魂の処刑場
魂の処刑場、短編です。学ぶことが出来ない魂は、追体験から自分の行いをすべて受ける罪を背負って転生します。この残酷な魂のシステムは終わりなき牢獄と言われ、最後は魂が無へ還ると言われています。他人を傷つければ必ず自分の来世に同じことが戻ります。では、大虐殺をしたゆうじん王はどんな転生を繰り返すのでしょうか。短編小説、スタートです。
「オギャー」俺は大いなる祝福を受けて生まれていない。生まれた瞬間に聞いた言葉は最悪だった。
「お前なんか生まれなければよかった。なんで生きているんだ!」
この言葉を聞いて喜べる奴はいない。赤ん坊の俺でさえうんざりしてビービー泣いたものだ。当然、うるさがられて首を絞められ、殺されそうになった。
『王!殺してしまいます』
突然、前世の記憶なのか、首を絞められた瞬間に映像があふれてくる。
俺は前世は王だったのか?
現実に意識が戻ると、母親らしき女が力を更に込めてきた。
(生まれた瞬間、前世のカルマなのか?この状況で俺に何が出来るんだ)
その瞬間にふっと力が緩んだ。
バシッ!
もう一人の女が叫ぶ。
「何やってるの!あんた。赤ん坊殺して、犯罪者になるつもり?」
(赤ん坊の命より、犯罪者になる方が問題なのか?)
俺は抱き上げられ、連れていかれた。さすがに赤ん坊の俺に状況を知るすべはなく、うつらうつらと眠るうちに怒鳴り声を何度聞いたことか。
「育てたくない!」
「面倒くさい」
「邪魔」
こんな言葉が飛び交っていた。赤ん坊が何もわかっていないというのは幻想だな。前世の記憶もおぼろげながらあるくらいだから、大人の会話くらい聞き取れるし理解もできる。そんなこともわからず赤ん坊をののしるなど愚の骨頂た。
結局、俺は母親らしき女のもとで育つこととなった。
毎日嫌がられ、怒鳴られる日々が幸せなのか不明だが、親の不満を受けつつ生きる土台が出来たことは、殺されるよりましと考えるべきか。
俺をかわいがる大人はいない。存在していることさえ忘れられていそうだ。食事はほとんど与えられず、寝るしかすることのない赤ん坊は泣く、疲れる、寝ることの繰り返しだ。
『王よ、奴隷に食事を与えなければ死んでしまいます。』
『奴隷が食事を要求するのか。愚か者!』
『死んだらまたさらって来ればよい』
うとうと寝ながら無残な過去を覗いてしまい、嫌な気持ちで思いっきり泣くと、母親らしい女がやってきてビンタをくらわす。一瞬何が起きたのかわからず、頭がグワンと揺れると、泣き止むしかなく静かになる。この方法が効果的と覚えたのか、泣くたびに叩かれることが続いてしまった。食事不足、日々の虐待、どれだけ時が過ぎたのかさえ分からいまま幼少期は過ぎていた。
俺は8歳になった。8歳になる頃には、もう他人に自分の体を見せることもできなくなっている。痣だらけの俺の体は、模様を作っていた。相変わらず親は、俺を殴るしいつも飯さえ大して食わしてくれない。唯一給食だけが救いだ。そんな育て方をするならなぜ俺を捨てなかったのか。あのままほっておけば、他人に拾われ、施設送りになったかもしれないのに、どんな事情があったのかを聞いてみたいものだ。なぜ親は子供を殴るのだろうか。殴りたいから殴るのか、こんなことを考えていると頭の中に殴られ続ける男がいた。またあの白昼夢か?過去生の記憶だろうか。
『なんで俺は殴られなければならないんだ。やめてくれ、やめてくれ。』と叫びながら騎士たちに殴られているこの光景をふと覗いて、不思議だと感じた。人を殴る事は楽しいのだろうか、痛い、痛いと言うのを聞いて、楽しいのだろうか。本当に理解しがたい感情だ。
その真ん中で、王らしい男が笑っている。あいつが命令したのだろうか。そんなことを考えているうちに意識を失ったらしい。
「お前、聞いてるのか」
