少し運がよいはずの男のハーフウェイ・ポイント5
タカハルとエミコがハーフウェイ・ポイントで
☓月○日
「やぁやぁ、エミコさん。お久し……」
エミコの右手が……いてぇ、結構マジに殴りやがった。だけど、あんな別れ方をしたら、殴られて然るべきだろうな。
「お別れの言葉も無しに成仏するのはルール違反よ」
そんなことを言ったエミコの顔は、今までに見たことのないものだった。なんだ? 泣いているのか? 全く、こういうのは困る。俺がこの状況を生んだ訳だから、エミコは何も悪くない。そんなわけで、エミコが心を乱すことはないと思う。ただ、ひたすらに恨みつらみを言って、俺を責めてくれた方が楽だ。その状況は昼ドラの主人公のような気持ちになって、やり過ごしてやるぜ。
「別に成仏? よく分からないけど、それをしたわけじゃない。姿を消していた。いや、隠していたと表現するのが正確だな」
正確な情報。それだけが誤解を解いてくれるはずだ。
「どういうこと?」
睨みを効かせるのは、やめて頂きたいのだけど。
「俺にも考えがありまして――まず、さっきの彼、ショウについての話をしようか」
確認、うん。すごく怒っている。話を逸らしたい。責めてくれたほうが楽だ、なんてカッコつけてゴメンなさい。
「どうして? はぁ……まぁ、好きにすれば?」
勝手でゴメンなさい。でも、鉄は熱いうちに打てって言うし。
「ショウを殺したことになっているのは、やっぱり……?」
エミコの方を見る。ショウのステータスは確認していただろう。
「彼には教えなかったけれど、『状態/死亡(他殺・母)』だったわよ」
エミコは苦々しい顔で言った。親が子を殺す。彼女にはそれがたまらないらしい。
やはり、そうか。
「では、エミコさんに質問です」右手の指を立てる。「ショウが殺されなければいけない理由とは?」
その後に首を右に傾げて、質問する。道化を演じないと暗くなってしまうだろう。バカみたいに明るく、それを心がけよう。
「……分からない。いえ、私が視た限りでは……無い……?」
「そうなのです。俺もそのように思います。だから、ボク、現れました」
「そうだわ。姿を隠す、そんなことがどうして出来るの?」
エミコはステータスボードを取り出した。俺のステータスでも視ているのかね。
「今はニュートラルだから分かんねーって」
エミコは俺の目を見つめている。
「後で説明すっから、また後で聞いてくれよ。その時にお教え致しましょう」
「きっとよ?」
念押しをされた。モチロン。胡散臭い笑顔を作った。もう二度と消えねーから大丈夫です。――多分ね。
「話を戻そう。ちなみにだけど、ショウの特殊能力の有無を俺は知らないんだ。アイツは何か特殊能力を持っていたのか?」
「……食品の鮮度を見分けるというものだったわ」
やっぱ、家庭的だな。いい主夫になれんじゃないか?
