少し運がよいはずの男6
七月二十日 ケンジ
夏はあちー。当たり前だ。
だからバイクで走る。アイツがなんと言おうが俺は風を受けて走る。
俺は夜と共鳴し、朝焼けを嫌悪する。
これを先輩に言ったら、「僕もそんなポエムを考えていたことがあったよ」と返された。
「ポエムじゃないっすよ」と返すと、
「さらに言わせてもらうなら、他人に発表することもなかったよ」と言って笑っていた。
その時には、発表したつもりもなければ、ポエムでもないと思っていたが、思い返してみりゃ、なかなかに恥ずかしいことを話したのだと思った。
そんなことを考えながら、今日も夜を駆け抜ける。
やはり、最近は調子がいい。ライディングに慣れてきたということだろう。
途中、コンビニに寄って、トイレを借りる。ビールを買って車に乗るオッサンを見ると、「絶対、家で飲めよ」と言いたくなるが、さすがにそのまま車中で飲酒しているわけではないので、我慢する。いくら俺が、飲酒運転のカスに親父を殺されたからって、酒を買っただけでぶん殴っていたらキリがない。しかも、大多数は家で飲む――はずだ。だから、引きずりだして、「飲酒運転すんなよ」ってことをした場合に、狂っているのは完全に俺の方だ。それは分かっている。
だけど、俺が狂うだけで飲酒運転がなくなるのなら狂いに狂ってやっても、全然構わない。
そういえば、昨日もアイツに、「運転するのは止めて!」って言われたっけ……親父が殺されちまってからアイツ……おふくろも変わっちまった……。科学雑誌のライターをしていたのに、ゴシップ誌の方に異動して、飲酒運転の糾弾をしようなんて無謀なんだよな……報道部門がある会社ならまだよかったのかね。いや、他の部門なんて無いのが一番良かったんだよな。おふくろに俗っぽいことは向いてねぇ。
「トイレに寄るだけだったのにな……」
随分と長居しちまった。
あと三十分ほど走ったら、帰ろう。
七月二十一日 ケンジ
今日は昨日よりも暑く感じる。バイクで走る。風を感じ、夜空を見上げる。
俺は街の光を眺めたくない。
ネオンが、「お前は孤独なのだ」と必要以上に語りかけてくる気がするから。
他のヤツを遠ざけてくて、バイクに乗っているのに、孤独はイヤなんて、わがままなもんだ。
でも、あの星にナントカ星人が住んでいるとなれば、夜空を見上げることにも意味があるのか。
おふくろが、よく言っていたっけ。
「宇宙、可能性は無限、アンタの可能性はどう?」
あのときはこんなことになるなんて思ってもいなかった。
そんなセンチな考えをしていても、便所には行きたくなる。
最近はションベンが近いな。頻尿か? それとも糖尿なのか? 毎日二本の缶コーヒーがヤバいのか?
こんなツマラナイことを考えるためにバイクで走っているわけじゃない、今日は、帰ろう。
バイクを停め、家の灯りを確認する。
点いていた。
「――はぁ」
玄関に掛かる鍵を開け、できるだけ、早く、部屋に入る。
しかし、「またバイク乗っていたでしょ」という声は届く。
あぁ、うんざりする。こんなことになるの、何度目だろうか。
七月二十二日 ケンジ
学校で俺に話しかけてくるヤツは少ない。いや、今や一人だけしかいない。
そりゃ、人を殴ったところを目撃され、かつ、その殴った相手が人気者だったのだ。俺みたいなヤツが迫害の憂き目を見るのは仕方のないことだ。
それについての理解は出来る。しかし、なぜだか今ではその殴ってしまった相手だけが唯一の話し相手だった。
わざわざ俺に話しかけるきっかけになったバカ野郎には説教をしてやりたい。そのバカ野郎には会ったこともないし、もう会うことは、不可能なんだけど。
そんな唯一の話し相手のことを思い返す。
前提条件。ここは進学校である。これは客観的事実。
俺がここに入学した理由。バイクで通学出来るから。これはクラスでの自己紹介で言っている。
つまり、今の高校に通う大多数の人間とは目的が違ったわけだ。入学してからの成績もそこまでよくはない。
俺は目付きが悪く、過去には度々ケンカを売られていた。
そんな俺のもとに「やっぱり、君はあれだな――」なんてことを言いながら、ポケットに手を入れて近づいてくる人間がいたら、先制攻撃をするように育ってしまっていた。いつものように、ジャブを入れても、ソイツの口は閉じることがなかった。
「痛いなあ。でも、聞いていた通りだね。なんとなく、兄貴に似ている。――これを貸してあげるよ。何か分かるよね。ただし、無免は駄目だからね」
