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占い師になりたい  作者: つっちーfrom千葉
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第二十九話 厳罰棟所長の訪問Ⅺ

「何か、ありますか? 質問があるならどうぞ」


 講演者のマリャベリさんは冷静さを保ったまま、アリアに発言を促した。アリアは待ってましたとばかりに、ガバッと椅子から立ち上がった。その髪の毛はすっかり逆立っていて、視線は定まっておらず、離れたこの位置から見ていても、彼女が正気でないことはすぐにわかった。先ほどの失態による動揺をいまだに引きずっているようだった。彼女のような自分のミスを許せないような人間が、先ほど感じた激しい羞恥心から簡単に立ち直れるとは思えないからだ。とにかく、彼女はしどろもどろとしながらも、自分の中の何者かの勢いに任せるように話し始めた。


「あの……、話が飛躍するところがあって、わかりにくいところが多いんですけど……、私は理解力がないんで、あまり感情的にならずに、もう少しゆっくり話して頂けると助かります……。それで、宇宙を信じない……、存在すらもってことですよね? それは私も賛成なんです。小さい頃から不思議に思ってました。寝る前に点けられた微かな電灯の下で、いつも同じことを考えていました。宇宙ってどこまで何だろう? って。だって、宇宙ってあんなに大きいって言われてますよね……。銀河系だって、宇宙の端から見れば、まるで……、目に見えないような、ちっぽけなものだって……。それなのに、星が生まれるところも、星同士がぶつかって消滅するところも、私たちの目では見えなくて……、ねえ? みんなも学校の帰りに火星と金星がぶつかっているのを見たなんて言わないでしょ? それって、やっぱりおかしいですよね。星たちがみんな自由に動き回っているって言うのであれば、どれかとどれかがいつかは激突するってことですもんね。いえ、それが怖いっていうことじゃありません。あんまり、先回りしないで……、みんなが興味の視線でこっちを見てるから……。そうじゃなくて、私の考えから言えば、近くで惑星同士がぶつかったり、地球に大きな隕石がぶつかったりってことが……、はあ……、実際に起こらないっていうのが不思議なんです。いつも発表される天文関係の情報っていうのは、何百光年離れた向こうの世界で起きていて……、じゃあ、私たちがそれを知ったからどうなの? って聞きたくなるし、さっきの話に戻ると、隕石が地球に降って来ないっていうのが不思議なんです。というか、私の考えではダメなんです。大気圏で消滅とか、運よく逸れたとか、大人の言うことは地球に都合の良いことばかりで……、この地球を守ることにそこまでの意味が……。人類?(何かを思い出したように) それは余計に存在が小さくて……。銀河の話しているときに……、人が安全とか不安とか、ちっぽけすぎて……。家庭では日々、小さな事件ばかり聞かされていて……、叔父が病気になったとか、叔母が退職したとか……。私はどんな細かいことを言われても、いちいちそれに反応しなければいけないんです。『はい』だとか『うん、聞いてるよ』とかですね……。だから、私も日常の雑事に追われていて、簡単には宇宙に意志を向けたり出来ないんです。じゃあ、数百光年離れた銀河が消滅したって話は悲しくないのって聞きたくなるんです。学者たちは地球中心に物事を考えすぎだと思います。だから、私は宇宙って嘘なのかな?って思いました。そこまではマリャベリさんと考えは一緒です。でも、私は神様はいると思います。だって、雷のことがありますもの。雷は本物でしょ? 私はまだ5歳くらいの時でしたけど……、電車に乗っている時に、真上から雷が落ちてきたことが……、ズシンと大きな地響きです。とにかく電車全体が大きく揺れて……、そのうち真っ暗になって、電車は動かなくなりました。電線から電気を供給してもらっている機器に直接雷が落ちたらしくて……。私も怖かったんですけど、周りには泣いている女性もいました。それから、私は神様の存在を信じるようになりました。とにかく、あれだけ大きな力を起こせるものは、人間より上の存在でなくてはなりませんもの……」


 アリアの発言は本人が場の空気にのまれて混乱しているせいもあって、相当に錯綜していた。先ほどまで話していた講演者以上に何を言いたいのかわからず、聞いていてイライラするほどだった。京介もさすがに苛立ったらしく、前の人が座っている椅子をガンガンと二回蹴っ飛ばした。前のほうの席のどこからか、アリアを嘲笑するような笑い声も聞こえてきた。


