03.悪役令嬢との日常が終わる
第一部完結まで連続投稿します!
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
エリスお嬢様の執事となって、半年が過ぎた。
仕えるうちに、少しずつ彼女――エリス・グランベルの家柄や過去も見えてきた。
どうやら彼女の両親は十年前に病で亡くなったらしい。
今十五歳ということは、わずか五歳のころに両親を喪った計算になる。
幼くして血縁をすべて失い、兄弟も後見人もいないまま、エリスお嬢様はグランベル家を背負わざるを得なかった。
当然、その喪失はあまりにも重く、彼女の心を歪めた。
幼心に抱えきれぬ痛みが、やがて怒りとなり、悲しみとなり、周囲へと向けられていった。
使用人への横暴な八つ当たり。
温かい家庭を持つ令嬢たちへの嫉妬からの嫌がらせ。
――悪役令嬢。
そう呼ばれるのがふさわしいほど、性格は荒み、使用人は次々と辞め、屋敷には悪い噂ばかりが広まった。
気づけば「没落貴族」の烙印を押される始末。
だがある出来事をきっかけに、彼女は立ち直った。
性格は前向き――いや、むしろ野蛮さすら混じるほど力強く変貌し、隠されていた魔法の才能を開花させたのだ。
ちなみに、あの猫耳メイドのココさんは三年前に冒険者を引退し、この屋敷に仕えるようになったらしい。
詳細は語られなかったが、エリスお嬢様との出会いを経て、共にグランベル家の復興を目指しているという。
俺もその一員として、全力で支えねばならない。
あの日、救ってくれたエリスお嬢様のために。
ズドーン!!!!
「ウボァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
今日も例のトレーニングの時間がやってきた。
ミスリル製の魔法耐性スーツを着ているが、衝撃まで吸収してくれるわけではない。
心も体も悲鳴を上げる。
「避けるのが中々上手くなったではないか。ココの前のウォーミングアップには良いな」
……エリスお嬢様。
どうかココさんと比べないでください。あの人の動きは、常人では一生かかっても真似できません。
ココさんは数々の修羅場を潜り抜けた歴戦の冒険者。
そして俺は、彼女の鋭い攻撃を百発百中で受け止めさせられる哀れなサンドバッグ役。
半年も経ったのに慣れるどころか、エリスお嬢様の成長速度に追いつけない。
やがて場の空気が一変し、今度はココさんとエリスお嬢様の本気の模擬戦が始まる。
目にも止まらぬ魔法と剣撃。
まるでCG映画を見ているかのような迫力。
正直、厨二病心を刺激されて、ワクワクしてしまう。
そして――同時に、ココさんの二つの大きなエベレストが激しく揺れるのを凝視する。
悪くない!!!!!!!
……が、ココさんから時折送られてくる冷たい視線に、見透かされている気がしてならない。
そんな日常の合間にも、執事としての仕事は山積みだ。
掃除、給仕、来客対応――没落した家柄を立て直すべく、毎日が慌ただしく過ぎていく。
だが、それでも心は満たされていた。
社畜時代は「やって当然」で褒められたことはない。
冒険者になっても雑用ばかりで、誰に感謝されるわけでもなかった。
今、俺は初めて「必要とされている」と実感している。
……もし最初から料理人や清掃業を選んでいたら、と考えることもある。
だが、身元不明の流れ者に信用はなく、選べるのは冒険者しかなかった。
結局、二年間も芽が出ずにくすぶり続けた。
だからこそ、拾ってくれたエリスお嬢様とココさんに報いるために、俺は今を全力で生きる。
――しかし、この穏やかな日常は、突然終わりを告げる。
深夜、零時を回ろうとしたその時。
ドカーン!!!!!!!
「な、なんだ!?」
爆発音に飛び起き、慌てて扉を開ける。
「う、嘘だろ!?」
廊下が炎に包まれていた。
焼け焦げる熱気が肌を刺し、逃げ場はほとんど残されていない。
二日前の会食で出会ったレイリー家の男の言葉が脳裏をよぎる。
「お気遣い結構じゃ。妾の身は妾で守れる」
「……後悔しますよ」
あのときの、不気味な呟き。
数多の貴族から反感を買うグランベル家。
暗殺未遂は過去にもあったが、今回は規模が違う。
「エリスお嬢様ーーー!!!!ココさーーーーーーん!!!!」
炎の廊下を駆け抜けながら、必死に名を呼ぶ。
呼吸は熱に焼かれて苦しく、胸が締めつけられる。
――ゾクリ。
突然、背筋を凍らせる殺気が襲う。
振り返れば終わる。そんな直感が働く。
次の瞬間、首を狙う冷たい刃が背後から迫った。
カキーン!!!!
金属がぶつかる鋭い音。
振り向くと、目の前に飛び込んできたのは――
「何をじっとしているんですか!!!!」
猫耳のメイド、ココさん。
血に塗れ、傷だらけになりながらも剣を構えていた。
「…コ…ココさん…」
満身創痍の姿に息を呑む。あのココさんがここまで追い詰められるなんて――。
黒装束の暗殺者が距離を取り、再び刃を投げる。
しかし、ココさんは軽やかに弾き返し、一瞬で踏み込み――
ズガガガガ!!
剣閃が走り、暗殺者の体が宙を舞う。
「や、やった!」
「まだです! こんなのが何人もいます!!」
ココさんの言葉に、廊下の奥から次々と黒装束の影が現れる。
「状況説明をお願い致します!」
「状況は最悪です。何者かが闇ギルドを雇って、お嬢様の暗殺を依頼したようですね…」
闇ギルド――暗殺や違法依頼を専門とする存在。
その規模と強さゆえ、国でさえ手を焼く。
これはただの襲撃ではない。確実に、グランベル家を滅ぼすための一手だ。
「エリスお嬢様は!?」
「…すみません、安否はまだ確認できていません。……行きなさい、セーイチ! お嬢様を頼みます!」
初めて、ココさんが俺の名前を呼んだ。
「ココさん…どうか…死なないで!」
強く、頼りになる彼女に任された。
だからこそ――その想いに必ず応える。
炎に包まれた廊下を、俺は息を殺して全力で駆け抜けた。
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