突然背中をつかまれ、押された拍子に転んでしまった。周りにはクラスメイトが廊下を行きかっていた。学校の廊下でのことだ。更に間の悪いことに、頭をぶつけてしまった。廊下に作品を並べて即席の展示会を開いていた。その机の角にしこたま頭を打つと、周りの連中は頭を打ったときの音に驚いて俺を見た。またあいつかよ。そんな目をしながら俺を見ている奴らがいる。
(誰も助けてくれない。これが普通なんだよなぁ。)
背中をつかんだ奴は、知らん顔をしてさっさと逃げていった。俺は頭から血を流し、保健室へ行くしかない。
(あー、また親に難癖付けられるのか。転んだことにしておこう。)
14歳になった頃には受験が目の前にぶら下がってきた。
(本当にこんな日々なんて、つまらん世界だ)
と内心思っているが、もしこの世界でスキルが使えたり、魔法が使えたりしたら、俺は何をするのだろうか。14歳になって受験、受験と言って勉強させられている今の俺に、スキルがあったら何をするのか考えてみたが、もともとアホな上に頭の打ちすぎで思考が追い付かん。さっきまた頭を打ってズキズキ痛いばかりだし、魔法があっても何もできないだろうと、さっさと思考を停止する。
魔法か、魔法があったら自由に生きていけるだろうか。そんなことを考えていた。
まだ転ぶ程度のこれはいい。放課後呼び出されて
「サッカーの練習だ」と言って、俺にボールを当てる野郎がいる。4・5人相手に俺はボールの的になっている。
「お前はキーパーだ」と言いながら、体中のあちこちにボールをぶつけてくる。直接ぶつかるのはサッカーボールだが、スピードもあるし他方から蹴り上げてくるしで、たまったもんじゃない。しかし俺が放課後にサッカー場へ行かないと、今度は何をされる不明だ。車道に突き落とすなんてあいつらならしそうなことだしなぁ。
「やめてください。やめてください」こんな言葉を言ってみると、前世の記憶がやはり戻ってくる。このフラッシュバックは、多分前世の記憶だろう。
大木にくくられ、嫌がるところを無理やり弓矢の的にされている奴が見える。1歩間違えたら命が飛ぶだろう。なのに騎士どもは、嬉しそうに楽しそうに弓を射っている。
『腹をねらえ』狙われた奴にしたらめちゃくちゃ迷惑だ。拷問・リンチ・虐待、そんな言葉で表現されるものではない。これは殺人だ、と頭をよぎった。
それから先は頭がズキズキと痛くて、考える力がなく、がくんと意識が落ちた。必ず記憶が戻ると頭痛が起こり、状況がわからなくなる。この状況がわからないというのが曲者で、周りの奴らは俺が意識を失うのが楽しくてしょうがない。
サッカーのボールを当てて俺が「止めてくれ」と頼んでいるそばで、
「早く倒れろ! 早く倒れろよ」と外野が言っている。倒れる人間がそんなに楽しいのか、さっぱりわからないが、もういい加減にしてくれ。
高校に入ると、飯代がかかると言われ新聞配達をさせられた。稼いだ金が俺の食い扶持になるはずもなく、親は相変わらず俺を食い物にしている。いつまでこの人生は続くのだろう、と考えるようなったのだから俺も大人になったなとぼやいてみた。新聞配達を朝からして、たいした飯も食わせてもらえず、良い成績取れと親は相変わらずテストを見て殴るばかり。だが、途中で社長が
「もういい加減アルバイトはやめて受験に集中しろ」と言ったので、そこから先に新聞配達はしなかった。しかし、結局俺の金を使ってダラダラと生きている母親は、自分で働く気はなく、「お前に養われて、一生暮らしてやる」と叫んでいたから、受験は辞めて新聞配達を継続しながら働くことになった。
もちろん、高校卒業でほっとしたのもつかの間、お決まりの社会人でもブラック企業に入社。寝る暇もなくフラフラになって働き続け、最後はトラックにひかれて21歳で死亡。親はたんまり賠償金をとって暮らしていくだろうと思ったのが、最後の記憶だ。
「魂リセット」
