01.追放された俺は悪役令嬢と出会う
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です。
燃え盛る炎が夜空を赤く染める。
屋敷の梁が崩れ落ち、炎が壁を舐めるように広がっていく。
熱気は肌を焦がし、呼吸すら苦しい。
誰も助けに来ない。
焼け死ぬには十分すぎる熱さだった。
その地獄の中で、一人のおっさんが少女を抱きかかえ、喉が裂けるほどの声で泣き叫ぶ。
「なんで…なんで…なんでこんなことになったんだあああああああああああ!!!!!!!!!」
「……泣くでない…妾の力を授けてやるのじゃ…」
おっさんの腕の中にいる少女は、透き通るような白い肌に、長く輝く金髪。
淡いグリーンの瞳は揺らぎながらも、どこか誇り高さを宿している。
彼女はこの屋敷の令嬢だった。
炎に包まれるその最期の刻、少女は微かに笑みを浮かべ、おっさんへと囁いた。
――半年前。
ギルドの喧噪に包まれたテーブル席。
酒と汗の匂いが充満する中で、その言葉は吐き捨てられた。
「お前はもういらねぇよ! このお荷物野郎!!」
B級冒険者パーティーのリーダー、剣士ビリーの冷酷な声。
その場の空気は一瞬で凍りついた。
「えっと…突然過ぎるかなぁ~…なんて」
「はっ! あんた、ギルドでなんて言われているか知ってんだろ? 【無能なおっさん】だよ! そんな奴と組んでたら、こっちの評判まで地に落ちるんだ!」
「そ、そんなぁ~」
魔導師カーリン、拳闘士ユルゲンが、追い打ちをかけるように鼻で笑う。
「荷物持ちならおっさんより優秀な奴なんて、いくらでもいるわ」
「まぁ、無償で働くなら考えてやってもいいけどな」
嘲笑と冷笑。
普通の人間には耐え難い屈辱だろう。
「おっと! 出ていく前に、お前の有り金全部置いていけ!!」
「そ、それはさすがに…」
「お前の意見なんかどうでもいいんだよ! 目障りだからとっとと金置いて消えろ!!」
強引に金貨の袋を奪われ、蹴り飛ばされる。
転がった床の上で、周囲の冒険者たちの嘲り笑いが突き刺さった。
「せいせいしたぜ!」
「おい、ビリー」
「ん? なんだ?」
「それ…俺の飲み物…」
「………」
間の抜けたやり取りに、再び酒場は笑いに包まれた。
ただ一人、打ち捨てられた【無能なおっさん】を除いて――。
俺の名前は【セーイチ】。
実は二年前に異世界転生した三十六歳のサラリーマンだ。
本名は【川端誠一】。
地球にいた頃は社畜として、朝から晩まで仕事に追われる日々を過ごしていた。
夕食はカップ麺ばかりで、睡眠時間は二時間もない。
楽しみもなく、ただただ仕事に身を削り続ける人生。
若い頃から特に目立つこともなく、モテることもなかった。
小学校ではいじめに遭い、「パシリにされること」を「頼られている」と勘違いしていた黒歴史さえある。
結局俺は――お人好しで、不器用なままだった。
その夜も残業を終えて帰宅し、玄関をくぐった瞬間。身体が鉛のように重く、ベッドまで辿り着けなかった。
「ダメだ…眠い…」
玄関でそのまま意識を手放した。
そして次に目を開けた時。
「…ん、朝かな?」
差し込む陽光が眩しい。心地よい風、鳥の声。
「天国にでも来たのか…?」
しかし目の前に広がっていたのは、緑豊かな森だった。
「…森!?」
そこからの出来事は早かった。森を彷徨い、ゴブリンに追われ、やっとのことで街に逃げ込んだ。
異世界転生――それを確信した瞬間だった。
しかし俺には、チート能力も特別なスキルも与えられていない。
年齢も若くなく、体力もなく、剣の腕も皆無。
冒険者になったものの、できるのは荷物持ちと雑用だけ。
それでも新人の世話焼きで慕われることもあったが、次第に【無能なおっさん】というレッテルが定着してしまった。
そして今、ついにB級冒険者パーティーから追放され、仕事すら失った。
領主の息子でもあるビリーに目をつけられたせいで、信頼もなくなった。薬草採りの依頼すら回ってこない。
「理不尽すぎる人生だな…」
だが落ち込んでばかりはいられない。
俺は街を出て、別の場所で再出発を決意した。
森を抜けるため、その夜は野宿を選ぶ。
「…喉が渇いたな」
深夜、目を覚まし、近くの湖へと歩く。
草を踏みしめる音が静寂に響く。
やがて湖面に辿り着いた時――。
水辺で煌めく月光に照らされ、裸の美少女が水浴びをしていた。
年の頃は十四、十五。
淡いグリーンの瞳が揺れ、金色の髪が水滴を散らして輝いている。
まるで妖精か天使のように見とれた。
それが、この先を変える運命の出会いになるとは、まだ知る由もなかった。
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