17.村のお祭り
第一部完結まで連続投稿します!
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
うーん。
真っ暗だ。
何も見えない。
俺、どうなったんだっけ?
「ここ置いておくね!」
ん? 何を?
「感謝するのじゃ!」
誰かが話している。
何の話だ?
「…ん…ここ…は?」
俺はどうやら寝ていたらしい。
目を開けると、柔らかな朝日が村の小道に差し込んでいた。木々の葉に光が反射し、森の中は優しい緑色に包まれている。
村の女の子とエリスお嬢様が、心配そうにこちらを見下ろしていた。
この子は昨晩、俺に食事を届けてくれた子だ。
「お兄ちゃん! 目が覚めた!」
「全く…お寝坊さんなのじゃ」
女の子は素直に喜んでいるのが伝わる。
エリスお嬢様は呆れ顔だが、心配してくれたのは確かだ。
「俺は…あの後…」
正直、記憶があいまいだ。
危険度Sランクのグリーンドラゴンを倒したところまでは覚えている。
「魔力の使いすぎで気絶したのじゃ。
【マナドレイン】で魔力を吸収しているとはいえ、疲労は蓄積していくのじゃぞ?
その上、自分の力量を超えた魔力を扱ったのじゃから当然の結果じゃ!」
なるほど。闇魔法【マナドレイン】は無限に使えるわけではない。
気をつけないとな。
「お兄ちゃん、もう2日も寝ていたんだよ!」
「え!? 2日!?」
俺はそんなに眠っていたのか。
グリーンドラゴン戦での魔力消費と精神的な緊張のせいか、身体はまだ熱を帯びている。
「ということで宴に入るのじゃ!!」
え?
宴!?
「みんなー!!
お兄ちゃんが目を覚ましたよー!!」
看病してくれていた女の子が、村の広場に声をかける。
木造の家々の屋根の間から光が差し込み、村全体が朝日に包まれた中、村人たちが続々と集まってくる。
「ウェルさんが目覚めたか!!!」
「早速準備を始めよう!!」
え、ちょ!?
村の危機を救ったお礼として、村名物の大宴会を開くらしい。
そんな気を遣わなくても…と思いつつも、せっかくだし楽しもう。
ぐぎゅるるるるる…。
腹の虫が大声で鳴った。
2日間、何も食べていなかったことをようやく脳が認識したらしい。
「お兄ちゃん! こっちこっち!」
女の子に連れられて、宴の特等席へ案内される。
広場の中央には長い木製のテーブルが並び、色とりどりの料理が並べられている。
香ばしい匂いと薪の煙の香りが混ざり合い、村全体が活気づいていた。
「ウェルさんの!
リザード100体討伐を祝って!!!
カンパーイ!!!!」
本当は1000体討伐だが、まぁいいか。
村長の力強い声が広場に響き渡る。
「村の名物かぁ…」
見た目は13歳だが、ワクワクする気持ちは年齢関係なしだ。
異世界転生して、村の郷土料理や文化に触れるのは初めてだ。
「お兄ちゃん、これ食べてみて!」
「ありがとう。
そういえばまだ名前聞いていなかったね。
俺はウェル! よろしく!」
「あたしはルル! お兄ちゃん!
あたしと結婚しよ!」
ルルか…。可愛い年頃だな…。
俺と結婚だなんて…。
結婚!?!?!?
「ぶほぉ!?!?!?」
思わず吹き出す。
「お兄ちゃん大丈夫!?」
心配そうなルル。
いやいや待て! 落ち着け俺!!!
見たところ6歳ぐらい。
結婚の意味はまだ理解できていないだろう。
つまり憧れのお兄ちゃんとしての想いだ。
恋愛感情ではない。LOVEではなくLIKE。
なら、憧れるお兄ちゃんとしてキリッと返さねば。
「…そうだね。大きくなったら結婚しようか」
「ほんと!? お兄ちゃん! 約束だよ!!」
「あぁ、約束」
6歳なら、大人になる頃には忘れるだろう。
子供に夢を与えるのも、大人の役目だ。
「じとーっ」
あれ、エリスお嬢様の嫌な視線…。
ルルは顔を赤くして走り去った。
村の郷土料理。
村の踊り。
村の優しさ。
俺は、この世界で初めて宴を心から楽しんだ。
翌日、俺たちは村をあとにした。
ルルは泣きながら、
「お兄ちゃん行かないでーー!!
あたしも行くーーー!!!」
とダダをこねる。
随分と懐かれたものだ。
ギルドに戻ると、俺は報告した。
・リザード討伐は1000体になったこと
・それを操る存在がいたこと
・楽園の使徒【ラプラス】の存在
・グリーンドラゴンを倒したこと
Cランク任務でこれほどの異常事態、誰も予想しないだろう。
「楽園の使徒【ラプラス】…聞いたことないな」
「ゲルドさんでも知らないのですか」
ギルドマスターも知らないとは。
「闇ギルドの情報は色々聞いているが、ラプラスはわからんな。
とはいえ闇ギルド自体が情報の半分も掴めないから、わからんことの方が多い」
なるほど、隠された組織だから情報が少ないのか。
「しかもラプラスが闇ギルドでなければなおさらだ。そっちは専門外だからな!」
闇ギルドなら正規ギルドとの衝突で情報はあるが、ラプラスは違うので情報がないのだろう。
「あと、グリーンドラゴンを倒したという話は信じられんな…。素材があればいいのだが」
そうなのだ。素材がないのだ。
俺が倒したリザード1000体とグリーンドラゴンは魔法で作られたもの。
メイデンを倒したと同時に消えてしまった。
「ウェルの言っていることが正しければ、村に行けばリザード100体討伐として報告してくれるだろう」
つまり、証明できるのは討伐報酬の範囲だけ。
うぅ…あんなに苦労したのに…。
それにしても、楽園の使徒【ラプラス】か。
全てが謎に包まれた組織――今後どうなることやら…。
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