あの世に戻ると、必ず行われるのが前世の記憶の抽出である。死後に行われる人生の記憶の甦りはかなりきついものだ。肉体はないので肉体への痛みは生じないが、心の傷はえぐられる。自分が愛されず、虐待を繰り返されたことを何度も思い出す作業は、またこれも業かも知れないが。
神の世界はまったく意味が解らない。何のために過去の記憶を再現していくのか、いつも問うてみたいが、魂には口がないので話すことは出来なかった。
また生まれ変わるのか、そしてまたあの地獄が続くのか。何のために、何が目的だ。魂の世界ではいつもこの繰り返しだが、誰も答えを教えてはくれない。そうこうするうちにまた転生する時間となった。
「オギャー」また転生してきた。今度は砂漠の国へ。赤ん坊が不要な場所へ送られた。
俺は奴隷として育っていた。奴隷は食事をまともにもらえない。朝から晩まで働きづくめだ。当たり前だが相変わらずフラッシュバックは起こってしまう。そのたびに鞭で叩かれ目を覚ます。ボロを纏い、自分が何者かもわからない世界で、生とは飯なんじゃないかと思うほど飢えていた。
ある日、買い物に使わされて歩いていると、ボロを纏った女の子供がフラフラしていた。もちろん、倒れる寸前だ。
(こんな奴に関わっていたら帰りが遅いとまた鞭で叩かれるな)
無視をして通り過ぎると、突然俺の目の前で倒れてしまった。もちろん周りの目を引いてしまう。俺は慌てて水がめと水がめの間に女の子供を引き入れ、少しの水を飲ませ、持っていた買い物の中からパンをぽとりと落として去っていった。
(なぜあそこでパンを落としたんだろう。帰ったらパンが足りないと殴られるだけなのに)
俺はこの一瞬の行動の意味が解らずに混乱していた。もちろん、パンが足りないことはすぐにばれてしまい、食事抜きで殴られるおまけつきという仕置きを受けたのだが。
何度も転生を繰り返し、残虐さとは何かを身に染みてきたころ、魂の管理神に呼び出されたのだ。
「ゆうじん王、そなたは2万人足らずの王国で、1億2570万5261回、民を拷問した。この全てを、そなたの魂をもって追体験し、拷問した民の苦しみを知るという極刑を受けている。」
「今回が最後の転生である。そなたは今回を最後に、魂の墓場である処刑場送りとなる。では、最後に聞こう。お前の願いをひとつだけ。」
俺に願いを一つ言えと言っているのか?ここまで苦しみしかうけなかった俺に?魂は考えたことが相手に筒抜けだ。嘘偽りのない思考が管理神に伝わってしまう。
苦しみを解放してくれと頼んでも、すでに受けた苦しみからは解放されない。この世界へ転生してまた苦しんで生きたとしても、今までと何も変わらない。
何一つ変わらない設定でひとつだけ変えたとして、何が変わるのか?
「俺は神の思考なぞ理解できねぇ、わかんねぇ」
「では、願いはないと解釈しよう」
神の「願いはない」と言う言葉に、一瞬だがあのボロボロの娘が浮かんだ。なぜこの瞬間にあの娘が浮かんだのか?理由なんてわかんねぇ。だが、きっと何か意味があったのだろう。
「いや、ひとつだけ、願いはある。たった一回だけでいい。死ぬ前に人を救いたい。」
「わかった。その願い、叶えよう。」言葉と共に光のシャワーが襲ってきた。魂ごと溶けるような感覚。救うと言う言葉は他人ではなく自分を救ったのだろうか。
俺は意識が朦朧とする中で光の洗礼を受け、その先の生へと流されていった。
「オギャー」
(あー、また転生したんか。)
「お前なんか生まれてこなければよかったんだよ!」
(またこのシーンか、そろそろ心も慣れてきて芝居のワンシーンのように感じる。結構俺も図太くなったな。)
親が子を愛せない、この人生でもこの設定らしい。親に愛されないと嘆く子供は多いのかもしれないが、その子供が悪くて愛されないとは限らない、このことを伝えたいと変な情にかられてしまった。
