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小言な勇者と魔法使い  作者: 地蔵
エルフ救出編
28/34

What The Hell is This Guy?

 サバチがマナ湖の畔で部下を弄びながら過ごしているのを対岸から見つめる者たちがいる。ムーチョとパナプの2人だ。

 2人は鬱蒼と生い茂る草木に身を潜ませ、突然の来訪者を注意深く観察する。ムーチョは手元に魔導書を携えており、「雷の魔法」のページに人差し指を挟んでいる。パナプは単眼鏡で把握した情報を逐一ムーチョに小声で伝える。さすが幾度ものダンジョンを潜り抜けてきただけあり、2人は非常に冷静に対応する。

 「エ…ルフ…、おか…す?…こ…ろす…」

 「えらく物騒なことを仰っているじゃないの」

 パナプが読唇にてサバチの発言を回収する。隣で聞いていたムーチョはその内容にある仮説を立てる。

 「地下に収容しているエルフのことじゃないのか?」

 パナプはそれにゆっくりと頷く。

 「そうかもしれない。」

 「メルティやジャーキの爺さんは無事だろうか」

 「分かんない。そう簡単にくたばるような2人じゃないとは思うけどね」

 パナプは腰に巻いたポーチから小さな赤い玉のようなものを口に含む。それを舌で転がす。しばらく口の中で舐め転がした後、地面に吐き出す。すると先ほどの丸い形から四つ足の犬のような形に変化している。パナプが指を鳴らすと、その小さな赤い犬は対岸でくつろぐサバチの方へ向かっていく。

 「メルティ達と合流するのは?」

 「もうじきだ。爺さんが行商人のフリして馬車で街を出る手筈だ」

 パナプは単眼鏡でサバチを観察しながら思考を凝らす。

 「爺さんはココにアイツがいることを知っているだろうか?」

 パナプの問いにムーチョは大きく深呼吸した後、ゆったりと答える。

 「あのジジィのことだからな…。ここは俺らで排除するしかない」

 ムーチョの返答にパナプは「だね」と短く添えると、顔つきをより一層険しくする。もうすぐ先ほど偵察に送った赤い犬がサバチの辺りに辿り着きそうだ。

 「言語を操る魔物…か」

 「魔人なんて呼ばれる輩なわけだろ?初めて見たな」

 「あたしらがダンジョンで会う魔物とは別物ってことなのかな?」

 「俺が知るかそんなこと」

 目も口も鼻もない飴細工のような赤い犬がサバチの傍を横切る。石つぶて程の大きさのため上手く茂みに潜む。サバチはその存在に気付くことはなく先ほど同様、部下を使って遊んでいる。マナ湖周辺にはサバチの下卑た笑い声だけが響き渡り、それに伴い木々から野鳥が飛び散る。マナ湖の水面が風の動きを映し出す。柔らかな風はパナプ達の後ろからまっすぐ抜けていく。

 「おい。人間の臭いじゃねぇかよ」

 サバチの顔つきが一変する。部下たちはその言葉に驚くこともなく、流れるような手つきで武器を取り出す。

 「!?まずい。バレたかもしれない」

 「なんで!?」

 パナプは返答せず、単眼鏡だけをムーチョに手渡す。その先の光景にムーチョは絶句する。

 「一体なんで!?」

 ムーチョは汗まみれの顔をパナプに向ける。パナプも息を荒くする。

 「あの犬っころが見つかったのか?」

 「いや、それだったらもう潰されてるかなんかされてるよ。仕方ない」

 パナプは小さな笛を口にくわえ、息を流す。小さな音が漏れ出る。すると対岸の方で爆発が起こる。サバチの部下数人が腕や足を吹き飛ばされ、うめき声を上げている。

 「こうなりゃヤケだな!」

 「雷はアイツらを倒してからにしてよね!」

 パナプとムーチョは茂みから身を乗り出す。パナプはサバチ達を観察しながら器用に片手間で作り上げた数々の罠を素早く取り付けながら対岸の方へ接近する。未だ爆発後の煙が漂っている。ムーチョは小さな杖の先端を口で舐めた後、ぶつぶつと呪文を唱える。段々と杖の先端にぼやけた赤い球体が現れる。

 「あー、くそ。むかつく。なんだよ。くそ。あいつらか?2人か?むかつく。あー。むかつく。殺そ。もうほんとに」

 サバチは煤を手で払いのけながらゆったりと煙の中から現れる。パナプはその影を逃さない。棘のついた鉄製の球体をスリンガーとよばれるパチンコのようなもので打ち出す。鋭い音を立てながら球体がサバチの首元に刺さる。

 「うっそん…」

 パナプは信じられない、といった表情をする。

 サバチは首から出血するも、平気な顔をして煤を払いのけ続けている。

 「どいてろ!!」

 ムーチョが叫び声と共に杖の先端から高温のビームを放つ。真っ赤な一閃がサバチを貫く。

 「ちくしょう。いてぇなこの野郎」

 サバチは胸に風穴を空け、口から血を吐きながらも平然と立っている。

 「おいおい。化け物じゃねぇか…」

 サバチがビームが放たれた方向へ駆け出す。途中パナプの罠にかかり足に無数の傷をつけるも速度は変わらない。

 「ムーチョ!!」

 パナプは叫びながらまたスリンガーを放つ。毒性のものや、めくらましのものなど、動きを止めるためにありとあらゆる球を放ち続ける。サバチはそれには目もくれず、またムーチョのビームを受け、両腕がなくなってもなお、速度は変わらない。

 「ムーチョ!逃げろ!!距離を取ってもう一度撃て!!」

 「わ、わかってる!くそ!なんでだ!?喰らってるんじゃねぇのか!?」

 ムーチョは態勢を立て直し、後方へと撤退する。振り返らなくても分かる程の殺気と、足音に恐怖する。死が迫ってきているのを実感する。

 「やだって。まだやだよ。ちょっと待ってくれよ。こんなん聞いてないよ」

 「おい」

 ムーチョのすぐ背後から声がする。ムーチョは振り返ることはできない。しかし足は止まってしまう。

 「返事しろよコラ」

 サバチがムーチョの首に噛みつく。ムーチョの悲鳴が響き渡る。もう木立から鳥が飛び散ることはない。

 「ムーチョ!てめぇ!」

 パナプは短刀をサバチの顔面に突き刺す。しかしサバチはムーチョを食い続ける。

 「!?やめろばか!なんで!?なんで止まらないんだ!死ね!死ねよ!!」

 パナプは短刀を無我夢中でサバチの顔面に突き刺し続ける。もうムーチョの悲鳴は聞こえない。サバチがムーチョの顔を半分程食べたころ、急に動きが止まる。それはサバチの顔がただの肉塊へとなり果てた頃であった。ようやく絶命したサバチを見ながらパナプは泣きながら笑う。

 「なんだよコイツら。意味わかんない。怖いよ。フラン。あたしもう無理だよぉ!」

 パナプはその場で項垂れ、泣きわめく。風がまた抜けていく。透けた先には煙が漂う。サバチの部下たちはいつの間にか絶命している。全員が幸せそうな顔をしている。


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