戦争と平和の【最小公倍数】3
桟橋や波止場の崖になっている部分、錨、停泊している船の中、物陰になるようなところも見たが、特に異常はない。
船着き場に何もないなら、いよいよ倉庫街だが、数時間前に見た場所もう一度確認しに行くのかと思うと億劫だ。少なくとも中は一度俺が確認した上で鍵をかけたのだ。よほどこじ開けられていない限りは大丈夫だと思うが、一回目の爆発がある。油断は出来ない。その最初の爆発からも、かなり時間が経過している。いつものファイアハッピーなら、お祭りよろしくガンガン打ち上げているものだが。まさか今更新勢力ってことはないだろう。ファイアハッピー一人にですら後手に回っているというのに、それは勘弁だ。
一棟目。錠は綺麗だ。こじ開けられたような形跡もない。壁も、今日見たときと同じだ。サビはいつものサビだし、根元の雑草も何も隠していない。
二棟目。そもそも最初の爆発が倉庫のほうだからといって、倉庫の中に仕掛けられたとは限らない。その周辺にはランサー大尉を割り当てた。俺の次に勤務が長い人間だ。フィット少尉は落ち着きがないが、ランサーの言うことなら聞くようだ。
三棟目。ここも異常はない。いいことだが、逆に不安だ。最初の爆発から何もない。異常もない。ない分にはいいが、なさすぎるのも不気味だ。最初の爆発から一番遠い場所として、新人のアテンザと、その次に若いコンフォートを向かわせたが、悪手だっただろうか。
もしファイアハッピーの仕業ではなく、別の勢力によるものだとすると、最初の爆発の意味が変わる。愉快犯のそれではなく、役目を持ったものであるならば――――
いま世間で爆発や爆弾といえばファイアハッピーだ。爆発騒ぎが起こればどうなる? また例の奴が出たと俺たちが駆り出される。
何処に行かされる? 爆発のあった場所だ。一般人の避難、まだ近くにいるかもしれないと捜索する。
結果どうなる? これだけ広ければ、どうしたって手薄になる場所が出来る。
何処にできる? 爆発地点から最も遠い場所じゃないのか。
だとすると、この場合、街に出る通路付近で何かが起こる可能性があるが。七十七番隊は最初に到着し、獲物を街へ出すなということで、あの付近に向かった。まだ何もない。
考えすぎか?
「ん?」
四棟目の倉庫に来たところで、目の前を見覚えのある人影が走り抜けていった。
あれは……アテンザか?
一瞬だったので捕らえきれなかったが、少し長い黒髪がなびいていた。走って行った方向を見やったが既にいない。足が速いな等と感想を述べる間もなく、後ろからコンフォートが息絶え絶えに現れた。
「ぜぇ……ぜぇ……ちゅ、中佐……はぁ……」
「お前たち、持ち場はどうした?」
「それが……はぁ……二人で、草陰とか、屋根とか窓の、ひさしになっているところの裏とか、見てたんですが……急に、『疑問ができたので見に行きます』って……走って……」
何か見つけて、気になることでもあったのか。だからってなにもコンフォートを置いていくことないだろうに。
「大丈夫か、コンフォート」
「やー、持久走だったら、自信あるんですけど、突発的に走るとだめですね、はは……はぁ……」
「自分で落ち込むな。とりあえず、お前は持ち場に戻れ。アテンザは俺が見つけておく」
「すいません……お願いします」
ふらふらと戻っていくのを確かめ、アテンザを追いかける。