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銀狼 前編

少し遅れました。次はもう少し早く書きます。

「暑い……」

 強い日差しが肌に突き刺さる、服をパタパタとさせながら早く秋にならないものかと太陽を睨んだ。

「なに空なんて眺めてるんだよ?」

 全身真っ黒の羽毛に包まれているコイツはどうして暑がらないのか?こっちは見ているだけでも暑いのに……。私の機嫌が悪かったら羽を毟っているところだ……冗談だけど。

「ううん、何でもない」

「まあ、いいけどな。馬車とまってるぞ」

 どうやら避暑地に視線を避難させている間に馬が止まっていたようだ、その原因は目の前の道にあった。


 人が死んでいる。

 夢魘が死体の上に降り立つと、私も馬車から降りた。

「おいおい、こりゃ品のない食べ方だな、ほっとくと魔物になるぞ」

 20代後半と思われる男は、二の腕や腹、臀部など柔らかい場所が食べられていた。

 犬のような歯型が見受けられるが魔物だろうか?

「夢魘、残りは食べてもいいわよ」

「ふざけんな!魔物の食べ残しなんて毒が入っていたらどうするんだよ!?」

 人の死体が道端に転がっているのは特別珍しいわけではないが放っておくと魔物になってしまう。時間が無い時であれば原型を留めない程度に刻むのだが、換金所で引き受けた依頼まであと3日はある。それに仏の左手薬指にはめている指輪を見たからには放ってはおけない。


 遺体を漁り一枚の硬貨を取りだした。

「人もカラスもこういうところ変わんねぇな」

「死体を村に送ってあげようと思ったの。通貨は共通じゃないって言ったわよね?だから逆にこれさえ見ればどこの出身か分かる」


 硬貨を見ると、昨日立ち寄った村だということがわかる。来た道を戻ることになるが一度決めたことだし仕方がない。まぁ少し拝借してドリンクの一杯でも奢ってもらうことにしよう。硬貨の入ったポーチから幾らか抜き取ると夢魘が「憎めないやつだねぇ」とニタニタ笑ってきたので羽を毟った。


 小さいながらも村全体を覆っているドームからガードが現れて事情の説明をしていると村の領主が出てきた。


 領主は「また、銀狼か……」と深く溜息をつくと、私たちに労いの言葉を言い村の中を案内してくれた。 どこを見渡しても自然に覆われていて家屋ですら緑と同化している、緑が多いのは何処も同じだがここまでくると相当珍しい、端的に言えば辺鄙(へんぴ)な所だ。

