君たちはマンボウだ
マンボウが空で居眠りをしていると、モグラの交通渋滞ができていました。
ごめんあそばせ。マンボウさん。マンボウさんがそこにいらっしゃると、わたしたち、就職試験に間に合いませんの。
うわっ。モグラがしゃべった。それに、わたしたちだって。きみはちっともステレオタイプじゃないんだな。
わたしたち、わたしたちと申してはなりませんのかしら。
だって、モグラだろ。オイラとか、オレっちとかが相場だよ。第一、モグラはしゃべったりしない。マンボウだってそうさ。なんだってぼくは、空で居眠りなんてしてるんだ。気が狂いそうだよ。
あら、マンボウさんは、お空でお休みになってはいけませんの。
もちろんじゃないか。マンボウは魚だよ。海の魚さ。海の魚が空で居眠りをしていて、モグラの交通渋滞ができているだなんて、ナンセンスだよ。
モグラの交通渋滞はそうは思いませんわ。お空だって、おかしくは思わないんじゃないかしらね。
然様。マンボウが空で居眠りをしてはならぬという法はない。と、空が答えます。
空までしゃべった。一体どういう世界観なのさ。いいから、ぼくを海の中へ帰しておくれ。そうじゃないと、ああ、息が苦しい気がしてきた。
それは、わたしたちの就職試験よりも重要なことかしら。
当然さ。ぼくは海の中でしか生きられないんだ。きみたちはアバンギャルドだから、木星でフラダンスでもなんでもしていてくれたまえよ。ぼくは、ぼくは、ぼくはただのマンボウなんだ。
マンボウは泣き出してしまいました。溢れ出る涙をハンカチで拭おうともせず。だって、かれはただのマンボウだから。
わかりました。みなさん、この方を海の中までお連れしましょう。
就職試験を控えたモグラたちは一致団結して、かわいそうなマンボウを海の中まで連れてゆきました。
こうして交通渋滞は解消され、喜んだ水牛はさえずります。
さて、マンボウはどうしたでしょう。かれは海の中でマンボウのように泳ぎ、マンボウのように呼吸し、マンボウのように食事しました。いつか見た不思議な夢のことを思い出しながら。
それはとっても滑稽なことではなかったでしょうか。