少し運がよいはずの男のハーフウェイ・ポイント4
ハーフウェイ・ポイントのM・B・V
☓月○日 ショウ
僕は気がつくとココにいた。
困ったな。早く帰らないと……帰らないと? 僕、家に居たはずだよね? ここは?
え……? うわぁーぁー高いよ。雲の上に乗っている……訳ではない。ガラスのようなものが、確かにある。でも、高いなぁ……
地面があるんだ。雲の影に誰かがいるかも知れない。
「誰かー。いませんかー」
――――――
いなかったら返事しろー、というのはつまらない教師の様だけれど、この空間なら言ってもいいかもしれない。たぶん、だれも気にしていない。
言ってみようかなと思い、周囲に注意を払う。すると、雑誌くらいの液晶タブレットが宙に浮いていることに気がついた。
「これは――」
画面には・はい/いいえ。とだけ表示されている。よく見ると、ドットが荒い。このタブレット、どうやら、安いパチモノだな。
ほら、やっぱり、本物にはない、十字のボタンが一つと丸いボタンが二つ付いている。しかも、このボタン、アナログ入力対応していない。旧式すぎるよ。パチモノ作るにしたってこれは酷いものだ。
でも、少しだけ、本当に少しだけ、気になった。ボタンを押してみる。そうすると、・はい/いいえ。の表示は消えて、僕、クラスメイトのキョウコさん、チカ、リツコちゃんの顔がタブレットに表示された。しかも、さっきより画質は鮮明だ。
「なんで……? クラスの子……?」
僕は呟いただけだ。なのに、このタブレット、・はい。とだけ表示を切り替えて僕に見せ、さっきの写真の画面に戻った。
「なに? 反応した?」
・はい。と点灯してまた画面が切り替わる。
「なんなんだ。馬鹿にしているの?」
タブレットに反応は無い。
カチンときた。こうなったら、ガチャプレイだ。適当にボタンを押してやる。
うわ。なんだ――
二月一四日 チカ
まさか、こんなにライバルがいるとは思わなかった。
ショウ君には毎年、私だけがあげていたのに……もう二つも入っている。多分一つはリツコちゃんだ。去年のクラス替えで同じクラスになってから、ショウ君とよく一緒にいる。私は始めてクラスが離れてしまったというのに……ズルイよ。
今年こそは本命のチョコをあげようと思っていたのに、ライバルが二人もいるなんて、予想外だ。
これは、放課後に決着をつける必要があるかも。
あと一人を把握したいけれど、リツコちゃんに聞けばわかるかな?
☓月○日 ショウ
今のなんだ?
画面が光ったかと思ったら、頭に直接、チカの考えが入ってきたような気がした。
このタブレットをめちゃくちゃに弄るのは、危険だということは分かった。
――ということで、慎重に扱おう。これは面白い。
今、タブレットには、僕達の顔が表示されている。この十字キーは、きっと、対象を選ぶものだろう。さて、どっちのボタンを押すかだな。
よし、右だ。意味は無い。勘だ。
僕の顔の上で右のボタンを押す。
そうすると、日付が一つ表示された。
・二月一四日。
ここで右のボタンを押したら、さっきみたいになるのだろうか……だったら……
左のボタンを押す。
さっきのところに戻った。
カーソルをあわせる。右のボタンを押す。日付が出た。
分かった。
右が決定で、左がキャンセルだ。
この子も一日だけ。二月一四日。
右のボタンを押す。
二月一四日 リツコ
今日は少し早めに家を出て、いつもより早めに学校へ着いた。
チョコをロッカーに入れなければいけない。手作りじゃなく、買ってきたものだけど、気持ちは手紙に込めたし、ちょっと高めのを買ったから、ショウ君も喜んでくれるはずだよね。
ショウ君のロッカーを開けると、既に一つ箱が入っていた。きっと、チカちゃんね。あの子はショウ君とは、所謂、幼馴染みの関係みたい。私にはそういう人がいないから、羨ましいな。
強力なライバルね。負けないけど。
教室に着くと、もう来ている子がいた。キョウコちゃんだ。外見、態度といかにもお嬢様な彼女も早く来ているということは、チョコをプレゼントしたりするんだ。なんだか意外だけど、親近感アップだ。