「世界が大爆発とかそんなような大層なものじゃないわけだ。その能力を持っていたからでも、奴自身の行動でもショウには殺される要素が無い……と思った」
俺は能力ゆえに殺され、ケンジは行動ゆえに事故ることになった。
「じゃあ、タカハルの仮説を聞きましょうか?」
物分りがよくて助かります。
「俺の仮説はヤツが事故死だということだ。……故意に狙われ無かったという意味で」
「でも、ステータスボードによれば、彼は他殺よ」
エミコが当然の疑問を挟んだ。
「お前が言ったんだぜ。ステータスボードが正式かどうかなんて分からないと。まず、俺が殺された例の時から正確では無かったんだ。いや、正確すぎた、というのが正しいのかな?」
「何故、そう思うの?」
「エミコに一つ聞きたい。現実世界の定義で表現するなら、俺を殺したのは幸薄女だとは思わないか?」
否定は無い。ならば続けよう。
「俺のケース、毒を入れたのは幸薄女だけど、ヤツはただ、おまじないをしていただけだろ。原因を作ったのは親父だよ。ステータスに表示される、殺した人、それは原因を作った人間を示すと考えられる」
どう思う? と確認の意味でエミコを見つめる。
「――可能性はあるわね」
「じゃあ続きだ。ショウの記憶には、殺人者たる、母親はほとんど出てきてないよな?」
「ええ。早朝に声が聞こえた程度ね」
「だが、オトコノコ的には母親が事件に関与した形跡を感じ取ることが出来たよ」
「それは?」
「鞄の中の差出人不明のクッキー。ショウは変に意識しないようにしていたけどな。母親からのプレゼントが学校で見つかれば、恥ずかしい思いをすることは想像に難くない。そのクッキーが犯人だと俺は考えている」
ったく、俺は母親にしか貰ったことねーってのに。いくつも貰いやがって、ムカツクヤツだ。
「クッキーが犯人? 方法は? さっき、ショウと話をしたような子供騙しはダメよ?」
ドリアンとアルコールのことか? それだって、もしかしたら、本当かもしれないだろ?
まぁ、これから話すことも仮定に仮定を重ねるような話な訳だが。間違っていたら? 不安になってくる。だが、だからこそ、自身満々に、ふてぶてしく、語ろう。
「ショウの電車での行動を覚えているか?」
エミコは頭を左右に振った。覚えていない、っと。説明しましょう。
「ショウはドアの前、ゴムを避けていたろ?」
「そういえば……そんなことも、あった……かも」
エミコは自信がなさそうにうなずいた。
「カエルの解剖をして、カエルを恐れるのは分かるけど、ゴムを恐れるのはオカシイよな?」
「自然では無いと思うわね」
「――カエルを解剖したときに使った、手袋を恐れた。これなら繋がると思わないか?」
反応を待つが、エミコは何も言ってこない。
「ゴムの木を原料とする、天然ゴムラテックスってものがある。それは、使い捨てゴム手袋なんかに使われることがあるんだけど、分かる?」
大人の風船なんかの原料でもあるんだけどな。企業名にもなっている。エミコは多分知らないだろう。いや、知らないでいて欲しい。俺は女の子に幻想を求め続けるのだ。
「その天然ゴムラテックスにアレルギー反応を起こす人がたまにいるんだ」
「アレルギー……。――一つ質問。なんでそんなことを知っているの?」
もしかして、呆れていますか? 役に立ったんだから、いいじゃないか。
「無駄に無職をしていただけじゃないってことで理解してもらえる?」
壮大な暇つぶしの中で、何が役に立つなんて、想像も出来ないものだ。アレルギー疾患のガイドラインなんて、高校生の必読書ではない。
「もう一つ。ゴム手袋にアレルギー反応を起こすとして、それがどうしたの?」
「ラテックスアレルギーがあると、特定のフルーツもアレルゲン、えーっと、アレルゲンってのはアレルギーの原因になるものって意味な、アレルゲンになることがあるんだ。その特定のフルーツってのは、バナナとかキウイフルーツとか、ドライフルーツにされるものが多いんだよな」
けど、ドライフルーツ中のタンパク質ってアレルゲンになるのかね。まぁ、エミコを説得できれば、それでいいんだが。