「もういいから、アリアは座れよ!」


「神と雷の因果関係って、それは原始人の考えだろ!」


 会場のあちこちから罵声が飛んできた。みんな、アリアを席につかせようとしていた。アリアは不安そうな顔になって、みんなの顔を見回したが、どれも自分に味方をしてくれそうではなかった。しかし、このクラスに味方がいないということは、彼女とて前もってわかっていたことなので、気を持ち直して発言を続けた。先ほどまでの自信なさげな態度は捨て去っており、今度は会場中を威圧するかのような、大きな声で話し始めた。


「みんなに聞いて欲しいことがあるの!」


 アリアは訴えかけるようにそう言った。しかし、会場の生徒のほとんどは、先ほどの講演者のヤドカリ論についての発言に異議があり、何らかの質問をしたいと考えており、混乱したアリアの発言を聞きたいとは誰も思っていなかった。


「いいから、関係ない話は後回しにしろよ」


 ついに、京介までがそんな大声を張り上げた。ただでさえ長い講演がこれ以上つっかえるのを見ていられなくなったらしい。会場のあちこちからも、アリアを制止しようとする発言が多く聞かれた。


「早く、あいつを座らせろ!」


 そんな乱暴な声も聞かれた。数人の女生徒が、「とりあえず、彼女に最後まで話させてあげれば?」と囁くように主張したが、大勢の反論にあって、その声はすぐに掻き消されてしまった。


「ちょっと! お願い、みんな聞いて! 大事なことなの!」


 アリアは再びそう言った。しかしながら、張り裂けんばかりのその言葉はさらに大きな混乱を引き起こしただけだった。みんなは、特に男子生徒は、アリアの引き下がらない態度にすっかり逆上してしまい、「黙れ! 座れ!」という怒号があちこちから響いてきた。僕は一度後ろを振り返って、生徒会役員の動向を伺ってみたが、エンフォード二世は講演が再びストップしてしまったことで、相当にあたふたとしていた。このままでは時間通りに終わらないどころか、徹夜で講演を続けることになりかねなかった。額から脂汗が滲んでいて、それを黄色いハンカチでしきりに拭っていた。クレモネさんは冷静にこの様子を見ていたが、彼女自身も今の状況が好ましいとはちっとも思っていないようで、不安げな様子が見て取れた。どの辺りで介入すればよいのか、そのタイミングを計っているように見えた。


「みんな、ちょっと落ち着いて! これから大事なこと話すから!」


 ついにアリアの涙混じりの叫び声が発せられるに至り、そのぐらいでひるむような男子生徒はいないのだが、一応は何を言うのか聞いてみようかという空気になり、一瞬の静寂が訪れた。


「私、昨日、生まれて初めてナンパされたの!」


 アリアはマイクを使わなくても会場中に響き渡るような大声でそう言った。もちろん、彼女の混乱が極まって出てきた一言であり、これだけでは何の意味も持たないのだが、みんなの唖然とした表情を見れば、その効果は絶大だった。彼女が男子に声をかけられるような生徒でないことは全員が知っており、それだけで彼女の発言が嘘であることは誰もがわかったのだが、このタイミングで何でそのことを訴えなければならなかったのかが誰にもわからず、みんなの思考は停止したのだと思われる。少なくとも、しばらくの間、発言しようとする生徒はいなかった。モーセが大波を二つに割った時のように、みんなはただ驚愕するばかりで、大きく口を開けたままでアリアの方を見た。ラルセが心配そうな表情をして立ち上がり、アリアの方へと向かった。


「アリア……、よかったわね……。でも、今はそういう話をするときではないから、一度席に着いたら?」


優しい言葉をかけられたことで、アリアは混乱状態から覚めたようで、いつものような冷静な顔に戻っていた。

「ごめんなさい……。今のは嘘です……」


 アリアは涙ぐみながらそう言って席に腰を降ろした。その涙が会場の騒がしい雰囲気をひと飲みにしてしまっていて、もはや、彼女を罵倒する者はいなかった。会場がしんと静まったところで講演者が話を引き取った。

この作品は長大なので少しずつ区切って投稿していきます。気軽に感想をいただければ幸せです。この作品はアラブ系千葉文庫(http://www9.plala.or.jp/applepig/)にも掲載しています。全部で十数個の短編作品を掲載しています。できれば、そちらの方にも遊びに来てください。

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