117.腹違いの姉
第7章完結まで連続投稿します!
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
俺の木刀はサヤの木刀を受け止めたが、その破壊力は想像以上だった。次の瞬間、両方の木刀が粉々に砕け散る。
「う! うわ!」
衝撃が手のひらから腕を伝って走る。
ほんの一合だったのに、肘の奥まで痺れるほどの威力だった。
「お、おい…今の見えたか?」
「い、いや…一瞬で木刀が粉砕したぐらいしか…」
観客として集まっていた冒険者たちは、誰一人として抜刀の瞬間を見切れていなかった。
それほどまでに速く、鋭い一撃だったのだ。
「…なるほどアル…」
テンちゃんが腕を組み、目を細めて分析を始める。
「あのスピードの正体は【気】を足元に集中させて、踏み出す瞬間に爆発させてるみたいアル。その【気】は身体を移動させた後に、腕、手首、木刀って順番に流して威力も上げてるネ」
地を蹴る瞬間の加速、空気の裂ける音――。その動作をわずか刹那の瞬間で完結させる、まさに芸術的な一撃。
俺は木刀越しに、彼女の流れるような【気】の制御を確かに感じていた。
「……もし真剣ならまだ勝負はつかなかったでござるな」
静かな声でサヤが呟く。
滅魔流【魔翔一閃】――その名に違わぬ高速の一閃。
俺はその一撃を察知し、反射的に木刀で受けた。
だが、木刀は耐えきれず粉砕。互いに一歩も譲らぬ、まさに紙一重の攻防だった。
「やはり、ソナタは強い。またお相手致す」
サヤは風に揺れる髪を整え、静かに背を向ける。
凛とした立ち姿のまま、彼女はギルドの門をくぐり抜けていった。
「な…なんだったんだ…?」
呆然と立ち尽くす俺たち。全員、言葉を失っていた。
その日の夕暮れ、俺たちはマイホームに戻った。
「しっかし強かったアルな! あのサヤって子! でもまだアタシの方が強いアル!」
テンちゃんは腕をぶんぶん振りながら、まるで子どものように張り合う。
夕日が窓から差し込み、光が髪に反射していた。
「そうでしょうか? まだまだ実力は隠し持っているようでしてよ?」
リーズは、静かにそう告げた。
「し、素人は黙っとれアル!! それを考慮してもアタシの方が強いアル! それになんでそんな事がわかるアルか!?」
「ふふふ、女の勘ですわ」
「~~~!! 根拠がないアル!!!」
【気】の達人テンちゃんと、女の勘を信じるリーズ。
部屋の中に、いつものような軽口の応酬が響く。
「……俺もどのくらい強いのかは分からないな…」
俺は窓の外に目をやる。
紫に染まる空の向こうに、まだ見ぬ強者たちの影が揺れている気がした。
「…少なくても…剣術だけでいうなら、今まで戦ったことがある剣士の中で右に出るものはいないだろう」
俺が戦ってきた名だたる剣士たち――
元A級冒険者のココさん、ギルドマスターのゲルドさん、A級冒険者のビリー、そしてS級冒険者のレオンさん。
その誰よりも、純粋な剣技の冴えではサヤが上を行っていた。
「それにしても、あやつは何しに来たんじゃ?」
エリスお嬢様が紅い唇でそう言う。
確かに、目的は最後まで明かされなかった。
「でもまぁ、剣を交えた感じ悪い人じゃなさそうだ」
「お? ウェルもそういうのがわかってきたアルな! 拳や剣を交えればわかり合うアル!」
テンちゃんが楽しそうに笑う。
拳で語る――その言葉の通り、俺も彼女の本質を感じ取っていた。
まっすぐで、迷いのない瞳。あれは悪意を持つ人間のものではない。
「…結局のところ決着がつかなかったから、また来るのかな?」
「ま、その時は木刀ではなく真剣かもしれんがのう!」
「エリスお嬢様! ご冗談を!」
思わず苦笑が漏れる。
だが――その未来が冗談で済まないことを、俺はまだ知らなかった。
夜の帳が降りた街外れ。
人目のない裏路地で、サヤは黒いフードの男と向かい合っていた。
月明かりが、彼女の腰の刀を銀色に照らす。
「…姉上の居場所がわかったのでござるか!?」
「そうなのです! あの悪魔の子供!! ウェル・ベルクが絡んでいます!! 彼らは恐らくやつらの一味でしょう!」
男の声は焦燥に満ちていた。
闇の中、その目だけがぎらりと光る。
「…拙者も剣士の端くれ…剣を交えてみたが、悪人には感じられなかったでござる…」
「ですがウェルの手のこうに、魔法陣のようなものがあったでしょう? あれはなんだかわかりますか?」
「? いや、気にはなっていたでござるが…それは何でござるか?」
「あれは【深淵の闇魔法】でしょう」
「【深淵の闇魔法】!?!? それが本当なら…」
「はい! グリムリペアのギルドマスター【キュリア・ロザリオ】と関わりがあるかと…!」
その名を聞いた瞬間、サヤの瞳が鋭く光る。
夜風が吹き抜け、フードの裾が舞い上がった。
「…ソナタの情報が正しいかどうかは置いておくとしても、ウェルとは真剣で戦う理由ができたでござる」
サヤは静かに刀を握る。
その刃はまだ抜かれぬまま、確かな決意だけがそこに宿っていた。
「…姉上はグリムリペアを暗殺しようとしてから消息が途絶えている…。わずかな情報を掴むためもう一度挑戦を申し込もう。ウェル・ベルク。次は全力でお相手するでござる!」
月光に照らされたサヤの横顔は、悲しみと覚悟を併せ持っていた。
彼女は生き別れになった腹違いの姉を探すため、故郷【鎖ノ国】を離れた。
姉は暗殺者として裏社会を渡り歩き、やがてグリムリペア暗殺の依頼を受けたまま消息を絶っている。
サヤはその行方を追い、各地を旅し、武を磨きながら情報を探していた。
そしてブルガンリルム王国最強の名を持つウェル・ベルクの存在を知り、決闘を申し込んだのだ。
戦いと探求の果てに、彼女の刀は再び光を帯びる。
その瞳の奥には、姉の影と、次なる決意が燃えていた。
そして――
ラーニングにより習得。
【魔翔一閃】。
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