「ということは?」
「フルーツがアナフィラキシーショックを起こし、それによって、死んだ。クッキーが犯人。どうでしょうか?」
アナフィラキシーショックには、一時間以内にアドレナリンを注射――だったよな? ショウは家に一人だったようだし、そこはクリアできる。
まぁ、ラテックスアレルギーで日本国内で死亡例はないけど、それはハーフウェイ・ポイントへ来た理由の説明にもなる。俺も心不全で処理されているらしいし。
「ありえなくは無いわね。だけど、アレルギーを持っていることを母親が知っていたなら、故意に仕掛けたともいえるわよ?」
意地が悪い……わけじゃないか。そっちのほうが自然だ。だけど俺はステータスボードに反抗する。
「それを聞かなかったのには理由がある。俺はまだ記憶操作をしたことも、時間を戻したことも、そんなにないからな。それを聞かせて、ショックでショウが消えてしまう、成仏する? そんなリスクは避けたかった」
ケンジがいきなり消えたときはマジで焦った。
「そんなに……ね……でも、出来る自信があったと?」
「モッチロン。姿は隠せることは出来たんだし、絶対に出来ると思ってたよ」
それを隠したのは、俺の母さん大好き、マザコン気質が影響していないとは言い切れないがな。悪くないとはいえ、母親を少しでも恨んだりしたら、ダルいだろ。
「そうだ。なんでいきなり姿を消したの? 貴方が突然、成仏したと思って、びっくりしたんだから……それと、なんでそんなことが出来るの? 結局、貴方の能力は?」
はいはい、お答えいたしますよ……また聞けとは言ったけどさ……
「俺の特殊能力ってのは一つじゃないみたいだということに、エミコの視点で気がついたんあだ。俺の能力は、運がいいこと……それと、人の心を読むこと。この二つのルーツは、親父と母さんにあった……と思う。俺は親父の運の良さを羨ましいと思って、その力が欲しいと願った。母さんの人を思いやれる心が欲しいと思って、人の心を知りたいと願った。そう思った瞬間に力が得られた。まぁ、運のいい方はすぐに自覚なんて出来なかったけど。そんなことが出来た。つまり、特殊能力を操作する能力なんじゃないかと思ったわけだ。エミコはこの能力のルーツを知らないから、二つの能力の切り替えが起きていたと思っていたみたいだったけどな」
エミコは長台詞の後も思案顔を続けて、「よく分からないわ」と更なる説明を要求しているようだった。疑問に明確にお答えしましょう。
「じゃあ、今の俺をステータスボードで視てくれ」
そう言ってから、『俺は運の良さは放棄する』と心の中で思い描く。
そして、「どうだ? 分かったか?」と彼女に問う。
「ええ、『特殊能力/特殊能力の与奪』になっているわ」
「正式にはそういう感じなのか」
はた迷惑な力を持ってしまったもんだ。
「これが正式なんて決まっていないわよ」
切れ味バツグンですね。まさしく本物のエミコさん、お久しぶりです。
「とにかく、いろいろと出来ると思っちゃって、まず、消えてみた。」
「なんでそんな意地の悪いことを――」
いや……そこで、泣かれると困るんだが……
「何も言わなかったのは悪かったよ。ただ、結果的には言わなくてよかったと思っているよ」
「……どういうこと?」
「ハーフウェイ・ポイントを客観的に観察することが出来た。いや、最初はさ、生き返ってみようかなー。時間とか戻しちゃえば何とかなるんじゃないか? とか考えたんだよ。……けど……」
エミコの方を見る。
「それだと、また殺されそうよね……」
エミコは遠慮がちに言った。
「ザッツライト。というか、『やってみる』とか言って、昔の俺がそんなことをしていないかが心配だよ。『実は、ループ世界、突入しています』とかイヤなんだが――」
リュウに殺される結末とかあったら、マジでたまったもんじゃない。俺だって傷つくことくらいある。
