戦争と平和の【因数分解】1
保護された部屋で、父の同僚らしい軍人たちの話を盗み聞いたところによると、父は突然持ち場を離れたらしい。理由は結局分からなかった。みな、私が盗み聞いていると知らずに、思い思いのことを話していた。
死人に口なし。仕方がない。
しかし、母のいない家で、父が家に帰ってくることが、どれほど支えになったことか。頼りにしていた、頼もしく思っていた、その父が、よもや最後の最後で、不真面目な、あるいは怠惰な影をちらつかせ残した。正直なところ、私は失望したのだ。たとえ私を心配してくれていたのだとしても。と、子供ながらに思った。
結果として会えたことは、当時は嬉しかったし、否定しない。けど、それによって死んだことも、結果として、である。
そういうわけで、私は父を家族として見てこそすれ、仕事人としてのそれとは別の話。
それよりも、私をあの場所まで送った彼のことが、どうしても気になった。
結局彼は、どこの誰だったんだろう。顔も名前も、声も、聞いたはずとは思えないくらいほとんど覚えていない。あの人はまだ生きているんだろうか。ずっとずっと、気になって仕方なかった。
子供を助けるような人柄のあの人が、その後も軍人として今も生きているのだろうか。
あんな人だ、父のように討たれてないか、それが気になって仕方がなかった。もしも生きていたら、あのとき言い損ねた、助けてくれたお礼を言えるだろうか。いや、巻き込まれて死んでもおかしくなかった状況から救ってくれたのだ。言葉だけでは私が足りない。
父も母も嫌いではなかったけれど、二人がいる国がここでなければ良かったのに、と思うことはあった。そう思う理由は、他でもない両親のせいでもあるし、この国のせいとも言えるし、そう思わせなかった親戚のせいでもあるし、それ以外に思うことを見つけられなかった私のせいとも言える。
まあ嫌う理由は二の次だ。一番の理由は、家族や故郷よりも大事な存在が出来てしまったということだ。
働くことを許される年齢になった私には、働く場所を選ぶ権利が与えられ、働くために暮らす場所を変えることを許される権利も得た。
であれば、私のやることは決まっている。