酒場での出来事
小説を書くのって難しいですね……。
素人なので誤字脱字は生暖かい目で見ていただけると幸いです(´._.`)
ドン!――
――陽気な換金所の雰囲気が静まった。
目の前に出された首を見て驚いた様子の店主に対して、私は取り繕う事なく口を開いた。
「報奨金をお願いします」
その言葉を聞いて、昼間から酒を浴びる客達がひそひそと話し始める。
「おい、あれは確か噂の百人斬りの奴じゃあ?」
「ここら辺の賞金稼ぎ全員歯が立たなかったんだろ?」
「それがあんな女に?」
「あり得るわけねえ」
口々に喋る人々の声を拾ったのか、夢魘が私にしか聞こえない声で「死体に価値なんか付けるもんかねぇ」と尋ねた。
「世の中には死んでから価値が生まれるものもあるのよ」
なるほどと一先ず納得したようだ。視線を戻すと此方の顔と男の首を交互に見合わせ眉間に皺を寄せている。
「早く報酬を払っていただけないでしょうか?」
しかし店主は動くことなく静かに口を開いた。
「残念ながらこの男の報奨金は全額払えねぇ、取りあえずここにある金と村の物資で手を引いてくれ」
まぁ、仕方ないか……
「はい、わかり――「ハァ!?どういうことだよ!?」
夢魘の声で遮られる、すぐに両羽を口元に当て隠していたが周りは奇妙なカラスの事で騒然とした。
「なんだ? あのカラス!?」
「魔物じゃねえのかよ!?」
「でも村の中にはいれているぜ?」
「まず、カラスとか気持ち悪りぃんだよ」
「ああ!? なんだと!? ケンカ売ってんのか!?」
口々に騒ぎ立てる客にとうとう激怒した夢魘が人の頭の上を飛び回っている。辺りを鎮めるよりさっさと出ていきたい気持ちで一杯になる、五月蝿いし、羽も落ちてくるし……。
腹立たしい気持ちを我慢して店主と意思疎通を試みるが当の本人も驚愕していて話にならない……。一向に収まらない状況が煩わしくなる。
大きく息を吸い、他のどの客よりも大きい声で叫んだ。
「黙って!!」
――シーンと辺りが静まり此方に視線が集まる……。駄目だ……早く出ていきたい……。
今すぐに赤面した顔を隠して走り去りたい気持ちを抑えて少しうつむき気味なり、今にも消え入りそうな声で話した。
「報奨金は先程提示した額の半額で構いません、それと物資の代わりに食料を少し馬車に積んでください」
その言葉に店主はうなずくと近くにいた従業員にその旨を伝え自らも作業に取り掛かった。
全く慣れないことはするべきでないな……。のどが痛い。
換金所の一番端の席に水を頼みそこに深く腰掛けた。
夢魘は少しバツが悪そうながらも何故だと首をかしげている。
「強い賞金首はその村の基準になっていて、其処から物価とか依頼の報酬を決めたりするの、経済が共有じゃないからね。だから払える額を超えてしまうことがある、無駄に欲を張らずに謙虚にしていた方が安全ってこと」
そういうと溜息をつき、テーブルに置かれた水で唇を濡らすがそれも束の間、周りに三人の男が集まってきた。
「おいおい、ホントにテメェがあいつを殺したのかよ?」
「どうせ寝てハメてた所で刎ねたんだろ?」
「気持ち悪いカラスも連れやがって人間様以外にこの村の空気を吸う資格なんてねぇよ」
ほぼ同時に喋るせいで殆ど聞き取れなかったが酔っ払いの言うことだ、どうせ碌なことじゃない。
ひとまずグラスに入っている水を飲み干し、顔を合わせることなく口を開く。
「何回も踏まれた銀杏みたいな臭いするから寄らないで」
その言葉に男は激怒して目の前のグラスを取り上げテーブルにたたきつける。
ガシャン! と音がし、咄嗟に顔を伏せたが頬から血が流れる。夢魘も肩から羽飛び、カァ! と威嚇した。
「おいおい綺麗な顔に傷がついちまったな?」
「あーあ、これじゃあお得意の寝技も使えねえや」
小さく溜息をつき三人がケラケラと笑っているのをそのままにして床に散らばったガラス片を拾い集めると、やがて夢魘も降りてきて此方の傷を窺うように回り込んだ。
「良いのか?やられっぱなしで」
「どうせ治るからいい」
「まあ、お前がいいんなら構わないが……」
「何の話してんだ?俺らも混ぜてくれよ」
一人がそう言い夢魘の脚を掴み上げた。
「そろそろ冗談では済まさないわよ?」
三人は、ひぃっ!とおどけながら夢魘の首元にナイフをあてがった。
「勿論冗談じゃ済まさねぇよ? このカラスを殺してからお前をたっぷりと可愛がってやるんだからよぉ!」
男が勝ち誇ったように高笑いすると、私は持っていたガラス片を投げつけた。それが男の首を掠らせる。
いてぇ!と大きく悲鳴に近い声をあげると男は夢魘から手を放し必死にその場所を抑える、他の二人も動揺してあたふたしていた。
