始まり 【月夜譚No.70】
洗礼を受ける為、皆が一様に頭を垂らす。その後頭部に、ステンドグラスから差し込んだ陽射しが神の教えを映し出す。しんと静まり返ったこの場所では、呼吸の音すら響き渡りそうな怖さを感じる。
そんな中、一つの靴音が空気を震わせた。こつこつと、皆の間を通って祭壇の前に向かっていく。一歩一歩を踏みしめるように、じれったいほどゆっくりと。
ようやく足を止め、長い裾を床に引き摺りながら振り返った男の斜め上から、白い光が彼を照らす。この中でたった一人顔を上げている彼からは神々しさすら感じるが、彼は神そのものではなく、神の使いでしかない。
彼が両腕を天に差し上げると、袂に縫い付けられた装飾がしゃらりと澄んだ音を立てた。小さく口を開き、この世では使用されない言語で神に語りかける。それはまるで歌うように軽やかだ。
神聖な教会に響く歌。それが、一年の始まりの印。