見たことがないくらいの朗らかな笑顔でそんな言葉を続けた。不気味だとすら思った。後にしてみれば、その時は少し精神の安定を欠いていたのかもしれない、とも思った。
「バイクのキーだろ?」
「そうだよ。変な新入生がいるとは聞いていたんだ」
ニコニコしながら、話を続ける。そのときは、モテそうだ、気に入らない、なんてことを思った気がする。
「なんで俺に」
睨みながら言った。
「使う人がいないからね」
ニコニコしている。
「答えになってねーよ」
笑みに睨みが崩れかける。
一発、殴られているのに、ソイツには敵意がなさすぎた。
「兄貴に似ているとさっき言っただろう? それが理由だよ。使う人が、もう、いない」
ジャブで崩れなかった笑顔がほんの少し、変化した。
もういないとは、死んだとか、そういうことなのだろうか。不気味だと思った原因はそれだったのかと、思った。
「――俺のどこが似ている?」
会話を続けるたびに、目の前の変な男に興味が湧いていたのだった。
「いきなり殴りかかってくるところなんて、そっくりだと思うよ。その過剰な妄想をするところ。別に万人が君を恐れるわけじゃないよ。まぁ、兄貴は先制パンチをするような人じゃなく、一目散に逃げるような人だと思うけどね」
コイツなりの皮肉だろうか。
「そんなことを言ったって、ポケットから出てくる物によっちゃあ、非常事態になることもあるんだぜ」
対してこちらの主張はこうだった。目の前の善良そうな男に言い訳をしたくなったということもあった。
「確かにね。兄貴に似ているからって、兄貴と同一なわけがないよね。僕が悪かったよ」
ニコニコしながら、謝られても困る。やっぱり、完全に悪いのは俺のほうだ。つまりは謝られる筋合いはないため、更にこちらの立場は不利になる。純真無垢なだけのイケメンではないってことか。だが、そのほうが、かなり、人間らしいと思った。
「――殴って悪かったよ。ところでアンタは誰?」
「僕は二年のスドウマサトだよ」
「先輩かよ……俺は――」
名乗ろうとしたところで、マサトさんは何かを考え、少し困ったような顔をしてから、俺の言葉を遮った。
「――まずいな。ケンジ、君はしっかり説明する気はあるかい? 僕、ああいう人種は苦手なんだよね」
女子の軍団が近寄って来る。さっきのパンチ、誰かに見られていたのか。きっとそういうことなんだろう。この学校の奴らにとってケンカは、とんでないオオゴトなのだろう。
近づいてくるヤツら、目がトンでる。俺を裁判にかけて、火あぶりの刑にする気だ。
「イケメンも打つ手なしってヤツですか。それなら俺は逃げるわ。気が変わってなければ、キーは免許の合格と引換にしてくれ」
放課後、諸々の報告をするために陸上競技場へ行った。
「マサトさんコンチワ」頭を下げる。
「やぁ、ケンジ。最近、バイクはどうだい」
「毎日ってくらいに乗ってます。母親がいろいろとあって、うっさいんですけどね。『人のもので事故を起こしてからじゃ遅い』とか」
母親の真似をしたが、全ては伝わらないだろう。
「別に壊れてしまっても、乗られていないよりはいいと思って貸したものだからね。ケンジが怪我をしなければそれでいい。なんなら僕が君の家へ行って、説明しようか?」
おふくろの不安の本質はそれではないのだろうけどな。
「いや、未亡人を狙うのは止めて下さい」
「狙っているわけないだろ?」
首を横に数回振って、薄笑いでそんなことを言ってから、白い歯を見せるんじゃない。マサトさんのことはキライではないが、一個上の父親なんて、そんな可能性が浮上するだけでも勘弁して欲しかった。
「マサトさんモテるからマジで来ないで下さいね」
「狙うかもしれない美貌ではあるのかい?」
全く、この人は……。まぁ、そんなのは完全に冗談だってことが分かるくらいには、マサトさんとも打ち解けたと思う。
「休み前だからって、バイクを長期間借りるのは、いいのかって聞きに来たら、これだもんなー」
彼に軽口の一つも言えるようにはなった。もっとも、最初から俺が警戒していただけなんだが。向こうは完全にウエルカム状態だったし。
「そんなこと、聞きに来る必要はないよ。アレは君の物さ。維持費がもたなくなるまでは返さなくていいよ。返したくなったら、返してくれればいいよ。一応、形見だからね」
変わらない笑顔で言った。そのうちウインクとかし始めそうだ。
「形見……やっぱり亡くなっているんっすね」
「……言っていなかったっけ?」
「最初に会ったときから、ボカシてましたね」
