120.サヤと【深淵の闇】
第7章完結まで連続投稿します!
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
速く強い剣撃がぶつかり合い、衝撃波が森の空間を震わせる。
枝葉が激しく揺れ、木の幹が微かにしなり、落ち葉が渦を巻く。小川の水面にも波紋が広がり、鳥たちは驚いて一斉に飛び立った。
ズガガガガガガガガ!!!!!!!
「す、すごい衝撃アル!!」
「飛ばされそうですわ!」
「負けるでないぞ! ウェル!」
衝撃は観戦していたテンちゃん、リーズ、エリスお嬢様にも届く。彼女たちは木々の隙間から息を呑んで戦いを見守る。
しばらくして衝撃が収まった。
「…拙者の負けでござる…」
俺はサヤの腹に拳を寸止めしていた。放った技は、サヤの剣技とちょうど相殺するように調整し、残った力を拳に乗せて攻撃する直前で止めたのだ。
「…これをもし喰らっていたらタダではすまないでござるな…」
サヤは拳の威力を認識し、わずかに身震いした。
「…女の子を斬るのも殴るのは好きじゃないからね」
互いに刀を納め、手を差し伸べて握手する。手元に温かさを感じる瞬間だった。
「…ソナタから真意が刀を通して伝わってきたでござる。その手のこうに魔法陣を刻んだ主は知るぬようでござるな」
刀をぶつけ合い、俺の言葉を信じることにしたサヤ。
「あぁ…本当に知らない。よかったらサヤが知っていることも教えてくれないか?」
話を聞く限り、サヤは俺の魔法陣や【深淵の闇】について何か知っているようだ。逆にこちらから質問したいと思った。
「もう良いのか?」
エリスお嬢様が声をかける。
「えぇ…大丈夫です」
戦いが終わり、一同が安堵の息をついた。
「凄かったアルなぁ」
「S級冒険者も顔負けの実力でしてよ? あなたは一体何者なのか教えてくださいませ」
テンちゃんとリーズの目にも、俺の実力はS級冒険者に匹敵するか、それ以上に映るらしい。
「…鎖ノ国から来たということは…。お主、竜族じゃろう?」
「え!? 竜族!?」
竜族――鎖ノ国に住む一族で、数ある種族の中で身体能力が最も高く、魔族と並ぶ最強の一族と言われている。
「そうでござる。よくわかったでござるな」
サヤは竜族の一員だった。しかし、見た目は普通の人族と変わらない。
「とりあえず移動しませんこと? 屋敷でお茶をしながらゆっくりお話したいですわ」
森の立ち話より、腰を据えて話した方がいいとリーズが提案する。
「賛成アル!」
「異論はないでござる」
「構わぬぞ」
「俺もその方がいいかな。正直【魔導霊気】を使ってフラフラだから」
というわけで、俺の空間魔法【エクストラテレポート】で全員、ルミネスゲートの屋敷に戻った。
「す、凄いでござる!!! 一瞬でここまで来るなんて驚きでござる!!」
俺の移動魔法にサヤは目を見開く。
「どうじゃ! すごいじゃろ!」
俺ではなく、何故かエリスがドヤ顔する。
「拙者の技を扱ったりいったいどんなカラクリがあるでござるか?」
「それは俺の固有魔法【ラーニング】で…」
俺はラーニングについて説明した。
「それは便利でござるな…。しかし、受けなければ習得しないとはドMにぴったりな…」
「ああああああああぁぁぁ!! 屋敷に入ってええええええ!!!!」
最後まで言わせず、俺はセリフを被せてサヤを屋敷に案内した。
「改めて自己紹介するでござる。拙者の名は【黒國 沙耶】。武者修行と腹違いの姉を探して鎖ノ国からこの国まで来た竜族でござる。そして、決闘の非礼をお詫び申すでござる」
サヤは深く頭を下げた。
「いや、いいよ! 気にしてないから」
エリスお嬢様にはお人好しと言われそうだが、俺は気にしない。
「まぁ、それはもう良いとして、何故ウェルに決闘を申し込んだのか。魔法陣の何を知っておるのか話してもらおうかのう」
紅茶をすすり、話を切り出すエリスお嬢様。
「そうでござるな。まずはウェル殿に挑んだことは姉上とは関係なく、武者修行でござる。ブルガンリルム王国最強の冒険者と戦ってみたかったのでござる!」
「なるほど…俺と戦ったのは武者修行のためか。でも今日最初に会ったとき、なんかピリピリしていたみたいだけど、その理由も話してくれるかな?」
王国一の冒険者と戦うために決闘を申し込んだが、今日は模擬戦以上に殺気を感じた俺。
「ウェル殿の魔法陣についてでござる。その魔法陣は【深淵の闇魔法】を扱うための魔法陣でござる」
「【深淵の闇魔法】!? って何!?」
一瞬かっこいい名前だと思ったが、すぐにただ事ではないと察した。
「【深淵の闇魔法】。これは三大闇ギルドの一角【グリムリペア】のギルドマスター【キュリア・ロザリオ】が扱う魔法。恐らくウェル殿はその者に会い、手の甲に魔法陣を刻まれたのかと…」
「三大闇ギルドのギルドマスター!?!? ちょちょちょ!!! ちょっと待った!!!」
突然の大物の登場に、俺は深呼吸する。
「…三大闇ギルドってナハトが関わっているのもそのうちの一つアルな?」
「そうですわテンテン。三大闇ギルドには【グリムリペア】【ノワ】【ジャブラ】があり、グリムリペアに関しては特に謎に包まれていますわ」
リーズはギルドバトルの一件以来、三大闇ギルドの情報を調べていた。
「…まさか…あやつ…」
エリスお嬢様は思った。俺に魔法陣を刻んだ者――その者に会ったことがあるのだ。眠らされ、阻止できなかったが。
「…そのギルドマスターは少年のような容姿かのう…?」
「…拙者も容姿まではわからぬでござる」
サヤが答えなくても、謎の少年の正体はほぼ確信できた。
「妾は会ったかもしれぬぞ。グリムリペアのギルドマスターに」
「えええええええええええええ!?!?!?」
全員が驚愕する。
「前にも言ったであろう。ウェルに近づいてきた謎の少年の話。あやつがグリムリペアのギルドマスターに違いないのじゃ!」
エリスお嬢様はギルドバトルの時、寝室で眠っていた俺に近づいた少年の話をした。その者こそがキュリア・ロザリオだと。
さらに話を続けると、サヤがグリムリペアを追う理由も明らかになる。
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