「ということで、生き返る。それは保留にしたわけ。もう一回ブッ殺されるのは嫌だし、ニコチンで薬殺されるのって、結構、楽な死に方だったと思うのさ。いや、勘違いしないで欲しいのは、毒を食事とかに仕込まれて、気づかずに飲まされたとかなら、よし、俺、頑張って生き返っちゃうぞー。とかなるんだけど、体内にブワッと作られちゃ、どうしよう、コレって感じだろ? 親父の力、ここにあり。って感じだよなー。俺っていろいろと出来ちゃうみたいだし、ここで、もう少し遊んでいたいんだよね。比較で申し訳ないんだけど、生きてた時よりも、今の方が楽しいかなーって感じもするし」
エミコに怒られないように言い訳を必死なガキか俺は。あと、遊ぶっていうのは照れ隠しっぽくて、キモイ。
「――続けて」
あのー。エミコさんが恐いっす。
「はい。で、なにもしないのはアレなんで、エミコが何故ここに残っている? 残されている? のかを検討してみようと思いまして……あ、勿論、ステータスボードで視たりはしてないよ。やろうかと思ったけど、プライバシーとかね。隠れる以外の特殊能力は、ほとんど使っていないから」
ステータスボードは、すぐ横から覗き込んでいたけど。
「――そう」
「だから、次のヤツが来てエミコがどういう行動をするかで見極めようと思って待ってたわけ。でも、全然来ないんだね」――そうだ、一応、エミコへ報告しておこう。「あ、次のヤツって言えば、ケンジには怒られたなぁ……『マサトさんに迷惑をかけるな』だって。キレる若者。こえーよな?」
「彼と話をしたの?」
エミコは驚いている。
「少し、戻ってきてもらいました。あ、そこ以外では、隠れていたよ? 悪いこととかしてないから。で、注意事項を授けて、生き返ってもらいました。また、ハーフウェイ・ポイントに戻って来ないことをみると、どうやらお母様と和解できたようだねぇ……」
よかった、よかった。
「信じられない……」
ですよねー。俺も確認してないもの。
「ステータスボードで確認してみれば?」
「――後でするわ。続きを聞かせて?」
了解です。お嬢様。
「ここ、ハーフウェイ・ポイントのルール、エミコは資質って言っていたっけ? ところどころ引っかかるところがあったし、それについて誤解されているところは無いか、それを考えることにしたんだよ。んで、一応確認、エミコがハーフウェイ・ポイントの創造主じゃないよな?」
「私も貴方と同じく、死んでここへ来たわ」
よかった。創造者による証明の前に推測は無力だろう。
「俺とエミコの共通点。まず、条件一つめ。死んでいる」
「言いにくいなら言ってあげる。親に殺されたのよ」
エミコもやはり……
「俺たちの共通点ならそうかもな」
でも、たまたまの一致かもしれない、俺が見たのは数例だけだ。
「あと、特殊能力を持っている。取り敢えず、すぐに思いついたのはそれだけだ。だから次に来るヤツを待った。空気バットで殺されたヤツとか、不可視透過性のレーザーで殺されたヤツとかもここに来たよなー」
「全部見ていたと……そういうことなのね……」
エミコは諦めたように言った。申し訳ありません。あと、拳を握るのはやめてくれ。
「まぁ、そうだよ。んで、さっきのショウだ」
言い方は悪いが、そこまでは俺も含めて、殺されてもおかしくない。ニート、バイカーにチンピラ。今思えば、バイカーはそうでも無いけど……
「俺の仮説、ヤツが事故死だとさっき言ったよな」
「――可能性はあるわね」そして、「お父さん……貴方のお父さんの動機が分からない」と思い出したように聞いてきた。
「そんなこと、聞きたいの?」
「ええ……」
エミコには重要な問題らしい。一番重要なことを飛ばしてしまったけど、急ぐことはないし、後でいいか。
「俺の推測な?」エミコはうなずいた。「ヤツの、『敵となる人間はどんどん消した』つまり、最大の敵が死ぬという『当たり』を引き続ければ、俺もそのうち殺される。ってのはどう?」
「――でも、写真を渡していたでしょう?」
そうなんだよな……この説明だと、そこがネックになる。
「写真だって、もとはデジタルデータだろ? 数字の配列を意識せずに打ち込めば可能だ」
「そうだけど……」
