正しさとは。
一体、何が正しいのでしょうか。
「ポイフ将軍」
砦の図面を広げ、指示を出しているポイフに部下から声がかかる。
「知ってるよ」
ポイフはキセルで煙をふかす。腰に手を当て後ろに反らす。痛てて、と声を漏らす。
「とりあえず、ティムとタムだけ残して他は帰還させろぉ」
「あんまり動揺してないみたいやな」
勇者の声にポイフがゆっくり振り返る。勇者は加えていた巻きたばこをポイフに勧める。ポイフは眉を少し上げるとそれを手に取り、ゆっくり味わう。背筋を伸ばして立っている兵士を手で追い払う。兵士は一礼し、その場から駆けていく。
「馬鹿言え。これでも胸中穏やかじゃないんだぜ?」
「戦況、悪そうやしな」
勇者はポイフから煙草を受け取る。手慣れた手つきで口まで運ぶ。2人はいまだ土煙と怒号が聞こえる戦場の方へ目線を移す。
「とりあえず小休憩だな。向こうもそこまで戦馬鹿じゃないと見た」
「交渉としての戦をしてきよるな」
「お、さすがだねぇ。分かってるねぇ。話が早いねぇ」
ポイフは勇者の顔を見ながら顔を綻ばせる。
「僕はもうちょっと後に出る方が良さそうやな…」
「その方が助かる。あんたは優しいから。気持ちは分かるが、これは商売だ。食うか食われるかじゃない。流れを掴めばそれでいい」
勇者はポイフの顔をちらりと見る。根元まで吸い切った煙草を靴の裏に圧し潰し、地面に投げつける。ポイフは「ごちそうさん」と勇者の顔をみずに言う。勇者はそれに返答することなくその場を後にする。ポイフはまた図面に目を向ける。砦は骨組みが出来上がろうとしている。
「ビスケト…。くそ!!私が出陣していれば…!!」
城内で水晶を通して戦況を見ていたカトレアがテーブルに拳を打ち付ける。ウエハも何も言わないが、表情は険しい。魔法使いは紅茶の入ったカップを傾ける。
「とりあえず、一旦休憩になるかのぉ」
「休憩?どういうことだ?」
「このまま向こうが攻め立ててくると思とるんけ?」
「違うのか?」
「宮殿守護者統括が聞いて呆れるワ」
カトレアは不服そうな顔をする。
「戦なんてものは今や交渉の延長や。いたずらに戦うだけとちゃいまっせ」
「ランジェット軍が一気に攻めずに、ゴブリンから出撃させたのはそういう理由?」
ウエハが疑問をぶつける。魔法使いは頷く。
「敵の戦力の把握、砦の建設の速度、軍を指揮する者の器、効果的な攻撃、まぁ色々あるけど、そういうのをあの2回の戦いで判断しとるはずや。もちろんあのハゲジジィもな」
「まるで商売のようだな…」
「その通りや。戦は商売や。いかに損せず勝つか。ビスケトの坊ちゃんはええ仕事しよった。あの得体も知れん魔物に何もさせへんかったんはデカい」
「何もさせなかったって…。兵士が沢山殺されたのよ!?」
「ウエハ!」
「分かり切っとることで感情揺らすなアホンダラ。誰かが犠牲になるのは当然や。そんなもん覚悟の上やろがい。そこにイチイチ口出して、ええ子なフリして姦しいに言うたら言うだけ、死者への冒涜じゃい。しばくぞお前」
「…」
「魔法使い殿、あなたは何故そこまで冷静でいられるのだ…?」
「そういう見方しかできへんからお前らは戦場に出られへんねん。」




