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314.眠り姫の場合(3)

追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!

 危険度Sランク。


 このランクは、S級冒険者がタイマンで辛うじて倒せる魔物や、闇ギルドの首領などに与えられる称号だ。

 その上位にはS+1(エスプラスワン)、さらに上にS+2(エスプラスツー)が存在する。


 そして、危険度SSランク――。

 それはS+2の上位に位置し、S級冒険者が百人がかりで挑んでも、討伐できるかどうかという領域。

 人の力でどうにかできる限界点を、はるかに超えている存在である。


 かつてウェルが戦い、命懸けで倒したSSランクの敵が二体いる。

 ひとつはラプラスの悪魔第一級使徒【ピエール】の傀儡。

 もうひとつは闇ギルド【ナハト】のギルドマスター【シュラム】。

 どちらもウェルが【魔導霊気】を限界まで解放してなお、決して容易に勝てた相手ではなかった。


 つまり――今、Gクラスの目の前に立つ魔物【ヴラド】は、それらと並ぶか、あるいは凌駕する存在。

 生半可な戦いでは触れることすら許されない。


「エイブ!!」


 エイブが吹き飛ばされた瞬間、全員の心が凍りついた。

 息を呑む暇もなく、理屈ではなく本能が理解する。

 ――勝てない。逃げられない。


 その事実に、シルビィアは震え、ニャウンシェは腰を抜かし、アンブルは嗚咽を漏らしながらその場に崩れ落ちた。

 恐怖に押しつぶされ、身体が言うことをきかない。


 バースもまた、腹部を貫かれ、もはや立ち上がることすらできない。

 それでも彼は、血まみれの手で弓を握り直した。


「に…げろ…!!」


 自分が足手まといになることを悟ったのだろう。

 せめて、仲間を逃がす時間を――。


 ヒュンッ!


 次の瞬間。


 バキィッ!


「ぐぁぁぁ!!!」


 ヴラドの足が、いつの間にかバースの腕を踏み潰していた。

 距離を詰めた気配すらなかった。

 まるで空間そのものを無視して、そこに“現れた”かのようだ。


「まだ息の根があったか…すぐに大人しくさせよう」


 ヴラドの冷笑とともに、さらに足に力が込められる。


 バキバキバキ――!!


「ぐぁぁぁ!!!」


 骨が砕ける音が響き渡り、バースの悲鳴が洞窟全体に反響する。

 血の匂いが熱を帯び、息が苦しくなるほど濃密に漂った。


 そのとき。


「炎魔法【フレイムバースト】!」


 ズドン!!!


 火の塊が矢のように走り、ヴラドを直撃した。

 爆風がバースの身体を吹き飛ばし、熱風が肌を焼く。


 ズガガガガ!!!

 ズドーン!!!!


 ヴラドの身体が壁に叩きつけられ、炎が爆発を起こした。

 ダンジョン全体が震え、天井から石片がパラパラと降り注ぐ。


「…これ以上…友達を傷つけるのは許さない!」


 その声の主はイザベラだった。

 瞳に宿る光は怒りと悲しみで揺れ、赤熱の残滓が揺らめいている。


「イザベラ…さん…?」


 レスターは息を呑んだ。

 今まで見たどの魔法よりも、威力も精度も桁外れだった。

 だが――。


 ザッ、ザッ、ザッ……。


 煙の向こうから、ゆっくりと足音が響く。


「……ふっふっふっふ……我が娘よ……なかなかお転婆に育ったものだな……」


 ヴラドが炎の中から姿を現した。

 衣服の焦げ跡ひとつない。肌も髪も無傷。

 ただその瞳だけが、赤黒く光り、イザベラを見つめている。


「…娘って…イザベラさんのことだったのか…?」


 レスターの口から漏れた疑念が、全員の中に伝播する。

 彼の言葉に、誰もが息を詰めた。


 ――ヴラドが言っていた“我が娘”。


 それが、イザベラ。


 全員の視線が、イザベラの背に集まる。

 彼女は唇を噛みしめ、震える声で言った。


「…私は…あなたを知らない…」

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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