「それに、あえて狙われた。そんな風には考えたくないんだ……」まぁ、嘘だけど。俺がヤツなら、俺に消えてもらいたいって考えも理解できなくもない。だけど、エミコには、たとえ幻想でも、そんな想像はさせたくない。「この話題はここまで。それでいいか?」こう言えば、エミコは断れない。真相は闇の中だ。ちなみに、俺個人としては、ヤツが俺を恐れていたのは正しいと思うけど、ランダムに殺して、たまたま、なんてのは無いと思っている。殺したくて、殺そうとして、殺したんだ。親子だからか、分かる。マジでサイテーな気分だ。
「ええ……嫌なことを考えさせてゴメンなさい」
いや、別に。俺はどっちでもいい。
――っと。また誰かが来るみたいだ。エミコに隠れるように合図する。
「必要?」
いや、別に。
――――
「今回は特殊能力を持っていないヤツだったな」
彼がそう言った。
「――そうね。で、今回も生き返らせたの?」と彼女。
「そうっすよ? ヤツも事故みたいなもんだろ?」
「否定はしないわ」
「能力者は引き寄せ合うって思っていたけど、そうでもないな」
生きているときに読んだマンガにそんな記述があった。彼も読んだのだろうか。
「貴方の周りが特殊なだけね」
そう。彼の周りが特殊なだけだ。特例は一族で一人いれば多いほうだ。
「今回ので、特殊能力の有無は関係ないかも、って感じじゃね?」
「確かにね……でも、原因が親。これはブレていないわ」
「だよなー。もうnも結構なものだしなー。もう、人体実験は許されないしなー」
n(実験の例数)って……彼女に伝わるのか?
「そんなつもりなら絶交ね」
「……泣くよ?」
「やめて」
「やめます」
彼女はため息をついた。
「じゃあ、貴方の現時点で考えている仮説を聞かせて?」
「りょーかい。まずは、死んでいる。その原因は親によるもの。あとは……死因の取り違えが起きていること」
「死因の取り違えって?」
「例えば俺、ニコチンによる薬殺のハズが、原因不明の心不全。ケンジ、ミネラルの均衡が乱れた運転ミスが、正面衝突事故。ショウ、アナフィラキシーショックが、原因不明の心不全。……ショウは推測になっちまうんだけどなぁ……国内で死亡例は無かったし、アナフィラキシーショックとは判定されていないとは思うけど……エミコ……それについて心当たりは?」
へぇ……そこまで推測出来たんだ。やるね。
「他の例も共通はしているわね。私以外は」
「そうなのか……」
彼は上を見上げる。睨みつけているようにも見える。
「私は……絞殺。客観的な事実としても……」
「それ以上はいいや」
「でも――」
「……エミコはここで何をしたい?」彼は話題を変えた。「特に無かったり、俺と同じなら、一緒にやらない?」
「何をするの?」
「正義の味方」
「真面目に言ってる?」
「こんな恥ずかしいワードを冗談で言えるほど、ハートは強くないんだけどな」
「――具体的には?」
「ハーフウェイ・ポイントから俺の力を使って、親による殺人を回避する。真面目な人間には楽しく生きて欲しいって、そういう願いを昔は持ってたんだよ。でも、俺はこんな性格だからさ、それを自分の中で咀嚼していたら、らしくない、向いてない、冗談言うなよって俺自身に言われちゃってさ。んで、なんもする気にならなくて、テキトーに生きていたら殺られちゃいました。さて、こっからどうしようかってなったら、正義の味方をやってみようって、また、思えたんだ」
彼は多分、彼女のことを思ってそんなことを言っている。
「私も馬鹿にするかもしれないわよ?」
「バカは好きな子のキライを好きに変換出来るって知ってた? エミコさんはあまのじゃくだなぁ。へへってな感じで」
「気持ち悪い」
「じゃあ、復讐に世界征服とかしてみようかな」
「魔王って大変そうだと思うけどいいの?」
そうかも。魔王とは勤勉でないと務まらない。なにせ、敵となる数が多すぎる。
「じゃあどうしたらいいかな?」
「自分で決めなさいよ」
『ヤダー。めんどくさいー。女子学生(一般)を気取ってみた。しかし、俺は、女ではないし、一般になりきれないことはよく分かっているつもりだ』彼はそんなことを考えているようだ。だけど、なんで、そのことが、僕に分かったのだろう?