☓月○日 ショウ
そうだった。
僕はこの日チョコとかを貰った。そんな記憶が微かにある。……気がする。
去年まではお母さんがくれるだけだったもんな。
いや、チカも義理だからと袋入りのものを配ってはいたけど、どうやら、あれはカウントしてもよかったみたいだ。
そうだ――続き、続きっと。人を覗くのって、なんか面白い。
左ボタン、カーソルを合わせて、右を二回。これでオッケー。
二月一四日 キョウコ
学校の正門が開くのは七時半。当然、三十分には確実に開いていなければいけない訳だから、それより早くに正門は開く。十五分前に来ていて待ち構えている。これくらいの慎重さは必要よね。ショウ君にはチカちゃんという幼馴染みがいる。あの子に先を越されたら、分が悪い。でも、先手を取ればあの子は身を引くはず。
あれこれと、今日、取るべき行動の確認をしていると、門が開いた。どうしたのかと尋ねられるが、これにも対策は用意してある。
「本を机に置き忘れてしまって。続きが気になるから、おうちで読むはずだったんです。だから、少しでも早く、学校へ来ようと思っていたら、早く着きすぎてしまいました」
念の為に本は机の中に入ってはいるけれど……それにしても、おうちですって。白々しいわね。
先生は感心したような顔をして去った。簡単なものね。
さて、チョコをロッカーに入れなければ、こんな早くには、誰も来てはいないでしょうけれど、警戒はしておかないと。
でも、何事も無く作業は完了した。あとは、ショウ君がこれを受け取ってくれれば、ミッションコンプリートだ。机に仕舞っておいた本は、以前に読んだ本だけれど、時間つぶしに読んでみよう。
最も、集中して読むのは難しいだろうけど。
☓月○日 ショウ
へぇー。キョウコさんも僕にチョコをくれようとしていたんだ。……確かに、そんなことがあった気がしてきた。
これが、モテ期ってヤツなのかな。
そういえば、チョコは三つもらったような記憶が……他にも何かあった気がするんだけどな。思い出せないな。
しかし、三人の一四日を覗けたのはいいけど、これから、どうしたらいいのか分からない。
問いかけてみよう。
「することが無いんだけど」
・いいえ。
すると、僕の顔にカーソルが合された。
確かに、これは選んでいないな。
僕は右ボタンを二回押した。
二月一四日 ショウ
「ショウー。私、もう出かけるわよー。お弁当とかは鞄の中に入れておいたからねー。鍵を掛けるの、忘れないでねー」
帰りは遅いんだから、僕の弁当とかは放っておいて、その時間の分も寝ていればいいのに――
「分かったー。ありがとー。いってらっしゃーい」
お母さんへの感謝は忘れずに。
さて、現在は七時三十分。始業が九時。残り、九十分。電車で十分、電車の待ち時間を多めにみて二十分、歩く時間が合計で二十分。差し引き四十分か――落ち着いて身支度をして、食器、調理器具を洗う時間はあるな。テレビを眺める余裕もあるくらいだ。特集はここから西の地方の駅前に人気のピエロがいるというものだった。確かに、テレビに映っている曲刀のジャグリングは迫力満点って感じだよね。その次の特集では、バレンタインデーがどうとか言い始めた。そんなのは見てらんないよ。テレビを消して、さっきより力を込めて食器を磨く。
片付けを済ませ、「行ってきます」と家を出る。鍵も忘れずにっと。
駅でジュンイチに会ったので、一緒に学校へ行くことにする。この時間、やはり、車内は混んでいる。ジュンイチはドア前を確保して、僕を呼ぶ。けど、僕はあまり、近づきたくは無い。ゴムというものは、少し前にやった、カエルの解剖のときから、苦手だ。
ジュンイチとモンスターを狩るゲームの話をしていると、最寄り駅に着いた。うん、予定通りかな。
お互いに、今日の独り身男子の処刑イベントには触れることなく、学校への道を歩く。
