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133.精霊界と魔界

第8章完結まで連続投稿します!

追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!


 【精霊界】。


 この世界とは別の次元に存在する、もうひとつの世界。

 そこは霞がかった幻想の空に、淡く揺らぐ光の粒が漂う静寂の大地――。

 時間の流れすらこの世界とは異なり、あらゆる生命が霊力に満ちている。


 その世界の住人は、精霊のみ。

 彼らがこちらの世界に姿を現すためには、主との契約が必要となる。


 契約が結ばれた瞬間、主の霊力が道となり、精霊界と現世が繋がる。

 精霊たちはその霊力を媒介にして、この世界へ召喚されるのだ。


 そして、使命を果たしたとき――あるいは致命的なダメージを受け、現世の霊力に耐えられなくなったとき――彼らは再び精霊界へと帰還する。


 精霊界は癒やしの領域でもある。

 傷を負った精霊はその地で自然と回復し、再び主の呼び声に応じて姿を現す。


「と、言う感じですわ!」


 リーズが息を整えながら、いつもの上品な口調で説明を締めくくった。

 その瞳には、どこか誇らしげな光が宿っている。


 俺は思わず頷いた。

 だから、レナはいなくなったわけじゃなかったのか。


「…とはいえ、まだ傷が完治してないから精霊界に帰るね~」


 レナは笑いながらも、どこか疲れたような表情をしていた。

 光の粒子をまとい、少しずつ輪郭が薄れていく。


 彼女は、自分の霊力だけでこの世界に顕現できる希少な存在。

 ピエールの【黒き槍】で貫かれた後、強制的に精霊界へと転移し、治癒を受けていたのだ。


 しかし、俺の【深淵の闇魔法】が暴走した瞬間、彼女は精霊界の出口付近で霊力を逆流させ、俺の暴走を鎮めた。

 傷も完全に癒えていないのに、そんな器用な真似を――。


「…ありがとうレナ。助かったよ。ゆっくり休んでね」


「お代は高級スイーツだからよろしくね~。バイビ~」


 軽やかに手を振ると、レナは光の粒になって消えた。

 精霊界へ帰ったのだろう。


 命を救われて、スイーツ代で済むなら安いものだ。


「HAHAHA!! 皆、無事でよかった!」


 響き渡る明るい声。

 ピエールの呪術で倒れていたミスター・Mが、いつの間にか目を覚ましていた。


「ミスター・Mも無事で何よりなのじゃ」


「HAHAHA!! ついでに面白いことになっているぞ!」


 ん? 面白いこと?


 次の瞬間、地面が低く唸りを上げた。


 ゴゴゴゴゴ……


 ズガーン!!


 轟音とともに天井が崩れ落ち、岩片が雨のように降り注ぐ。


「洞窟が崩れてきて我々は下敷きになりそうだ」


「早く言ってよ!!!!」


 突っ込みを入れる暇もなく、視界が揺れる。

 どうやら、俺の放った一撃が想像以上に威力を持っていたらしい。


 地上まで届くほどの衝撃――。

 1時間も階段を降りてきた深層から、まさかここまで吹き抜けるとは。


「【アイテムボックス】!!」


 俺は慌ててアイテムボックスを展開し、マジックポーションを5本取り出す。


 ゴク、ゴク、ゴクッ。


 プハァー!!


「すぐに脱出しよう!みんな捕まって!!!」


 体力も霊力も限界だが、魔力さえ戻れば転移できる。


「空間魔法【クアドラブル・エクストラテレポート】!!!」


 視界が白く染まり、空間がねじれる。


 【クアドラブル・エクストラテレポート】――

 固有魔法【ラーニング】によって、四重同時転移を可能にする。


 シュンッ!


 瞬間、全員の姿が消えた。


 その直後、轟音が洞窟を飲み込む。


 ズドドドドドドドド!!!!!!