「正義の味方やろーぜー恥ずかしがるなよー。俺達、もう死んでるから最強だぜー」
『よう。さっきの聞こえたか? 俺が正義の味方、こんな結末は如何かな? エンドマークにはもうちょっとだけあるよなぁ? 感想を聞きたい。出てきて、お話しないか?』
やはり、彼は口に出していない。
「いきなりだけど、言いたかったことをことを言わせてくれ」
「何?」
「ここに来る人間の資質はステータスボードに依存している」彼はそう言ってから、上を見上げ、「おい、場合によっては久しぶりにキレてやっから、出てこいよ」と言った。
そこまで分かっているなら、仕方がない。
「はじめまして、二人とも。僕はアキラといいます」
僕は自己紹介をした。
――――
やっぱ、いたか……
俺の感想はそんなモノだった。こんな不思議空間が勝手にありました。じゃ、困る。なら、誰かが創ったんだろうという想像をしていた。しかし、アキラが予想より幼いことには驚いた。
「アキラ……君? 何歳?」
「僕は……十二歳、もしくは三十歳」
その二つの数字には大きな隔たりがあると思うのだが……てか、三十路かよ……
「分かるように言ってくれ」
「そうだよね……死んだのが十八歳で、ハーフウェイ・ポイントを創ってしまってから十二年、足したら三十歳。外見は、何故か成長しているんだ。僕がここを創ったから、僕だけは例外なのかもね」
「干支は?」
「辰年」
「マジ?」
「記憶の限りでは」
一周り上って設定は今のところ破綻はしていない。名前がリュウジとかなら、さらに、それっぽい。
エミコが唖然としているので、声をかける。
「エミコも何か聞いてみろよ」
エミコは少し悩んでから、「……タカハルの言っていた条件、それは合っている? アキラさんは正解を知っているの?」と聞いた。
「知っているよ……知りたい?」
アキラはエミコの方を見て聞いた。エミコはうなずいた。俺の方に顔を向けることは無かった。少しくらいは確認しろよな。
「概ね正解さ。僕がここを創ってしまったところから話したほうが分り易いんだけど、それでいいかな?」
またもや、エミコの方だけ……かと思いきや、俺にも確認をしているようだ。エミコが答えてからも、話し始めない。
「俺も暇だからいいぞ」
「タカハル君って素直じゃないよねー」
「そうなの。困るでしょ?」
おい、見かけ年少の年長組。黙れ。
「まず、僕の死因は自殺なんだ。確認するかい?」
エミコの方を見て問うた。
「いいえ、大丈夫よ」
「死んだら効力を発揮する特殊能力みたいでね……僕はこの空間を創ってしまったみたいなんだ。そのことに朧気ながら気がついたのは、七年くらい経ったときなんだけどね」
「七年……それまでは誰もここに来なかったの?」
エミコは七年というところに気を留めたようだ。
「ここに呼んでしまう条件を僕が設定していなかったからね……死んで、ここに来たいという明確な意思があれば来ることは出来たはずだけどね。そのあたりで、僕は一人に耐えられなくなっていたんだ。同じ能力を持つ人が来ないかな、そんなことを願ってしまった。死んでいて、何らかの特殊能力を持っている人間なら、誰もがここに来てしまう。五年前の一時点、ここはそんな空間だった」
「その一時点で私が招かれたわけね……」
「そう。これはマズいと思って、すぐに誰も来られないようにしたんだ。どうやって謝ろうと考えていると、エミコさんはステータスボードを使って、自分の死ぬまでを見始めたよね? その時、僕はここから成仏出来ることを知らなかった。自分の力も把握しきれていなくて申し訳ないと思うけど……エミコさんの殺され方は……いや、これはいいか……ここで、一人ぼっちじゃ寂しいと思ってエミコさんと同じ境遇の人を呼ぼうと思って……」
「親に殺された人が来るという条件を付けた?」俺は口を出した。