「『ドッキリでしたー』と部屋に入ってくるんじゃないかと、今でも思うときがあるよ。もう四ヶ月近いなんてね。――いや、形見といっても、別に、バイクが原因で死んだわけじゃないんだ。心不全を起こしただけで、バイク自体が不吉だとかそういうことはないから安心して乗ってくれていい。君がちゃんと気をつけてくれるならね。――あ、ゴメン、そろそろ部活に戻るよ」
そう言ってマサトさんは走っていった。俺もトイレに寄ってから帰ろう。
競技場に駐輪スペースがあるかを覚えていなかったので、この場所までは電車で来たんだった。ここから学校に戻って、また家へ……。そうした場合、一時間以上はかかってしまうな。ここからまっすぐ家へ帰れば十分くらいか……。
迷った末に俺はバイクを学校に置いたまま家に帰ることにした。
どうやら、今日もおふくろは早かったらしい。家には電気が灯っていた。
今日はバイクに乗ってもいないし、玄関を堂々と開ける。
「ケンジ。貴方、今日もなの?」
「へ? いや、今日は知り合いの所へ行っていただけだぜ。音、しなかっただろ?」
「……確かにそうだわ。でも、危ないからバイクに乗るのは止めて」
「――またそれかよ」
「何度でも言うよ。お父さんは……」
「俺はちげーよ」
話にならねー。俺は追突も衝突もされないし、飲酒運転をして、他人の父親に迷惑を掛けることなんてない。
バイクは俺のただ一つの喜びなんだ。
七月二十三日 ケンジ
今日、高校は休みだ。つまり、朝からバイクに乗り放題ということ。
しかし、朝から出かけようものなら、出勤前のおふくろに見つかって咎められるのが関の山だ。なので、昼まで寝たフリをし、居間の様子を窺う。
居間は既に蒸し暑く、おふくろが家を出てから熱がこもるほどの時間が経過したことがうかがえた。もう充分だろう。
今日は峠を越えて祖父の家がある方面へ行ってみようと考えていた。途中の高原にでも寄って昼寝でもすれば、今日は充実した日になるはずだ。
出来るだけ荷物は少ないほうがいい、財布と免許はバイクに入れたままだったし、ケータイだけを持って家を離れた。
電子マネーで電車に乗って学校へ行き、駐輪場のバイクにイタズラがされた痕跡がないことを確認する。問題はないようだった。
バイクを借りてから十数日が経つけど、マサトさんの兄貴って、どんな人ヤツだったんだろうか。レーサーレプリカを免許もないのに買うって……。確かに、これぞバイクって感じの一つではあると思う。だが、この街で生活していくならこれを選ぶ理由は少ない。そもそも、その人はオンロードとオフロードの違いも理解しているのか? それもこれも普通の人間なら、免許を取ってから考えることだ。マサトさんの兄は『欲しいから買ってみた』とマサトさんには言っていたそうだ。男として、これが欲しくなるのは、理解できるけど、いざ買うとなれば話は別だ。一度も会ったこともない人に対して失礼だが、かなり変なヤツだったんだろうと想像していた。
だが免許を取りたてで、さらにそんなバイクで、こんな暑い中、防具をフル装備にして、バイクにくっついて、登坂している人間。そんな奴がだれそれのことを変なヤツだと考えるのもおかしなことだったな。俺も十分にオカシイ。
――さて、峠までは辿りつけた。
ここからどうするかだが……まず、ションベンだな。知り合いと来ていたらなら、「こんなチェーン店ねーよ」と言って笑いものにするのが確定的なあのコンビニっぽい店に入ろう。
「ふう……」
トイレから出て、店内で水でも買うかと考える。――やべー、そういえば、ここケータイで支払いできねー。
一旦、バイクに戻り、財布を取り出そうと、荷物入れを開けると、財布が入っていなかった。あれ? もしかして盗られたか? やべぇ、免許不携帯だ。……って、それより水か。
確か、山水が飲めるところが近くにあったはずだ。前、その場所に行ったときは親父もいて、おふくろもいたんだよな。一年に何度も来るような場所じゃないから、結構、前のことを思い出していた。
さっさと、行こう。俺は、喉が、乾いた。
このカーブの先に……あ……なんか……クラクラ……する……やべ……ぇ……このままは……きけ…んだ……右ん……――トラック。足は軽い。のに。なんで。頭は。いや。両方軽い? よく分からな――
○月☓日
ここでケンジは亡くなった。
トラックと正面衝突事故。走り出す前辺りから調子がおかしくなっていることを感じた。
視て体感した感じだと、立ちくらみのめちゃくちゃ重度のヤツみたいだった。
これが脱水症状? それとも別の何か?