 地上にあった炎の神殿【イグニス】、風の神殿【アニマ】、水の神殿【アクア】、土の神殿【ソルム】――

 そして五つ目の神殿までもが崩壊した。


 すべて、跡形もなく。


 シュン!


 ドサドサドサッ!!


「いてて…着いたかな?」


 体が重い。転移の負荷が限界を超えていた。


「どうしたのだお前たち!? いきなり現れて…!」


 目の前には王の玉座。

 ここは――ジェノケル王国の王の間。


 荘厳な赤い絨毯の先に、王【ゴアルダ】が険しい表情で立っていた。


「こ、国王陛下!! 我々正義の一行は神殿に行っておりましたが…」


 ミスター・Mが状況を説明する。


 暗殺ギルド【ナハト】ではなく、真の黒幕――楽園の使徒【ラプラス】が関与していたこと。

 そして神殿が崩壊したことを。


「うむ、そうであったか。ラプラスに関してはヴィヴィアンから聞いておる。まさかこの国にもおるとはな」


 王は険しい表情を崩さずに頷いた。

 彼の背後では重臣たちがざわつき、緊張の空気が漂う。


「ご苦労であった!この城の客室に案内するからゆっくり休むといい!」


 その言葉に、全員がようやく安堵の息を漏らす。


 俺も――もう限界だった。


 バターン!


「ウェル!?」


 崩れ落ちる俺の体を、エリスお嬢様が慌てて抱きとめた。


「大丈夫じゃ。気を失っているだけじゃ」


 その声を最後に、意識が闇に沈んでいった。


 そして俺たちは客室へと運ばれ、長い戦いの疲れを癒すことになった。


 ――あの神殿はいったい何だったのか?


 疑問だけが胸に残る。


_______________________


 ここは、ダンジョンのさらに奥――魔物だけが住む世界【魔界】。


 黒い溶岩が流れる地を、異様な光が照らす。

 腐臭と硫黄の混ざった空気の中、無数の魔物が呻き声を上げていた。


 ボッ!


 青白い炎が灯る。


「…ほぅ…俺の傀儡を壊すとは、やるではないか。ウェル・ベルク」


 漆黒の玉座に腰かけるピエールの姿。

 その瞳は冷たく光り、まるで深淵を覗くようだった。


「おいおいピエールちゃーん!人族のガキなんかに君の【実力の100分の1】の手作り人形を壊されちゃったのかーい?」


 嗤う声。

 闇の柱の上に立つ、男――第三級使徒【サタン】。


 ピエールが倒されたのは、彼の本体ではなかった。

 あれは【実力の100分の1】しか持たない傀儡だったのだ。


「【サタン】。第三級使徒が第一級使徒にその態度は失礼であろう」


 別の悪魔の低い声が魔界に響く。


「それにしてもピエールの【100分の1】の実力で呪術も大して使えない傀儡とはいえ、魔族や竜族でない人間が勝利するとは驚きだ。それに【ここへ繋がっていた神殿】も壊されてしまった。だが、我々【ラプラスの悪魔】にとって驚異になるとは思えんな」


 重苦しい沈黙。

 背後の闇がざわめき、数多の悪魔の影が蠢く。


「俺が見つけたオモチャだ。この件は俺に任せてくれないか?」


 ピエールが静かに言う。

 口元に浮かぶのは、楽しげな笑み。


「あと【ラディソス】の最高責任者の【ラルス】がまた我々と交渉したいそうだ。ラプラス様も【S4】も我々すら滅多に会えないのに。なんて図々しい人間だ」


「しかし、我々に大いに協力してくれるだけでなく、人間とはいえラプラス様のご友人なのだから無下にはできんな」


 玉座の周囲に立つ悪魔たちが、口々に囁く。

 その声は祈りにも似た熱を帯びていた。


「我々の全ては神【ラプラス様】のために!」


 その叫びが魔界に反響し、天蓋の闇を震わせた。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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