「……加えるなら、『不幸な』という定義をしていた。それが死因の誤解が起きているという結果を生むとは気がつかなかったけど……」
「じゃあ、成仏は?」
理解できないのはここだ。
「――僕には、分からない」
「は?」
分からないじゃないだろ。どれだけの人がここへ来たのかは知らないが……
「僕はエミコさんを呼んでしまったあと、ここを見ないように……逃避していたんだ……誰かが来て、去っていくのは分かっていたんだけど……致命的な失敗をしてしまったと……」
はぁ……思わずため息が出た。
「お父さん、マジで使えねー」
「お父さん? なんで?」
「創造主だからお父さん。さすがに、アキラって呼び付けにするのもどうかと思うし、オッサンじゃかわいそうだ」
ちなみに、お母さんは誰も代わりはいない。アキラさんなんて呼ぶのは柄じゃない。
「――満足か絶望すると、消えるわ」
エミコが切り出した。
「……それが、条件?」
とぼけているわけじゃなく、マジで知らなかったのか、アキラよ……
「私が見ていた限りは……」
「エミコがそう言うならそうなんじゃないか? 新参者のバカと現実逃避のオッサンより真面目な少女の方を俺は信用したいね」
具体的にどんな心境を表すかは、全く分からないけど。アキラの方を見る。
「僕は……エミコさんがそう言うなら……そう思う……あと、オッサ――」
「お父さんも同意してくれたな。よし、これからのことを考えよう」
アキラの抗議は無視した。
成仏? それが救いになるのか、俺には分からない。だから、俺はやりたいようにやらせてもらう。
「俺は正義の味方をするからな。一緒にやるヤツ」
エミコはうなずいた。アキラはうつむいている。
「お父さんよ、俺の特殊能力は一枠しかねーんだよ。こんな不思議空間を維持するために使ってられねーんだ。消えられても困る」
アキラの腕を抱えて、上に挙げる。
「はい、お父さんも参加ねー」
「怒らないの?」
アンタ、結局、何歳だよ……
「どうする、エミコさん?」
「私は……死んだところを救われた……と思っていいの?」
「俺は知らん。始めて死んだし、ここ以外にもっといいところがあったかもな」アキラは小さくなっていく。「まぁ、無かったかもしれないし、思ってもいいんじゃね?」
「――そう、なら、いいわ。お父さんは命の恩人ね――私、死んでいるけど」
イタズラ好きの子どもが見せる笑顔していた。死んでいるネタをパクるな。
俺の一番の気掛かりをエミコに聞いてみる
「……生き返りたい?」
「そんな不安そうな顔をしている人を置いて、何処かに行こうとは思えないわね」
エミコは笑って言った。
弱っちいヤツだと思っていた。けど、一番強かった。
「ちなみにハーフウェイ・ポイントって名付けたのはどっち? マジで厨二すぎて引くわー」
「え、僕じゃないよ……?」
予想が外れた。
エミコの方を見た。俺が一番強いと思っていたヤツは真っ赤な顔をしていた。前言撤回、エミコは弱っちい。
「ハーフウェイ・ポイントってカッコつけようとして、失敗してない?」
「うるさいだまれ」
「仲良くいこーぜ」
まぁ、今のは俺が悪い
それでも、俺はこの子が大好きだ。
――――
「お父さんってイケメンだったんだな……」
ここに来てから数年が経った。
エミコの外見が変わらないという情報を得ていたから、俺の容姿が変化しないのは予想がついていた。そして、アキラの外見だけが変化している。今は俺達と同じ教室にいてもおかしくないだろう。アキラが老年を迎えたとき、この場所はどうなるのだろうか。まぁ、そこまで長生きできるなら儲け物だと思おう。
「羨ましいの?」
エミコがそばにいた。近頃はよく笑うようになった。うん、問題ない。
「やぁやぁ、毒舌、性悪、年増? のエミコさん。言ってくれるじゃないのさ」
見かけは俺より幼いけど、計算上、実年齢は上のはずだ。