ジュンイチは別のクラスだから、玄関で分かれた。靴を履き替え、教室の前へ着く。ロッカーで荷物の整理を……なんか入っていますけど……三つ、と鞄の中に一つで合計四つ。この一つはいつ入ったんだろう? って……そんなの決まっているじゃないか……これが見つかったら、かなり恥ずかしいぞ。なんで鞄にいれるかなぁ……
ともかく、三つを鞄に押しこもうとする、だけど、入りきらない。鞄の中にあった教科書をロッカーに突っ込んで――これで――なんとか、四つのプレゼントは鞄の中に収まった。
この三つは誰がくれたものなんだろ? 実は、三つ合わせて一つなんてデラックス仕様でないなら、三人の子が僕に……
――いや、イタズラの線もある。一番の容疑者とは、電車で一緒だった。けど、ジュンイチなら、僕のロッカーに入れる→駅へ戻る→一緒に学校へ。この一連のアリバイ工作くらいはするかもしれない。
プレゼントが僕の心を乱しに乱し、授業は上の空だった。
放課後になり、帰ろうと準備をしていると、キョウコさんが近づいてきて、「あれ、開けた?」と問いかけてきた。
「あれ?」
「ロッカーの」
少し焦れている? 普段の落ち着いた印象からは、かけ離れている。
「いや……まだ……」
「じゃあ、教室で待っているから、どこかで開けてきてくれない?」
真剣な目をして言われたので、僕は何度もうなずいた。
どこか……この時間の部室棟なら、もう部活も始まっていて、あまり人もいないだろうから、そこにしようかな、と考えていると、チカに声をかけられた。
「ショウ君だ。一緒に帰らない?」
「ごめん。ちょっと、学校でやらないといけないことがあるから、また今度ね」
部室棟へ行ってみなくては。
「じゃあ、教室で待ってる。終わったら、来てよね?」
それだけ言うと、チカは行ってしまった。
「待ってって――」
その言葉は届かなかったみたいだ。
――中身の確認をしなけりゃな。部室棟の様子をみてみよう。
予想した通り、部室棟に人は少なかった。よかった。三つ包みを取り出し並べる。
……どれがキョウコさんのかが分からない。
ファンシーな包装紙のもの、綺麗な箱に入ったもの、包装がちょっと破けているもの、どれだ?
直感で綺麗な箱だろうと思い、それを開ける。その中には、高そうなウイスキーボンボンと手紙が入っていた。手紙は、去年のクラス替えのあと、クラスに馴染めない私と仲良くしてくれたから好きです。付き合って欲しい。みたいな内容だった。差出人は――リツコちゃん? ホントに? 確かに、四月は大人しい感じだったけど……意外だ……
そうだ、キョウコさんが待っているんだ。じゃあ、こっちのファンシーなヤツか。中身は手作りのナッツチョコと手紙。昔から好きでした。付き合って欲しい。か……昔から時点で多分、キョウコさんじゃない。差出人は――チカ――そ、そうなんだ……僕はいい友達だと思ってはいるけど、またしても意外だ。
じゃあ、この少しボロ……もとい、不器用なモノなのか。開けてみると、手紙と異臭? 異臭がする! 誰とでも変わらずに話をしてくれる僕が好きなのだそうだ。だけど、この異臭はなに? 手紙を読むと、これはドリアンを使ったチョコだそうだ……なんてものを……取り敢えず、厳重に仕舞わせていただきます。部室棟のみんなよ、異臭の原因は僕です。本当に済まない。
――教室で待っているんだよな。一旦、戻らなくては。
僕が普段、過ごしている教室。そこには、何か得体の知れないものが張り詰めていた。
キョウコさんが椅子に座りながら、こちらを見て、視線を机に戻した。リツコちゃんは僕の目をじっと見つめている。サチは床をボンヤリと見ている。
何かあったのかと聞きたいけど、それは、おそらく、今現在、この場で最大のタブーなんだろうな――誰か喋ってくれないかなー。それは僕の役目なんだろうな――
チョコの感じから、実は一番大人な感じがした、リツコちゃんに聞いてみることにしよう。
「えーと、何があったのか教えてくれない? リツ――」
「彼女に聞くの?」
キョウコさんが言った。
「そうよ。なんで? ショウ君」
チカまで……
「なんとなく……」
怖くて、誰とも目を合わせられない。
「なんとなくって何よ!」
リツコちゃんもなの?
