フランの酒場
冒険者ギルドが存在するこのベルリの街には、それは多くの冒険者が、富や名声など、様々な思いを胸に集まってくる。
そんな街のアイドル的存在、美人店主フランが切り盛りするフランの酒場は、日々死と巡り合わせる冒険者達の憩いの場となっている。
ある者は、今日討伐したモンスターとの死闘の様を、酒で滑らかになった口で熱く語り、
またある者は、ダンジョン内で見つけた珍しい品々を、テーブルに広げ鼻を高くする。
今日も酒場は大繁盛。乾杯の音があちこちで鳴り響き、高笑いに変わる。
皆様も、機会があればフランの酒場に寄ってみてはいかがでしょう。
オススメは薬草酎ハイ。はじめは少しクセを感じるかもしれないが、だんだんと薬草の爽やかな風味と、弾ける炭酸の絡みにハマってしまう。
また、薬草の効能のおかげで、いくら飲んでも二日酔いにならないという、まさに冒険者にうってつけの一杯である。
「 薬草酎ハイをな、略して薬チューてみんな言うてるやん ? 」
魔法使いが、赤ら顔でグラスに入った薬草をマドラーでかき混ぜながら話す。
「 その…、いや、まぁ。この酒場の看板やし?味も美味いよ?次の日にも残らんのも魅力やけどさ。あかんくない ? 」
「 薬チュー、て略すのが ? 」
勇者は枝豆を口に入れながら言葉を返す。
「 うん。絶対あかんやろ。違う略し方を考えた方がいいと思う。この街、この酒場のためにも。お前勇者やろ ? 」
「 え、それも勇者の仕事なん ? 」
魔法使いはグラスを傾け、口に入った薬草の片を取り出し、枝豆の皮入れに投げる。
「 誰かのために動くことが勇者の仕事、それが誉れやろがい。お前、なんか考えたれよ。絶対あの店主もそれを願ってるはずやで 」
「 うーん。僕あんまり薬チュー好きちゃうからなぁ 」
「 そんなもん好きな奴おるかい。ほら、こうやって言葉遊びに発展するやん?子供の教育に良くないよ 」
「 子供はこんなとこ来うへんて 」
魔法使いは酔っているのか、グラスをテーブルに叩きつけながら少し声を大きくする。
「 そういうことちゃうねん ! ええ気分で帰った親父から、今宵の薬チューも最高だったぜぇー!なんて言われたら、それを思うと不憫でならん!絶対そんな下品な街にしたらあかん ! 」
勇者は面倒臭そうに魔法使いを見る。ワイングラスに手を伸ばし、ゆっくりと嗜む。
「 そうやって冒険者の子供たちは逞しく育っていくねんて。そんで成人して、初めてのモンスター討伐を終えて、この酒場に来る。そしてドキドキしながら頼むはじての一杯。ああ、これがあの憧れの薬チューかぁ、言うて…。あかんな 」
「 そやろ !? 」
魔法使いは身を乗り出しながら勇者を指差す。
「 なんか、考えよ。初めての酒の名前が薬チューは可哀想すぎる。えー、この薬草はなんて名前やったかな ? 」
「 聞いてみる ? ちょうど俺の無くなったし 」
魔法使いが、すいませーんと手をあげる。気付いた女性の店員が二人の席まで近付く。
店員は猫のような耳を頭から生やしている。亜人と呼ばれる、半人半魔の種族である。この街ではそう珍しい存在でもない。
「 ご注文ですか ? 」
「 えーと、薬チューひとつとぉ、お前何飲むん ? 」
「 あ、ちょっと待って、ごめんなさい後でもっかい呼びます 」
「 え ? あ、はい。お決まりになりましたらお呼びください 」
猫耳の店員は一瞬戸惑うも、明るい笑顔を振りまき去っていく。
「 なになに ? 」
「 お前まで薬チュー言うてるやん。あかんて。勇者の仲間が声高らかに薬チュー言うてたら 」
勇者は魔法使いの頭を軽くはたく。
「 ごめん。まさかここまで毒されてるとはな。さすが荒くれ者達が集う冒険者の街。侮れんな 」
「 ただただ馴染んでしもただけやろ。もう店員はええわ。メニュー表に載ってるやろ 」
「 さすがは勇者 ! 」
魔法使いは揚々と、テーブル下の隙間からメニュー表を取り出す。鼻歌まじりに酒の欄までめくっていく。
「 これや ! 」
薬草酎ハイ 480エン
フラン酒場といえばこれ !
爽やかな薬草の風味と強烈な炭酸のコラボに一口飲めばユーキャンストップ !
体の脱水を抑えてくれる「 シャブラン 」の葉を使っているため次の日も二日酔いにならず元気に冒険できますよ ! 迷ったらコレ !
「 そら薬チューになるわなぁ… 」