116.鎖ノ国から来た侍
第7章完結まで連続投稿します!
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
波乱のギルドバトルから約1ヶ月。
あの激戦で脚光を浴びたのは、俺――【瞬速の猟犬】ウェル・ベルクだった。
その名は瞬く間に王都中へと広まり、今や俺宛ての依頼が山のように届く。
ギルドマスターたちが必死に書類を仕分けしているが、それでも溢れかえるほどだ。
俺はその中から、適度に仕事を選んで受けるようにしている。
もう、あの頃のように無茶をして倒れるような働き方は二度としない。
仲間との連携も、あの戦いを経て格段に洗練された。
後衛はエリスお嬢様。冷静沈着に魔法で仲間を支え、戦場を俯瞰する指揮官のような存在だ。
同じく後衛のリーズは、霊力を使った【霊法】と魔法を組み合わせた【魔霊力】で攻守ともにサポートする。
前衛にはテンちゃん。
鍛え抜かれた武闘家の肉体で、巨体の魔物にも怯まず飛び込み、拳と脚で叩き伏せる。
そして俺は――前線に立つ剣士でありながら、状況によっては後方から魔法で援護もできる。
万能型のポジションだ。
「今のパーティーのバランスを考えるなら、もう1人前衛がほしいアルな」
テンちゃんが、腕を組んで唸る。
「でも、そうそう良い相手なんて決まりませんことよ?」
リーズが微笑む。
「人の巡り合わせは運次第じゃ。気長に誰かと巡り会うまで待つしかないのう」
エリスお嬢様が、髪を指で弄びながら呟く。
今のパーティーでも十分強い。
下手をすれば、王国でも屈指の実力だろう。
けれど、俺たちの目標はただの冒険ではない。
闇ギルド【ナハト】、そして楽園の使徒【ラプラス】――。
奴らを打ち倒すために、俺たちは今日も鍛錬を積み重ねている。
夕方、依頼を終えてルミネスゲートの本部へ戻ると、
廊下の先から人のざわめきが聞こえてきた。
「ん? なんだか騒がしいアル…」
「何があったのじゃ?」
テンちゃんとエリスお嬢様が顔を見合わせる。
他の冒険者たちがぞろぞろと訓練場の方へ向かっていた。
「あ! アニキたち! ちょうど良かった!」
若い冒険者が駆け寄ってくる。息を弾ませ、興奮気味に話しかけた。
「何があったの?」
「実はアニキに決闘を申し込んできた女の子がいたんですが、今は留守ということで代わりにビリーが模擬戦することになってんです!」
剣士ビリー。
かつて、俺が荷物係をしていた頃に追放した冒険者だ。
今は真っ直ぐに努力を積み、ギルドでも一目置かれる存在になっている。
「行ってみよう!」
自分に決闘を申し込む女の子――その正体が気になって仕方なかった。
訓練場に着くと、中央でビリーと見知らぬ少女が向かい合っていた。
少女は黒髪を高く結び、凛とした目をしている。
その立ち姿には、一切の隙がない。
「あれですわね」
リーズが視線を向ける。
「ここでは見ない格好アルね!」
「いや、テンちゃんが言う!?」
チャイナ服姿のテンちゃんに言われても説得力はない。
「あれは【鎖ノ国】特有の服装じゃな」
エリスお嬢様が静かに言う。
確かに、少女の衣は和装に似た布地で、風に揺れるたび鈴の音のような金具が鳴っていた。
(鎖ノ国…。そういえば、エリスお嬢様と初めて出会った時にも、その国の名を聞いたっけ。燃え盛る炎の中で…)
遠い記憶が胸の奥をくすぐる。
「初め!」
ギルドマスターのゲルドさんが、いつものように試合開始の合図をした。
風が一瞬、止まる。
ズガッ!!
ズザザザーーッ!
「ぐぁ!」
模擬戦開始からわずか一秒。
ビリーは少女の木刀の一撃を受け、地面を滑って転がった。
砂埃が舞い上がり、全員がどよめく。
ビリーの身体はピクリとも動かない。
「そこまで! 勝者! サヤ!!」
ゲルドさんの声が響くと、少女は軽やかに木刀を下ろし、こちらを見た。
「そちらのほうに強い【気】を感じるでござる!」
まっすぐな眼差しが、俺を射抜いた。
(サヤ…。語尾にござる…。古風な美少女…。悪くない!!!!)
ぎゅむーっ!
「いてて! エリスお嬢様! 痛い!!」
「まーた訳の分からん妄想をしておったじゃろ?」
どうやら思考が筒抜けらしい。
リーズとテンちゃんも、じとりと俺を見ている。
「こ、コホン…! では行ってきます」
冷や汗を拭いながら、サヤの元へ向かった。
「ソナタがウェル・ベルク殿でござるか?」
「うん、そうだよ。君が俺に決闘を申し込みに来たんだね? 何のために?」
俺の問いかけに答えず、サヤは静かに木刀を構えた。
その動きには一分の隙もない。
「理由は拙者に勝ってからでござる。拙者の名は【黒國 沙耶】。いざ! 尋常に勝負!!」
「それでは! 初め!!」
ゲルドさんの声が再び響いた瞬間、サヤの姿がかき消えた。
ズガガガガガガガガ!!!
木刀が空を裂き、砂が舞い、互いの踏み込みが交錯する。
観客の目には、もはや残像しか映らなかった。
「ウェルとあそこまで剣で渡り合えるなんてやりますわね」
リーズが息を呑む。
「あと、あのサヤって子は【気】を使っているネ!」
テンちゃんの目が鋭く光る。
同じ武の道を歩む者だからこそ分かるのだろう。
「ま、ウェルの本当の実力は剣術ではないからのう。女の子相手だからといってまた手加減しているようじゃ」
エリスお嬢様が、わずかに不満げに呟く。
「す、すごいね! ここまで強いなんて…」
俺は純粋に驚いていた。
自分と年が近い少女で、ここまで肉迫戦ができる相手など、テンちゃん以外にはいなかった。
「…上っ面の褒め言葉に興味はないでござる。これぐらいで王国一の強者とは思えないでござる。ソナタが手加減する余裕がないなくように、少し本気を出すでござるよ?」
サヤの声に、場の空気が一瞬で変わる。
圧力のような気配――【気】そのものが渦を巻く。
彼女は居合の構えを取った。
「…滅魔流…」
ヒュンッ!!
「【魔翔一閃】!!!!」
ズガーーーーン!!!
眩い閃光と共に、互いの木刀が粉々に砕け散った。
風が止まり、訓練場は一瞬、静寂に包まれた。
誰もが息を呑んで、二人の立つ場所を見つめていた――。
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