自分の業を返済していると考えれば、苦しみも見方が変わるもので、ひとつ嫌なことがあると残り何個、何個と数える自分がいる。何億?自分が王の時代に苦しめた民たちの心の傷や肉体の傷を受け続け、何度も転生する。こんな試練が存在すると知っていたら、王政時代にもっと民を可愛がっていたものを。などと最近は当時の自分の非道さを客観的に見る余裕さえ出てきたもので。
俺は相変わらずいじめや虐待の日々だ。この生活に慣れたとしても、孤独と飢えの連続に流石に体力が落ち、生きる力も限界になってきた。
「お母さん。お兄ちゃんをいじめないで!」
あ、今回は何故か妹がいたんだ。初めて妹の存在を知って驚いたわけだが。特に仲が良いわけでもなく、関わらず生きてきた妹だ。体が弱く、ほとんど寝たきりの妹が起きてきて、俺が苦しそうにしている姿を見たとたんに、母親にクレームを言ってくれている。
なんとなくだが、あの時の娘が生まれ変わったんじゃないのか?と疑ってもいる。
朦朧とする意識の中で、突然妹が倒れた。
母親は発狂して救急車を呼んだが、救命士が妹を見ながら俺の状態の悪さに気づき、二人とも救急車で運ばれてしまった。
生まれて初めてベッドに寝かされ、点滴やら看護師やら医師の診断を受けながら、なんと心地の良い場所なのだと、ぼんやり眺めていた。
食事は体力が落ちていたため重湯からだが、白米の味はするし、塩味の味噌汁もある。極楽だなぁと感じながら、これが神との約束の願いなのか?とうつらうつらと考えていると、
突然、母親が病室に入ってきて
「カリナが白血病なの!」と泣き叫んでいる。俺のベッドに突っ伏してワーワー泣く姿は、今まで経験したことはなく、何を言ったら正解なのか?と勘繰って言葉が出ずにいると
「あんたの骨髄をちょうだい!」と睨んだ涙目と言葉が噛み合っておらず、自然と俺は哀れみの感情が湧いて頷いていた。
その日の午後、医者や看護師が俺の体調を確認すべく様々な検査をし続けていた。
「体力が戻るまであと三日は無理ですね。お母さん、お兄さんと妹さんの骨髄は一致していますが、お兄さんの体力がなく耐えられないでしょう。妹さんはまだ二、三日は落ち着いていますから、本人の同意を得て骨髄移植に踏み切りましょう。」
(え?この天国がまだ続くの?)
「なんでお前はいつも役立たずなんだ!」いきなり平手が飛んできて、一同が呆気に取られていると、母親は泣き叫び俺をまた殴ろうとする。
「お母さん、これ以上虐待すれば、体力がまた落ちて骨髄移植ができなくなりますよ!」医者のきつい言葉にハッとしたのか、部屋にいるとまたおれを殴りたくなるためか、病室から出ていった母親を俺は苦い気持ちで見送った。
(俺はこれから守られるのか?)
「君はいつも虐待されて、何も言わないのかい?」
「何言っても仕方ないですから。」医者の問いかけに、ベットの脇にあるしおれたタオルを見ながらぽつりと答えてしまった。
「全てが終わったら相談員の面談が必要そうだね。」
医者の言葉は、これからの未来が変わることを意味してはいなかった。過去にどれだけ環境が変わろうと、俺の周りは負のエネルギーが溜まるのか、俺を虐待する奴らしかやってこない。これが今生の定めであると理解しているのだが。
「二、三日すると元気になりますよ。」優しく食事を食べさせてくれた看護師は励ましてくれた。
この展開はどう言うことなんだろう?俺の人生に優しさというフレーズはなかったのだが。
戸惑いながら周りの優しさに触れて穏やかに暮らすとはこう言うことなのか?思案していた。
逆に、何故俺は恐怖王とか残虐王と言われることに酔っていたんだろうと思い出す。何人殺しても、何人苦しめても何ひとつ満足せず、不快感だけが積み重なるあの時代に、優しさや穏やかさという要素があれば、きっと俺の王政も変わったのだろうにと、過去の自分を責めてみた。だが、すでに何億年という歳月がたち、魂の経験を繰り返す中で、俺自身が当時の残虐さを理解できなくなりつつある感情なので、頭が回らず花畑で転がりたい気分になってしまった。
ん?花畑?これは死という前兆なのか!