特には、バイクへのトラブルや路面のトラブルは、彼の主観から得られなかった。つまり、原因はアイツ自身のエラーにあると考えられる。
それにしても……。
「ケンジはマサトの友人だったのか。だから、俺の顔を見て少し反応したんだろうな。他人から見ると少しだけ似ているらしい」
「そういうことのようね」
しかし、あのバイクのせいかよ……。最低じゃねーか。弟の友人を殺してしまい、きっかけを作った弟を傷つける。その大本は俺にあるってことか。
「……時間の流れは、違うみたいだな。もう何ヶ月も過ぎていた」
「そうね、この場所とは違うみたい」
それでも時間は先にしか進まず、取り返しがつかない。僅かな幸運のツケをこんな所で払わされるとは思ってもみなかった。
「ねえ、タカハル。彼、ケンジ君の母親の視点を視てみない?」
「なぜだ?」
「視れば分かると思う。そうすれば、少しだけ事態は動くはず」
「けど……」
「ええ、そうね。貴方が及ぼした影響について、貴方が救われる結果にはならないと思う」今更、そんなムシのよい顛末はないだろう。「でも、少しは……ごめんなさい、上手く言えないのだけど……」
そんなに気を使わなくてもいい。
「分かった。視てみよう」
それに、この場所のルールについて幾つか仮説が立った。それを確かめなければいけない気がしている。
七月二十日 ヨシミ
液晶タブレットを弄る。人工衛星で彼の居場所を特定する。
また、バイクで何処かへ出かけている。――周辺には、立ち寄る場所もなければ、交通機関等も経由すらしない場所だ。
バイクに乗るのは止めてと言っているのに止める様子すらない。
確かに、彼は幼い頃からバイクに憧れを抱いていたけれど、事故で父を亡くしてからは、興味を失ったと思っていたのに……
ならば、こちらにも考えがある。
七月二十一日 ヨシミ
液晶タブレットを弄る。人工衛星で彼の居場所を特定する。
また、今日も。また、遠出している。私が分かっていないと思っているのかしら。
昨日も帰ってくるのが遅かった。
だけど、今日は家へ向かうタイミングが早い。何か違和感があったのだろうか?
それでいい。バイクに乗るなんて、危険なことは止めるべきだ。
彼が家に入ってくる。タブレットは隠す。
目的の達成のために、細心の注意を払う。
彼が家に入ってきた。
「またバイク乗っていたでしょ」
釘を刺す。
何も答えずに部屋へ向かった。
話し合うべきなのだろうか。
また、『なら、高校には行かない』なんて言われたら困る。
何かが決定的に断絶してしまっているようだった。
夜。物音を立てないようにしてバイクの荷物入れから、彼の財布を抜き取った。近い内に彼の通学路の途中でスピード違反のネズミ捕りが行われるという情報を得ていたためだ。
七月二十二日 ヨシミ
今日も、液晶タブレットを弄る。人工衛星で彼の居場所を特定する。
今日も、だった。今日は近場だけど、きっと、バイクに乗っているに違いない。
彼には話し合おうという気がないに違いない。
もうたくさんなのに。
交通事故なんて。
夫が死んだ日のことを思い出していると、玄関の鍵が開いた。慌ててタブレットを見ると、彼は家に着いていた。
「ケンジ。貴方、今日もなの?」
彼の位置からは見えない場所にタブレットを隠す。
「へ? いや、今日は知り合いの所へ行っていただけだぜ。音もしなかっただろ?」
確かに排気音を感じなかった。気がつかなかったのは、そういうことか。
「確かにそうだわ。でも、危ないからバイクに乗るのは止めて」
「――またそれかよ」
「何度でも言うよ。お父さんは……」
「俺はちげーよ」
何が違うのか。大きなエネルギーを持つモノに違いはない。危ない。そんなものを専用通路以外の場所で何台、何百台も同時に走らせる。これが危険でないなんて、言えるわけがない。確かに私も最近までは大した疑問も感じていなかった。身近な人間を亡くしてから気がつくなんて、私は、今まで何を考えて生きていたのかと思う。同じ体験をしたケンジなら分かってくれると思ったのに、『俺はちげーよ』これだ、根拠がない。だから、権力の力を利用することを考えた。なんにせよ、計算上ではあと少しのはずだった。
七月二十三日 ヨシミ
今日は仕事の関係上、会社に行かなければならなかった。
