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小言な勇者と魔法使い  作者: 地蔵
ベルリ編
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廃城の魔物

薄味。


 「 なに?勇者?何言ってんの?ギルドで酔っ払って、騒ぎ起こした奴が勇者?てめぇまだ寝ぼけてんのかコラ 」

 「 いや、すんません。ほんと、なんて説明したらいいのか分かんないんですけど、その、ほんとなんです。いや、すんません 」

 ここは王国騎士団詰所。机を挟んで勇者と屈強な体つきをした男が向かい合っている。部屋の隅には眼帯を付けた女が椅子に座り二人の話をジッと聞いている。一方の勇者は肩をすぼめ、うなだれている。顔にはびっしりと汗をかき、時折小さい声で「 え~ 」と呟く。

 「 あなた、ギルドには何の用事で行ったの ? 」

 隅に座っている女が勇者に尋ねる。

 「 え…。ぃや、なんでやろ…。全然覚えてなくて… 」

 「 フランとこでヘベレケになるまで飲んで、そのまま訳も分からずギルドに入ったと 」

 「 あ、たぶん、そう、だと、思います… 」

 「 よくある話ではあるけれど…。とにかく、今後は気を付けるようにね。あなたの連れは治療した後、宿で寝かしてあるから。あと、ギルドにも一言詫び、入れときなさいよ 」

 「 お、おい ! 姉御 ! それで釈放しちまっていいのかよ !? 」

姉御と呼ばれた女は椅子から立ち上がり、男のもとまで来ると耳元で小さくつぶやく。

 「 少しは頭を使いなって。今はこんなことに時間を割いてる余裕はないのよ ?

 それに、こいつが勇者かどうかは置いといて、それなりに腕のある冒険者には違いない、恩を売っておいて協力を仰ぐのが賢明だと思わない?」

 「 ま、まぁ。それはそうだけどよお… 」

 男は女には逆らえない様子で頭をかきながら勇者をチラリと見る。相変わらず小さくなっている勇者の姿を見て少し不安気な表情になる。

 「 勇者くん、貴方に頼みたいことがあるの。引き受けてくれるのであれば、今回の事は不問にするわ 」

 「 た、頼み事とは… ? 」


 ――――。

 

 「 すんません、昨日ここで騒ぎを起こした者なんですけど… 」

 「 あ ! 裏拳の。もう具合は大丈夫なんですか ? 」

 魔法使いはギルドへ来ていた。鼻と頭はいまだガーゼと包帯で覆われており、ギルド内の者たちから視線を集めている。

 「 大丈夫、ではないんやけど、ちょっと聞きたいことあって… 」

 「 もしかして、お連れの方のことですか ? 」

 受付嬢の返事に魔法使いは頷く。

 「 それが、騒ぎを聞きつけた王国騎士団の方々に連行されてしまって… 」

 魔法使いは咄嗟にローブで顔を隠し、笑いを伏せた。肩は震え、うっすらと押し殺せなかった笑い声が零れている。失敬と咳払いをしながら顔をあげるも、魔法使いの表情はもう真剣にはなれない様子だ。

 「 まだ具合が悪そうだけれど… 」

 先ほどの魔法使いの様子を不調によるものだと受け止めた受付嬢は、心配そうに首をかしげる。その視線に魔法使いは少し気後れしている。

 バタン!

 突然ギルドの扉が乱暴に開く。ギルド内の視線が一斉に向けられる。そこには勇者に仕事を依頼した女が立派な武装をして立っていた。赤と銀色の見事なまでの装いは彼女が王国騎士であることをこれでもかと示している。しかしその表情は先ほど詰所にいた頃とは打って変わり、顔色は青白く、額にびっしょりと汗をかき、急ぎ足で来たのか息は上がっている。

 「 ロアンヌ様 ! どうしたのですか !? 」

 受付嬢がロアンヌと呼ばれた女騎士のもとへと駆け寄る。他の冒険者達もロアンヌのいつもと違う様子を見てザワついている。

 「 ク、ク、クエスト、完了の、ほ、報告に、きた…。 」

 ロアンヌは額の汗を拭きとりながら、息を整えつつ話す。

 「 王国の騎士の人が、ギルドのクエスト受けることなんてあんのけ ? 」

 魔法使いはロアンヌ達の様子を見つめながら、隣でタバコをくゆらしている男に尋ねる。

 「 王国側から俺たちへ依頼していたクエストかなんかじゃねぇか ? そういえば、近くの廃城に魔物が住み着いてるってクエストがあったな 」

 「 そうだ。我々では手に負えなくてね。それでひと月前、ギルドに依頼してクエストを発注したのよ 」

 魔法使いと男が腰かけるカウンターにロアンヌがよろよろと説明しながら歩いてくる。魔法使いは誰にも聞こえない声量で「 地獄耳 」と呟く。ロアンヌはカウンターに頭蓋骨を置く。どうやらこれが廃城に住み着いていた魔物のようだ。禍々しい真っ赤な頭蓋骨には凶悪な角と、牙が生えており、頭だけとはいえギルド内の冒険者たちはその異様さに固唾をのむ。

 「 魔剣士ヴァネロ。我々王国騎士団の手練れを何人も屠り、その肉を喰らった忌々しい魔物。私も一度対峙したが、恥ずかしいほどに手も足も出なかった。右目だけで済んだのが幸いだったわよ 」

 ロアンヌは頭蓋骨を睨みつけながら自身の眼帯に触れる。王国騎士団の紋様が刺繍された豪奢な眼帯だ。

 「 ギルドからも金等級の冒険者、それこそアルフォトさん達も歯が立たなかったと仰っていました 」

 受付嬢はカウンターに置かれた頭蓋骨を見つめながら話す。ロアンヌ、アルフォトといった手練れが敗走したと聞き、ギルド内の冒険者は顔を険しくする。

 「 誰が、誰が倒したんでさぁ ? 」

 魔法使いの隣でタバコを吸っていた男が恐る恐るロアンヌに尋ねる。魔法使いは男をチラリと見た後、ロアンヌを見る。

 「 勇者よ 」

 魔法使いは小さい声で「 え~ 」と呟く。


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