表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小言な勇者と魔法使い  作者: 地蔵
ベルリ編
3/34

岩場での野営

 岩場の上に、一つの軍幕が貼られてある。

岩場の下にある、おぞましい雰囲気を醸し出す洞窟を、見下ろすように。

 その洞窟は、手練れの冒険者達でも尻込みしてしまう場所であり、強力な魔物が多く蔓延っている。

 今までに、数多の冒険者達が挑んだが、結果は良くて大怪我、最悪はパーティ全員が死体で見つかる、といった具合であった。

 その悪名の高さから、通称「悪魔の口」と呼ばれている。

高原のど真ん中に現れた異様な洞窟への入り口は、まさにその名の通りといったところである。

 噂では、悪魔の口の最深部には、死んでいった冒険者達の装備やアイテムなどが、モンスターによって集められている場所があるという。


「 なんで勇者になったん ? 」

 軍幕の入り口付近の焚き火を囲む、魔法使いと勇者。

焚き火にあたりながら、魔法使いはビールを飲む。

「 なんでって、コレよコレ 」

 勇者は、横に置いてある剣を指差す。剣の鞘は神秘的な模様が施されており、鍔も豪奢な紋様が彫り込まれてある。

「 その剣当てたから勇者になったん ? 勇者には運も必要やからってこと ? 」

 魔法使いはビールを、岩場の窪んだ部分に置き、胸元からタバコの葉と巻紙を取り出す。

「 応募してへんわアホ。この剣を引き抜いたの。選ばれし勇者しかこの剣は抜けないの 」

「 その剣どこにあったん ? 」

 手慣れた様子で、1本のタバコを作りあげた魔法使いは、それを口にくわえる。指先から小さい火を生み出し、煙を燻らせる。

「 僕の村の近くの森ん中 」

「 信憑性低すぎひん ? 普通そんな村の近くの森にある ? あれちゃうの ? 村おこしとかで作ったモニュメントかなんかちゃうの ? 」

 勇者は焚き火に薪を足す。火の粉がふわりと舞い上がる。

「 違うわ。前の勇者が魔王倒した後に封印したのがそこなの 」

「 じゃあ、お前の村は勇者に関係する村ってことやん 」

「 そうやで。勇者に関係する村やねん 」

「 ほな魔王も城かなんかわからんけど、ジッとしてんとお前の村襲いに行ったらええやんか 」

 魔法使いはタバコの灰を、焚き火の中に落とす。

 勇者もいつの間にかタバコを巻いている。

「 そんなん知らんよ。魔王も忙しいんちゃうけ ? 」

「 いや、てか魔王とかいませんから ! 」

「 いや、いるから。僕の旅の目的かってに無いものにせんといてくれる ? 」

 勇者は魔法使いを指差す。

「 じゃあ、魔王ってなんなん ? 魔物の王 ? なんなんそれ ? 何が目的なん ? 」

「 目的はそら、おまえ…。世界征服やろ… 」

「 え ? なんて ? 」

 勇者の言葉尻がすぼんでいく。恥ずかしそうに俯いている。

「 いや…。その…。世界征服やろ… 」

「 ごめん、もっかい言うて ? 」

 魔法使いは耳に手を当て、身を乗り出す。

「 世界…征服… 」

「 え !? 」

「 やめろや ! 恥ずかしいんじゃ ! 世界征服てなんやねん ! 」

 勇者は小枝を魔法使いに投げつける。しかしそれは当たらない。

「 こっちが聞きたいわ。恥ずかしい。世界征服てなんやねん。ダサい。できるわけないやん 」

 魔法使いはその小枝を拾い、焚き火に落とす。

「 それが言えるだけの自信と力があるんやろ 」

 勇者はタバコを口にくわえ、火のついた薪を手にとり、タバコに火をつける。

「 世界なんて征服しようとしてるやつに世界の何がわかるねん 」

「 あ、いいこと言うやん 」

「 なぁ ! 」

「 うん 」

「 … 」

「 え ? 」

「 え ? 」

「 いや、ほんで ? 」

「 なにが ? 」

「 え ? さっきのええこと言うやつ終わったん ? 」

「 終わったよ。定時上がりや 」

「 残業せぇや。もうちょい聞かせてくれや。アンコール受け付けてくれや 」

「 これが俺の奇跡の力や 」

 意味わからん、と呟きながら、勇者は木箱からビール瓶を一本取り出し、ナイフで栓を抜く。泡が漏れ出るより前に口に持っていく。

「 あ、おまえっていつから魔法使えるようになったん? 」

 ビールを喉越しで感じた後、満足げな顔で勇者は尋ねる。

「 あー、いつからやったかな〜。でも結構ちっさいころから使えてたで 」

「 誰かに教えてもらうの ? 」

「 俺の村は農業とかしかせん村やったから、一人で覚えたよ 」

 魔法使いは言葉にはせず、手のひらでビールを一本要求する。

「 独学なん ? すごいやん。本とか読んだん ? 」

 ビールを手渡しながら勇者は尋ねる。

「 いや、なんか近くの森に落ちててん 」

「 もう嘘ついてるやん。かぶせてきてるやん 」

「 いや、ほんまやから。切り株の上に落ちててんて 」

「 そんなワケないやん。そんなええ具合に切り株があるわけないやん 」

「 いや、ほんまやって。切り株座って読んでてんて。ほんなら森の動物が周り集まってきて、」

「 いや、なんか聞いたことあるけど。そういうのってもっと言葉遣い上品やったりスマートなやつやん。お前真逆やん 」

「 うっさいの〜!でもほんまやから。初めて使った魔法は火の魔法やったで 」

「 なんで火にしたん ? 」

「 俺の村高齢化で薪とか作んの大変やったから 」

「 なんか、ごめんな 」

「 ウソやけどな ? 」

「 耳二つもいらんやろ ? 右耳こそいでかまん ? 」

勇者は、神聖な鞘と豪奢な鍔を備えた剣の柄に手をかける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