だが、彼の場所を特定することが出来れば問題はない。
今は部屋で息を潜めているが、今日、高校は休み、出かけないわけがない。
十時頃、液晶タブレットを弄る。人工衛星で彼の居場所を特定する。
「まだ家ね……」
仕事を再開する。
十一時頃、液晶タブレットを弄る。人工衛星で彼の居場所――携帯電話がある場所を特定する。
「圏外!?」
思わず大きな声を出してしまった。こんなことは始めてだった。
しかし、冷静になれば特におかしなことではない。地下、トンネル、山、他にも様々あるだろう。そして、それは彼が外出していることを意味している。
もう少しで、ネズミ捕りが行われる。
そろそろのはずだった。そして、彼と話し合わなければ。
○月☓日
「こういうことだったのか……」
予測できたことと予測できなかったこと。そして、ケンジのケースを加えて考察しても依然として仮説は否定されない。俺とケンジの共通点。だけど、仮説を強固にするために俺は、もう一人分の視点を視なければならないのだろう。
エミが俺の様子を伺いながら口を開いた。
「どう? 参考になった?」
「うーん、あまりかな」
「どうして?」
「答えがないから。いや、求めるべき解答なんてないんだろうけど、俺の知りたかった答はないんだ」
「言いたいことがよく分からない」
「だよな、俺もよく分かっていないから」
見かけ上、俺は心不全でケンジは交通事故。そういうことになっているのだろう。
黙って考えをまとめていると、エミが話題を変えて話しを振ってきた。
「ケンジ君のことだけど、あれは脱水症状による事故ということでいいのよね?」
「そうだろうね。だけど、財布を持っていれば違った結果になったかもしれない」
「そうね。そういうことよね……」
「何がそういうことなんだ?」
「いいえ、何でもない」
何か隠していることがあるみたいだ。秘密はステータスボードにあるのだろう。ケンジの名前と年齢を知っていたことからも想像がつく。つまり、俺がこの空間に現れて少しの後にはある程度の情報は知られていたのであろう。別に後ろ暗いことなんてないからいいのだが、彼女がわざとそれを隠しているのはどういうことだろうか。
まあ、それもこれも一人分の視点を視れば説明がつくはずだ。
「なあ、エミ。ステータスボードを使わせてくれ」
「いいけど、誰を視るの?」
「――あと一人、オールキャストには足りていない」
俺はエミの言葉を無視して、言った。
視点が決定的に足りていない。ビンゴの真ん中の番号を引くことの出来ないような、そんなもどかしい状態のような感じだ。出来るならそこを回避しようと、いろいろ考えていた。しかし、どうも、その番号を開くこと、それは解答を手に入れるためには必須の場所のようだった。
「……それ、誰のことかしら?」
分かっていてとぼけているだろう?
「エミさん、貴女です」
ちょっとカッコつけてみた。探偵っぽいだろう、なんてことを思ったりする。エミが犯人というわけではないので、視線を向けるだけで人差し指で差すようなことはしなかったけれど。
「私は生前の貴方とは関係していないはずだけど?」
正にその通り。こんなところに居たはずのエミには、俺の人生に手の出しようがない。
しかし……、
「いろいろとおかしかったんだよ。……いや、おかしいというのは少し違うな。とにかく、エミは何か重要なことを隠している」
普通の視点では気がつくことの出来ない何かを彼女は知っている。そして、隠している。
「意外と鋭いのかしら? それともヒントを出し過ぎた?」
「エミがステータスボードの力を見せ過ぎたのは原因ではあるかな。プライバシーに配慮してきたつもりだが、コマが揃わない。その何かを回避したままでは答えにたどり着けない気がするんだ」
生と死の中間地点とも思えるここで、だらだらと、なにからしらの期限があるならそれが訪れるまでエミと遊んでいるのもいい。けれど、それに付き合わせ続けるにしたって、まずはしっかりと自分の死因を理解してからだ。
「そう……じゃあ、私の視点、視てみる?」
「それで説明になるのならば」
「十分すぎるわ。長くなるから、重要ではないところはスキップをするわよ」
やっぱスゲーよ、ステータスボード。




