エルフと戦況報告
ちょっぴりシリアス。魔王の話が出てきます。
エクレア、ウエハは目の前の2人組が、探し求めていた勇者と魔法使いと知り、突然態度を改め、ロビーの中央で手をつき、頭を下げる。
「なんや!なんなんや!」
魔法使いは表情は一切変えず、声のみを驚いたように偽る。隣の勇者は突然の2人の土下座に居心地が悪い様子である。受付の男性が気を利かせ、応接室へ通してくれる。
「勇者殿、魔法使い殿。どうか私たちの国を救ってほしいのです!」
エクレアはそう請願すると、ソファに座った姿勢のまま、また頭を下げる。
「なにがあったんよ?」
勇者は顎を掻きながら訪ねる。魔法使いは隣でタバコを巻いている。
「お二人は魔王はご存じでしょうか?」
「魔王やって」
「うるさい。えぇ。僕の目的みたいなとこあります」
魔法使いの茶化しをいなし、勇者は答える。
「さすがは勇者殿です。今私たちエルフの国は魔王軍からの侵攻を受けております」
「正確には、その軍を指揮するのはブルトローヌという配下にあたるのですが」
「魔王の配下ってのは、そのぉ、どんな奴なの?おっかないの?」
「久々に実家に帰ってきたときのおかんみたいな喋り方すなよ」
「牛の頭に筋骨隆々の肉体、そして腕は4本あり、その一つ一つに剣や槍、斧、十手といった武器を所持しています」
「十手?」
勇者はすこし体を前のめりにして尋ねる。エクレアも同じように前のめりにして、はい。と答える。魔法使いは顔をローブで隠し、肩を震わせている。エルフの2人は勇者と魔法使いの様子を不思議に思いつつ、戦況の報告を続ける。
「異常気象ともいえるこの気候、エルフとしては分が悪く、通称カトレアと呼ばれる我が国最強の部隊も半日と持たず敗退。1週間足らずでマリヒト、トーヘンといった都市を占領され、その近くにあるマナも奪われた状態です。」
「めちゃめちゃピンチやん」
魔法使いは居然とタバコをくゆらせる。灰皿に弾く音がキィンと小さく鳴る。エクレアは膝に置いた手を握りしめる。ウエハが懐から地図を取り出し、机に広げる。魔法使いの吐き出す煙がエルフの2人に当たり、散る。勇者は地図を見ながら給仕が淹れてくれた紅茶をすする。
「マナって?」
しばらくの沈黙の後、勇者が尋ねる。感傷に浸っていたエクレアは我に返るように顔を上げる。
「あれちゃうかったっけ、なんか、魔力宿した湖みたいな。なんか、エネルギー源かなんかやんな?」
魔法使いはエクレアへ確認するように視線を向ける。
「そ、その通りです。エルフの領地に突如湧き出すようになった奇跡の水。膨大な魔力を含んだ水で、その性質の使い勝手の良さから産業・運輸・消費生活などの重要なエネルギー資源となっております。」
「魔王の狙いはそれか」
「魔法使い殿は世情にお詳しいようで」
「どゆこと?」
「俺も詳しいことは知らんけど、エルフちゃんとこは魔王ちゃんとこにはそのエネルギー流してないのよ」
魔法使いは話しながら大きく伸びをする。
「ふーん。まぁ色々あるんやね」
勇者はあっけらかんと返答しつつ、エクレアに続けるよう視線を送る。
「魔王の根底には人間殲滅という思想があります。我々エルフと人間は互いに協力関係にありますし、人工湖建設の折には大変お世話になった経緯もあります。負けられない戦いなのです…」
「どうか、勇者様、魔法使い様、私たちを救っていただけないでしょうか?我が国ダオランが魔王の手に落ちれば、このベルリの街やその他の街も今のような生活は難しくなります。この戦いはエルフのみでなく、人やドワーフといった種族の存続にも関わってくるのです!」
ウエハが身体を前のめりにして勇者を見つめる。エクレアも続けて頭を下げる。ウエハの動作で机が少し動き、紅茶に波紋が現れる。勇者と魔法使いは鋭い目つきをエルフの2人に向ける。
「僕はええよ」
「俺もかまんよ。ごめん、ちょっとトイレいってくるわ」
勇者と魔法使いはエルフの頼みを軽快に承諾する。緊張感の欠片もない言動、動作にエルフの2人は呆気に取られ、目を丸くする。魔法使いはゆっくりと立ち上がり、応接室から出る。独特な香りが魔法使いの動線に沿って流れる。エクレアは不思議と魔法使いに視線が行く。ウエアはすこしホッとしたような表情で、顔の筋肉を緩ませ、机に置かれた紅茶に口をつける。
「そういえば、魔法使い様の吸われていたタバコ、不思議な香りがしますね」
ウエハは紅茶の味を一通り味わうと、エクレアに少し意地の悪い表情で尋ねる。
「ええ、薬草のような。私たちが知っているタバコとは少し違うな」
エクレアも軽く咳ばらいをした後、紅茶に口をつける。
「ん?まぁね~、とりあえず出発はいつなの?僕らも準備したいし、君らもお風呂、入ったほうがええんとちゃう?」
勇者は地図を見ながら話す。顎に蓄えた無精髭に触れながら細い目をさらに細くする。その面構えは歴戦の雄にも、熱心な百姓、ただのだらしない中年にも見える。
エルフの2人は勇者の一言で自身らの状況を思い出し、顔を赤くする。エクレアが慌てた様子で、明日の朝8時、と勇者に伝えると、2人は深々と一礼し応接室を飛び出していく。
勇者は目線のみを2人に送り、2人がいなくなるとまた地図へ目を落とす。灰皿から魔法使いの吸いかけのタバコを拾い上げ、マッチで火をつける。