「みんな冷静になってよ……」
「ショウ君のほうこそ、動揺し過ぎだよ」
チカの眼光はいつもの比にならないくらいに鋭い。
「僕、帰るねっ。また明日」
情けない。僕は逃げた。
家に着いて、どうしようかと考える。
――チョコが一番美味しかった子に返事をしようと決めた。
それが公平だと思い込む。
ウイスキーボンボンは甘いけど大人な味がした。ナッツのチョコは不思議な食感と素朴な味がした。ドリアンチョコは奇抜だけど濃厚なうま味があった。それぞれ美味しいって……困った。そうだ。もう一つを食べてみよう。中身は――ドライフルーツが上に乗っているクッキーか……
僕はこれが一番だけど、それってダメなのかな? いや、倫理的に恋人を選ぶなら百パーセント、ダメなんだけど。大切にしたい人を選べっていうなら、クッキーの人かな。これって、逃げだよね――
突然、苦しくなった。ボーっとする。お母さんは……まだ、帰ってくるわけ無いよな――
☓月○日 ショウ
うわ……僕、死んだよ……?
そうだ確認を……
タブレットに、「僕は死んだ?」と聞く。
・はい。と表示された。
いきなりゲンジツってヤツを味わわせてくれるよな。全く。
「その原因はチョコ?」
――――――
ん? 反応が無い。
「僕の死因は、チョコが関係、していますか?」
あれ? これも肯定、否定で答えられる質問だよね。文節を妙に区切ってみたけど、反応しない。
えーと、今までしてきた質問は――
画像の人間の確認、次にするべきこと、僕が死んでいるかの三つか……次にするべきことは、出来ることを示しただけ、僕が死んでいることは今の映像を先に見ていたなら、推測は出来る……画像について、その人物が誰かを、判別出来たのは……聞き方が確認だし、誤魔化したのかな? じゃあ、さっきの質問も誤魔化せばいいのに……それを誤魔化すのはダメ……? ともかく、このタブレットが万能お助けマシーンでは無いのかな……
「ハッハッハッハー。彼も何か気がついたみたいだぜ。まだそんなことをやってんのかい? 芸がないね、エミコさん。イジワルしていないで出てこいよ」
えっ、テレビがオフからオンに切り替わるように、何も無い空間から、いきなり男が姿を現した。誰だ、この人は。僕、この人のことは知らないよ。
「姿を隠して、遠隔操作はちょっとばかり、意地が悪いと思うよー」
彼は遠くに浮かぶ雲へ語りかけている。
すると、雲の間から、女の子が出てきて、「貴方は……」とだけ言った。
「どうも、お嬢様、お久しぶりで御座います」
彼はそう言うと、恭しく頭を下げた。
「あの! 質問!」
彼らの会話を遮る。
「おお、すまんね。ビックリさせてしまったかな。自己紹介が遅れました。私は神で……」
彼が全てを言い終わる前に、彼女が彼を叩いた。結構、離れていたのにツッコミが早い。
「私はエミコ、彼は……タカハルでいいのよね?」
「そう、俺はタカハル。神で……」
もう一度叩かれた。さっき叩かれたんだから、やめておけばいいのに。
そうだ、聞きたいことがある。
「遠隔操作って何?」
二人は目を合わせ、その後に、タカハルさんが目を逸らした。目を逸らした方向へエミコさんが回りこんだ。タカハルさんは元の方向へ目線を戻した。エミコさんは元の位置に戻ることはしないで、「タカハル、説明よろしく」とだけ言って、そっぽを向いてしまった。よく分からないけど、エミコさんという人、怒ってますよ?