 しかし、壁を見ると魔物に分不相応な程の多額の懸賞金がかけられているのがわかる、これだけで億万長者にでもなれそうだなと小さく笑った。


 また暫く領主と歩いていると人だかりができている。あえて気に留める事なく通り過ぎようとしたが夢魘が服を引っ張ってきた。

「おい、あれは何しようとしているんだ?」

 小さい声で質問してくる、まったくコイツは……物心ついたばかりの子供か!多少の煩わしさを感じるが私も夢魘にだけ聞こえるくらいの声で答えた。

「これからさっきの遺体の葬式をする所だと思う」

「葬式?もっと近くで見ていいか?」

 人様の葬式に勝手に入るものではないが一応領主に確認を取ってみる、すると案外すんなりと許可をくれた。


 上機嫌になる夢魘に半ば呆れながら近づいてみると棺のそばで男の子が居る。ずっと男性の遺体を見ているようだが親子だろうか? 今にも泣きだしそうだ。

 しかし周りの大人は遠巻きで何やら話し合っている。子供を慰めるのも大人の役目だろうに……。呆れから溜息をつくと私は男の子の前に片膝をつき目線を合わせた。

「お父さん?」

 物心をついたばかりだろうか? 五歳くらいに思える。


 少年は小さくうんと答えると私に質問してきた。

「お父さんはどうしてこんなところでお休みしているの? 眩しくないの?」

 まだ死んだということが理解できていないらしい、こんな時にこの子の母親はどうしているんだ? 私がこの問いに答えるべきか少し悩んだが答えることにした。

「お父さんは……死んじゃったの」


「死ぬってなに? お父さんも言ってたよ?お母さんは僕を産んだ後死んじゃったって、でも死ぬってことの意味教えてくれなかった」

 そうか……。母親も死んでいるのか……。死ぬということの意味を知ってしまったらこの子の親はもう居なくなる……。


 しかしいずれにせよ両親とこの子はもう会えないという事には変わらない、そしてそれは今教えないと駄目だろう。


 私はすっかり重くなった口を開けた。

「死ぬっていうのは背負っている荷物を下ろす事なの」

 少年は当然ながら困惑する。


「お父さんのお手伝いで井戸に水を汲みに行ったことはある?」

 小さくうなずくと、軽く「偉いね」と頭をポンポンと撫でて少し微笑んだ。

「家まで運んだ時、頑張ったら頑張った分だけ今みたいにお父さんが偉いねって褒めてくれるでしょう?」


「お父さんも同じ、きっと今頃貴方のおじいちゃんやおばあちゃんの所まで行って、今まで背負ってきた荷物を運んだから沢山偉いねって褒めてもらっているの」

 少年は理解できたようで顔を見上げて笑った。

「僕もたっくさん褒めて貰いたい!」

 私はうんうんと頷き少年の頭を撫で続けた。


「ただね……。お父さんは沢山重たい荷物を運んだから疲れて眠っちゃったの」

「だから、お父さんがまた目を覚ます前にもっともっと大きくなっていっぱい荷物を背負えるようになったら、貴方自身が持っていきたいものや、お父さんが道の途中で落っことしてしまったものを届けてあげて。そしたらお父さんも起き上がって、貴方がそれまで頑張った分、たくさん褒めてくれるわ」

「うん!僕、頑張るよ!」

 私が話終えたタイミングをみて領主が男の子に遺体のそばに何か置くものはあるかと尋ねている。棺の中を見ると生前男性が好んでいたと思われるものが散りばめられている。どうやらこの村は火葬するようだ。


 男の子は一体何をそばに置くのだろうかと眺めるが何も置かなかった。どうやら何かを探しているように見える。私は再び男の子の前に歩みより「どうしたの?」と尋ねた。

「お父さんにプレゼントしたお人形さんがないの……。もう持って行っちゃったのかな?」

 

 人形?遺体を調べたときにはそんな物なかったが……。


 もし、あるとしたら銀狼と呼ばれた魔物の腹の中だろうか?

「お人形ならお姉さんが探してあげるから、貴方はそれまでお父さんの傍にいてあげて」

 考えるより先に口がうごいた。

 よくこんな面倒くさい事を言ったなと我ながら驚いたが深く考えないことにした。考えるよりこっちの方が気持ちいい。


 そのまま立ち上がると領主のもとに行き銀狼について質問した。

領主は下を向き数分間考え込んだと思うと次はまっすぐに私の方をみた。

「正直のところ貴方が銀狼に勝てるとは思わない……。それに、貴方が死んだとしても責任も取らないし、悲しむこともない……」

「だから今から言う事は薄情者の独り言だ」

 そういうと領主は私から目線を外し空に向かって話をつづけた。


「西へ少し離れた所に廃墟の結婚式場がありそこを根城にしている」

「注意するべき点は人ひとり丸呑み出来るほどの大きさがある事と、光のある場所では透明で見る事が出来ないということだ、そこら辺にいる魔物とは全く違う」


 光のある場所では透明で見る事の出来ない魔物か……。デタラメだな、現実的ではないが領主の口ぶりから嘘でないことが分かった。

 夜まで待ち、目視できる状態になってから倒しにいくのがセオリーだが今回は火葬されるまでにここに戻らなければならない。

「火葬まであと二時間待っていてください、それと馬車を置いていくので見張っておいてください」

「それでは、また二時間後」

 馬車から馬を切り離し跨ると久しぶりに私を乗せるからか気合が入っているように感じる、足で走るように合図をすると勢いよく地面を蹴った。

 グッとお腹の奥が居付くような感覚がし、向かい風を颯爽と割って入っていく、今ならどんな事でも出来そう……。そんな気分だ。


「見えないやつ相手に勝算はあるのかよ?」

 揺れる肩の上で居心地悪そうに夢魘が尋ねる。

「いえ、全く! でも勝てる気がするわ」

「勿論ついてきてくれるでしょ?」

 根拠のない自信が沸き立つ、風が心地よく空を飛んでいる気になっているからだ。

呆れた顔を浮かべる夢魘に私は微笑んだ。

「まったく……。お前の性格がわかってきたよ」

 やれやれと言わんばかりに溜息をつきながらも居心地のよいポジションを見つけたのか、そこに留まった。

「さあ!急ごう!夢魘!」

 姿勢を低くし、パン!と馬に足で合図を送ると風を切る音は更に大きくなり、先ほどまで居た村はみるみると小さくなっていった。


長くなるっぽいので前後編とわけます。

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