告を済ませ、討伐証明と素材をギルドへ渡す。分厚いカウンター越しに、受付嬢が丁寧に数を確認していく。


 その結果、俺たちは予想以上の報酬を受け取ることになった。


「こ、こんなに稼げるアルか!!!」


 テンちゃんの瞳が、まるで宝石のように輝いた。彼女の小さな体が、驚きでピョンと跳ねる。まだ陽が暮れる前に、たった一度の依頼。


 それだけでこれほどの額を手にできることに、子供のように素直に驚きを隠せないのだろう。


 確かに、初めての依頼でこの成果は滅多にない。普通は失敗したり、負傷したり、時間がかかるものだ。


「アタシ!! ずっと冒険者やるアル!!」


 拳を握りしめて宣言するテンちゃん。彼女が冒険者という職業に心を惹かれたのは間違いなさそうだった。


「…今回は初クエスト記念ということで、報酬は八割あげるよ」


「そ、そんな! 悪いアル!!」


 俺の言葉に、テンちゃんは目を丸くして首を振る。


「大丈夫、大丈夫。俺には貯えがあるし、テンちゃんは無一文でスタートだろ? 宿代や装備代、防具の修理費だって馬鹿にならない。これからも頑張ってほしいから、受け取ってくれ」


 リザード千体討伐とオークロード討伐で得た資金は、すでにかなりの額になっている。エリスお嬢様を支える分は十分に貯えてある。だから、これは未来への投資だ。


「わ、わかったアル! 必ず立派な冒険者になってやるアル!」


 うんうん、若い者の成長を見届けるのは、何度でも嬉しい。


「男に二言はないアルね!? もう絶対に返さないアルよ!?」


 ……お金への執着、思った以上に強いな。


 俺たちは受け取った報酬袋を手に、ギルドのホールを横切って休憩用の机へと向かおうとした。そのとき――


「やっと帰ってきたか。待ちわびたのじゃ」


 涼やかな声が響く。振り返ると、そこにはエリスお嬢様の姿があった。


 どうやら彼女は俺たちより早く帰ってきていたらしい。いや、正確にはずっとギルドにいたようだ。


 エリスお嬢様は治療系の仕事を請け負い、傷だらけの冒険者たちを回復魔法や状態異常解除で救っていた。その腕前は確かで、ギルド職員のゲルドさんからも頼りにされているらしい。


「はい、テンちゃんとオーガ討伐を完了し、ただいま帰りました」


「テンちゃん!?!?」


 ――その瞬間、周囲の冒険者たちの視線が一斉にこちらに集まった。


「テンちゃんって…」

「ウェルのアニキ! いつの間にその子とそんなに仲良く!?」

「そんな可愛い女の子と羨ましいぜ!!!」

「アニキ! すみに置けねぇな!!」


 しまった……! つい親しげにあだ名で呼んでしまった!


 テンちゃんはどうやら初日から、ギルド内でかなりの人気者になっていたらしい。気は強いが、誰にでも分け隔てなく挨拶する。


 愛嬌ある笑顔に、多くの冒険者が心を撃ち抜かれているのだろう。……わかる。すごくわかる。


 だがその直後――


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 ギルド全体の空気が一変する。背筋を這う冷気。圧し掛かるような殺気。


「ほぅ……妾が仕事をキッチリこなしている間に、別の女と楽しく遊んでいるとは。ずいぶんと肝の座ったやつじゃなぁ」


 エリスお嬢様あああぁぁぁ!!!

 誤解です!!

 これは仕事です!!!

 イチャイチャなんてしてません!!!!


「主より遊ぶその体たらく。ペットとしてキッチリと調教してやるのじゃ」


 やばい、完全に怒ってる!!!


 俺はとっさに床を蹴り――


 タッタッタッ! ジャンプ! ズザアアアアッ!!!


「エリスお嬢様あああぁぁぁ!!!! クエストの報酬全て受け取ってください!!!!」


 サラリーマン拳法奥義!


 【ジャンピングスライディングDOGEZA銭渡し】!!!


 滑らかな土下座姿勢から、全財産を差し出すフルコンボだ!!! これで許してくれ……!!!


「ん? オーガ討伐したというのに、たったこれっぽっちか? Bランクの報酬はもっと多いはずじゃろう?」


 しまったあああぁぁぁ!!! テンちゃんに八割渡したの忘れてたあああぁぁぁ!!!


「……え、えーっと……」


 どう誤魔化す!? なんと言えば!? 俺の頭の中は真っ白だった。


 その時――


「ワタシが八割受け取ったアル!! 男に二言はないと誓ったから、もう返さないアル!」


 テンちゃあああぁぁぁん!!!! なぜ今それを言うの!?!?

 どうやらテンちゃんは「やっぱ返して」と言われるのを危惧して俺にクギを刺したらしい。

 お金に対する執念、恐るべし……。


「ほぅ……妾を差し置いて別の女を貢ぐとはなぁ」


 エリスお嬢様!! 言い方ぁぁぁ!!!


「いや、だって……ウチにはまだ貯えがあるし……」


「ウェルに任せておいたらすぐなくなるわ! この超絶お人好し!!!!」


「す、すみませーーーん!!!!」


 結局、俺はエリスお嬢様にたっぷりと説教を受ける羽目になった。


 しかもその光景は、ギルド中の冒険者たちに目撃され、こう名付けられることになる。


【アニキの夫婦漫才】

【アニキを取り合う女の修羅場】

【アニキの二股】


 いや!!! 二股は違うからね!?!?!?


 ……そんなこんなで、今日もギルドは実に賑やかで平和だった。


 一方そのころ――


「ほーっほっほっほ!!! 私の可愛い可愛い【ヒュドラ】!!! もうすぐたっぷりと暴れさせてあげるからね! 楽園の使徒【ラプラス】が世界に救いを与えますよ!」


 とある暗い洞窟の奥。青白い光苔がぼんやりと岩壁を照らす中、不気味に響き渡る笑い声があった。そこに立つのは、狂気を宿した目をした怪しい男。その背後には巨大な影が蠢いていた――。

「面白かった!」


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