「死にたいのだったら外に行きましょう、魔物にならないようにズタズタに切り裂いてあげるから。モチロン冗談ではないわよ? 何なら貴方達が外に出るまで追いかけて殺してもいい……」
「それが嫌なら今すぐに消えて」
三人を見下ろすように睨みつけると、そそくさと出て行った。
「甘いな、一人位殺した方が後々心配にならず済んだだろうに、復讐されてもしらないぞ?」
「村の中での殺しは原則禁止になっているの、たとえ賞金首と賞金稼ぎが鉢合わせたとしてもね。今回はそれを守っただけ」
「誰も感染症なんかで死にたくないしね」
そういうと夢魘は「なるほどな」と感心しながら私の肩に戻った。どうやらコイツの定位置らしい。
その後すぐに換金を終えたと店主がお金を持ってきた。もう私の事にケチをつける人間は誰もいない、周りはシーンと静まり此方を注視している。
「さっきは随分とみっともない事をしてしまってごめんなさい」
「め、滅相もございません!この度はご慈悲をありがとうございました」
店主は最初と打って変わって丁寧に頭を下げ、金の入った袋を差し出してきたがそれを制止した。
「いいえ、受け取らないわ。そのお金で此処のお酒全部買うことにする」
店主は何のことかと頭をあげ目を見開き此方をみる、私はすぐに答えずそのやり取りを窺っていた客を周りに集めた。
「さぁ!今日はここにあるお金で宴をしましょう!」
静まり返った空気は一転して歓喜に溢れた。
換金所の中は先程からは考えられないほど盛り上がっている。肩にとまっている夢魘はお酒に全く手を付けない私を心配そうに覗き込んだ。
「こんな一気にカネつかって大丈夫なのか?」
「通貨は共通じゃないから、殆ど物に交換しないといけないのだけれど馬車に全部乗りそうにないしね」
溜息をつきテーブルに次から次へと運ばれる満タンに酒の入ったグラスの淵を指でなぞりボーっと眺めていると、身長の高い強面の男が向かいの席に座り、水を二杯持ってこさせた。
「あんた下戸か?飲めそうな見た目なのにな」
随分と出来上がっているようで上機嫌に笑っている。
「このテーブルの酒を飲み切った頃には多分10回は死んでいるわ」
「はは!酒は嫌いなのに洒落は好きなんだな!」
「俺の名前はアーノルド・ブロッケン、仲間からは親しみを込めてアーノンって呼ばれてる」
「私は十慧闡釐、それでこっちの五月蝿いのが夢魘」
「ああ、そうだ俺が夢魘でこっちの辛気臭い女が闡釐だ」
えらく流暢に喋るカラスだなとアーノルドが笑うと私は話題を切り替えるようにテーブルに頬杖をついた。
「ところで、ここら辺で有名な賞金首は誰かしら?」
アーノルドはつりあがった口角を下げて暫く頬を触ると、決まったようで男は肩肘をついて少し声を抑えて話した。
「アリーヤカーン……。その名前に聞き覚えは?」
私が小さく首を振ると少し頷き話をつづけた。
「復讐者、殺人鬼、食人鬼と巷で話題になっている女で、殺害する者は基本的に男だ、そして最近それに法則性がみえてきた。四年前まで活動していた義賊のメンバーが後一人を除いて全員殺されている」
「それでその最後の一人が俺の雇い主で宝保吉行だ。コイツは知ってるだろう?」
また私が首を振るとアーノルドは半ば呆れ気味に頷いた。
「ここら辺じゃ一番有名な領主だ、三年前に就任して以来熱狂的な支持を得ている。そして今回歴史を大きく変えるような計画に乗り出したんだがそれに伴って邪魔者の始末をしようとアリーヤに多額の報奨金をかけて実力者を募っている」
「俺はその実力者を探して来いと命令されてここまで来たわけだが今見つかったよ」
「どうだ?お前も商人なら吉行さんに恩を売っておいた方が良いだろう」
そう言うとアーノルドは口角をあげて水の入ったグラスを私の前に置いた。確かに断る理由はないな……。頬杖をついたまま夢魘の方を見ると目が合う。
「なんだか凄そうな所だし法律も整っていそうだ。闡釐が行きたいなら是非とも行ってみたいぜ」
その言葉に後を押されたようにアーノルドに向き直すと渡されたグラスを手に持った。
「交渉成立だ!」
カランとグラス同士で音をさせると水に唇を浸した。
「場所はここから北へ二十里ほど行った所だ、決行日はまだ決まっていないが1週間以内には居てほしい」
「俺はここでもう少し飲んだらすぐに戻るが一緒に行くか?」
私はその言葉にいいえと答えると席を立ちあがりアーノルドに別れを告げた。頬を触ると血はもう流れていない。
「あ、治った」
「すげぇな、お前」
今回は王道展開を入れてみました!
何だかんだ言っても王道は素晴らしいですよね!
闡釐ちゃんのキャラクターも固まってきたんじゃないでしょうか!?
それはそうとTwitterを本格的始めてみようと思うので宜しければフォローして下さいね
@tyoutyouKotori3