「え、あ、うん、でも、メンドくせぇなぁ」タカハルさんはエミコさんの方を見た。エミコさんの目がどんどん鋭くなっている。「――やります。説明すりゃーいいんでしょ? あの便利コンピューターみたいなのは、エミコさんの念力? まぁ、そういう何かで使えるものです。これはオッケー?」
頷く。
「創った当人は遠隔操作を出来るみたいな? いや、俺の能力じゃないから、詳しくは知らないんだけどさ」
じゃあ、僕はもしかして、おちょくられていたわけ? 彼女に対して怒りを覚え、睨みつけると、目線の先に彼が割り込んできた。
「そんな怒るなって。この子は感情表現が苦手なんだよ。いただろ? そういう子も」
まぁ、確かに。
「僕は不安だったんだ! イジワルしなくたっていいだろう?」
けど、それとこれとは話が別だと思う。
「いや、ホント俺もそう思うよ。けどさ、それはエミコが不安で無いと、仮定した場合の話じゃないか? 君より先にいたからって、全てを知っているわけじゃない、かもしれない。そういうときはさ、男らしく、余裕を持っていこうぜ」
最初から、ずっと、ニコニコしていたけど、今の説明の時だけは、少しだけ怖かった。でも、いきなり現れたのに、この落ち着きは何なんだろう? この人は何を知っているのだろうか。
「僕が死んだ理由は分かるの?」
「君はどう考えている?」
タブレットが止まったところが死んだ原因の部分だと仮定して……僕は物を食べていた。映像が止まる前に、僕が食べたものは……・ウイスキーボンボン――アルコールとチョコ。・ナッツチョコ――ナッツ、不思議な食感の何かにチョコ。・ドリアンチョコ――ドリアンとチョコ。・クッキー――小麦、バターにドライフルーツ……ウイスキーボンボンは既製品、他は手が加わっている……そうだ――
「ドリアンにアルコールって危ないって、聞いたことがあるよ」
タカハルさんは笑顔になった。
「おお、よく知っているな。それかもしれないな。他には?」
「ナッツってアレルギーの原因になるよね?」
「何? 君は家庭科とか好きなのか? いい大人になれるぜ」
タカハルさんは、グッっと親指を立てて、こちらへ突き出した。
お母さんを手伝っているから、多少はね……
「じゃあ、俺からも一つ。ナッツのチョコに不思議な食感があった。ってあったけどさ、それが、ある特定のキノコだったら、ウイスキーのアルコールと反応して、中毒症状を起こすことも、あり得るんだぜ。もっとも、死ぬかっていうと疑問だし、あえて、そんなキノコを入れないだろうけどな」
へぇー。これから気をつけよう……あ、そうか……
「そんなこと気にしたって、しょうがないじゃんか。僕は死んでしまったんでしょ?」
絶望的な気分になる。
「一度、死んだからって、戻れないなんて、誰が証明した?」
え? どういうこと? 生き返れるってこと?
「僕、何かすればいいの?」
「別に? 俺が生き返らせてやる。んで、十四日に貰ったものは食うな。何が原因か分からないからな。終わり」
タカハルさんは右の口角だけを上げて、言った。イタズラの好きな子供のような笑顔だ。
「それだけ?」
嘘や冗談では済まされない。
「それだけ」
今度は両側の口角を上げて、言った。たちの悪い詐欺師みたいだから、やめてほしい。
「ちょっと待ってよ。生き返らせるって、本当に出来るの?」
「あぁ。君もしつこいな。まぁ、しつこくなるのも分かるよ。正確には記憶を持たせて、君の時間だけ、巻き戻すって感じかな? 強くて、再ゲームしてきてくれ」
もう一度、確認しようかとも思ったけど、出来なくても、何も変わらないだけのはず。僕は黙って頷いて、了解したことをタカハルさんに伝えた。
「そいじゃあ、いくぜー。貰ったものは食うなよー。あと、君さ、告白の返事は味覚でなく、心で決めるものだろ。だから、手紙はしっかりと読むこと。君、渾身のラブレター達をテキトーに読み過ぎだよ。それと、お母さんにゴムが苦手なことを相談するべきだな。この三つのこと、絶ッ対に忘れんなよ」
全く、羨ましいヤツ……というつぶやきが聞こえたあとに、僕は飛ばされた。