エミコは「タカハルはバカで、調子づく、小心者の優しい子ども」と断言した。俺が年増の部分に疑問符を付けているのに失礼なヤツだ。しかし、子供じみていることを否定はしないさ。
付き合ってられん。視線を外すと、アキラが苦笑いをした。
「僕は女の子が苦手だから……別に……」
はっ、持たざる者には言う事の出来ないセリフをありがとう。告白されて逃げ出したことが、死ぬ原因の一つだと、以前、聞いた。告白してそれっきり、何も言ってこないヤツのことなんて、気にするな……とは言わないが、そこまで気にすることもない。
俺が真っ当に育ったなら、アキラに似た人間になっていた気がする。俺もなんだかんだで、小心者なのは間違いない。
そういえば、チョコをいくつも貰っていたアイツは元気だろうか。痴情の果てに殺されていたならば、救うことは出来ないから、気を付けていればいいんだが……俺の知り合いのモテる奴らのハートの弱さには呆れる。
そして、我が弟がジゴロになっていないことを祈る。心配はいらない。恐い父親と優しい母親、ファニーな先輩と面白い後輩がいるからな。唯一のリスクはここにいて、遠くに離れている。
取り敢えず、アキラを叩く。
「イケメンを受け入れろ。我らがおとーさんは複雑に考えすぎだ」
「……タカハルが適当だから、しっかりしないと駄目だろ?」
言うようになった。悪くない。
「しっかり者はそっちの子で足りているって……」
エミコを見る。まだ笑顔だ。
「……さっきの、私より悪口成分が強くないかしら?」
なに? 根に持ってんの?
「そうですか、笑顔が可愛く、相手を気遣えて、イタズラ心がなかなか俺のツボなエミコお嬢様?」
高額強制貸付をしてやった。この返済は大きいぜ。
「貴方やめなさいよ……」
お、また一ついいところかな?
「――来るね」
アキラの顔が引き締まった。
そうですか。
「ま、取り敢えず、もうしばらく、宜しくお願い致します」
「それ、いつも言うわね」
ああ、ここはかなり気に入っているんだ。
エミコはステータスボードを出して、・はい。と表示した。
よろしく。
アキラは俺の方を見ないけど、うなずいた。
よろしく。
「で、今日はどうします?」
アキラは多分、俺とエミコ、二人に聞いている。
「いつもので」
エミコは演技に入る。
「フォローはよろしくね」
りょーかい。まぁ、最期に出てきて、生き返らせるだけの俺に特にすることは無い。神様役ということらしい。神がこんなイイカゲンじゃ困るだろうに。まぁ、勤勉な神は最早、魔王に近いとは思うけど。だから、俺はある意味では適任だ。
「あ、やっぱり、案内役やりた……」
「ダメ」遮られた。「あと、タカハル、今回はもう少しミステリアスに頼むわよ?」
わくわくしてやがる。さっき作った表情がもう崩れている。あー駄目だ。これはマジにアレな人だ。まぁ、とてもいい笑顔をみせてもらえるようだから我慢してやろう。
「あ、来たわよ。アキラさんも早く顔を作ってよ」
アキラは俺の方を見た。『どうする?』って顔をしている。俺は能力を切り替えて、ステータスボードを創り出し、・おとーさん、がんばれ!。とアキラへ見せ、姿を隠した。
「全く、いいかげんだなぁ……」とため息をついたのを見た。「――来た」
エミコは笑顔だ。俺達よりお前がしっかりしたほうがいいと思う。
訪問者の第一声。
「オイ、コラァ、どこだよここはよぉ? つーか、なに笑ってんだよ? あれか? 死神か? なんなんだ、ここはよおぉぉ!」
激しいのが来た。エミコは狼狽えている。死神か、いい感性だ。本当に消える前に語りかける悪魔達。君に利用することは出来るかな?
エミコさん、マジでビビってますね。仕方が無い、プランB、俺も、少し、頑張るとしよう。
最初に言ったように、俺イコール神……みたいなものです。気に入らない行為はブッ潰すから、せいぜい、目をつけられないように優しく生きてくれ。




