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203.幸せを願う6つの希望

第12章完結まで連続投稿します!

追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!

「1番下っ端のヴァンが負けたからってなんだ!? だったら俺が速攻行ってそのガキどもをぶっ殺してやるよ!」


 血の気の多い男、ラヴァが椅子を蹴って立ち上がり、ヴァンを見下ろすように吠えた。

 その瞳には苛立ちと、どこか焦りにも似た光が宿っている。


 ヴァンは唇を噛みしめた。拳が小刻みに震えている。


「…てめぇ…いい加減に…!!」


 怒りが爆ぜ、立ち上がろうとしたその時――。


「おで、知ってる、ラヴァ、優しい。誰よりも早く、ヴァンの仇、討ちたい、って言ってる、ツンデレ」


 鈍い声で割り込んだのは、丸太のような腕を組んだ魔族・ロドルガだった。

 その表情は真顔だが、場の空気を読む気など一切ない。


「う、うるせぇよ! そ、そんなじゃねぇ!」


 ラヴァの顔がみるみる赤く染まり、視線を逸らす。

 会議の重苦しい空気が一気にどこかへ飛んだ。


「ああああああああぁぁぁ!!!! 今日の会議は萌えますね!!! 帰ったら早速ヴァンくん×ラヴァくんの創作をします!!! ご馳走様です!!!」


 突如、長卓の端から悲鳴のような声が上がった。

 普段はおとなしく、おどおどしたヒオラが、椅子の上に立ち、顔を真っ赤にして叫んでいる。

 どうやら彼女の中で“創作意欲”の炎が爆発したようだ。


「「やめろ!!!」」


 ヴァンとラヴァが声を揃えてツッコむ。

 その息の合い方がまた、余計に誤解を招く。


「いや~今日も楽しい会議だね!」


 軽口を叩いたのは、涼しい顔をしたザイヤ。


「…仲がいいのは私たち魔族の象徴だ。だが少しは真面目になってもらいたい…」


 議長席に座るシンティアが、額に手を当てながらため息を漏らす。

 彼の白髪が、魔力灯の光を反射して微かに揺れた。


「ラヴァ。僕の見立てだとウェル・ベルクは君より強いよ? だから僕が狙うね」


 ザイヤが何気なく言い放つと、空気が凍りついた。


「んな!? 俺が犬族のガキに劣るってか!? 序列3位だぞ!?」


 ラヴァの怒号が響き、他の魔族たちもざわつく。

 怒りよりも、驚きの色のほうが濃かった。


「ザイヤ、それは、言い過ぎ、そんなやつ、見たこと、ない」


「そ、そうですよ~! そんなのいたら怖いからやめてください~!」


 ロドルガとヒオラが慌てて異議を唱える。


「…もしそうなら凄い逸材だ…是非うちに勧誘したいな…」


 シンティアは顎に手を当て、静かに呟いた。

 その瞳には、戦いではなく可能性を見る知性の光が宿っている。


「そうだね。僕らと人族の事情を話せば引き込めるかも? そうならない時は僕がこの手で消すよ」


 ザイヤの声音は穏やかだが、その奥に潜む冷気が背筋を撫でた。


「そうだな。争わないことに越したことはない。この戦争は私たち魔族が平和を望む防衛戦なのだから」


 シンティアの言葉に、場が静まる。

 彼の瞳は、誰よりも遠くを見つめている。

 その視線の先には、守るべき何かがあった。


「だからこそ私たち【幸せを願う6つの希望(グルークゼクス)】が結成された。魔王様に代わり今一度誓いを立てよう」


 その言葉とともに、六人の魔族たちはゆっくりと立ち上がり、胸に拳を置いた。

 焔の揺らめきが彼らの影を壁に映し、まるでそれぞれの覚悟が刻まれていくようだった。


 ――こうして、魔族会議は静かに幕を閉じた。

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