俺の中にある残虐さはもうなくなっていた。度重なる虐待を受け、自分の行いを見比べて感情をリンクさせると、はじめて他人の苦しみが伝わってくる。
こんなにも多くの民を苦しめ、自分も苦しむ俺の魂とは。どんな意味があって存在していたのか?などと哲学的に思考が頭に浮かぶ始末。暇すぎるってこう言うことなのか?
殴られて空腹で痛さと苦しさの中にいると、何も考える暇はなく、ただただ憎しみの感情に支配されている。しかし、憎しみを捨てて穏やかさを受け入れると、なんと心は暇になるのだろう、これが初めて感じた感情なのだが、他の奴らもそうなのだろうか?
そうこうしているうちに、妹の体調は悪化してしまった。今すぐ緊急オペに入ると連絡があり、俺は麻酔と共にこの世から意識を遠ざけ妹の姿の上に幽体離脱していた。
「終わったのか?」突然、死神から声をかけられ振り向くと、担当の死神が迎えにきていた。
「お前は最後の願いである、人を救いたいというミッションが完了した。あの娘は助かりお前は死んだのだ」
俺は、この言葉はなんとなく予感をしていたことだったので、悲しみとか寂しさとかは感じていない。
「あー、やっぱりそうか。最後にやたらと親切にされておかしいと思ったんだよな」
「ゆうじん王、そなたの1億2570万5261回の罪、完了した。これで転生は終了。魂の墓場でその魂が朽ちるまで無の世界で更に己のしてきたことを思いだすがいい」
「どれだけ反省させるんだか。俺のしたことの罪は一生涯クリアされることはなかった。せめて妹の命が助かったこと、これだけは兄からのプレゼントになったのか。」
「死神、ありがとう。」
「リセット開始」
死神の大釜が振り下ろされ俺の魂はリセットされた。その後の意識はもうわからない。
「あのゆうじん王はどうしている?」
転生を管理している神は死神に視線を落とすと、死神は遠い目をして世界を探っていた。
「指示通り、新しい魂の器にいれ再生させました。」
「よし、その後の動きは?」
死神は更に目を凝らして世界を見つめると
「あ!」一言叫ぶと頭を下げ、神の御前から消えていく。
「オギャー!」
おーかわいい赤子だなぁ。俺にそっくりだ!いや、私の爺さんにそっくりですよ!
俺を覗き込みながら二人の親はいかに俺が自分の血筋なのかをいい争っている。どうも俺は勇者の家系に生まれたらしい。
(あれ?前世の記憶って消去されて魂の処刑場に送られて、悠久の無に還るんじゃなかったのか?)
今、目の前で起きている現実が夢なのか、それとも俺が非道な魂の試練に耐えたからご褒美なのか?わからずおろおろしていたが、きっと俺は認められたのだな!と解釈して今世こそ人に優しく救う道を目指そうと神に感謝を述べていた。
そうこうしているうちに7年の時が経ち、俺は勇者として立ち上がった。邪悪な魔王を倒す勇者として。
「俺は前世から使命を持って生まれてきた!皆のもの、俺様が魔王を退治し、皆の平和を勝ち取ろうではないか!」
俺は村人の前で演説をし、そばで見ている両親は泣きながら俺に拍手を送っている。こんな人生もあるのだなあ。不思議な感覚に酔っていたその時、あの死神がまたやってきた。
「すまぬ。記憶を消し損ねた。」言うが早いかスパン!大釜で俺の記憶の紐を切り落とした。
「あれ、俺は誰だ?俺は何をしようとしていた?」死神の強い力に弾かれて演説台から転がり落ちると記憶の全てがリセットされていた。
「オーマイゴー!」
また俺の人生は苦難続きなのだろう。まぁ、いっか。きっと今回もなんとかなるさ。
ご覧くださりありがとうございます。神の試練は乗り越えるものではなく繰り返すものでした。その途中に神様のお試しが混ざっているとも知らずに。そのことに気づかなければ、また同じことの繰り返しです。気づいた者だけが次へのステップアップに進むようです。