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占い師になりたい  作者: つっちーfrom千葉
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第二十五話 厳罰棟所長の訪問Ⅶ

 講演者が半ば興奮気味にそこまで話した時、予想通り、この場の空気は相当に凍りついていたわけだが、それでも、この会が始まる当初の雑然とした雰囲気から考えれば、みんなの話を聞く姿勢は相当に紳士的だと言えたし、目立った非難の声や妨害するような掛け声も聞かれなかった。僕の前に座っている女生徒が何度かクスクスと笑っていたが、これは、講演者の話の内容にではなくて、その顔面の化粧の濃さに起因したものだった。


「ね? まともじゃない話を延々と聞く羽目になったでしょ?」

ラルセが正面を向いたまま、半ば囁くようにそう尋ねてきた。

「うん、厳罰棟の所長さんだから、やっぱり保守層の中でもそういう人が選ばれるのかなあ。どうも、一般人の思考とは違うみたいだね」

「あんたねえ、生徒会がゲストに迎えるような人を信じちゃだめよ。あなたはよく私やブエナの性格について、女性らしくないって不平を漏らすけど、世の中は端まで見渡せば、ああいう人もいるのよ。女性がみんな心のきれいな人ばかりだと思っちゃダメなの。男と話すときにヘラヘラとへりくだって話す女性に限って、内心はもう臭いも嗅ぎたくないくらいに腐っているのよ。それが現実なの。この国も上へ進めば進むほどにあんな女ばっかりよ」


「そういえば、ラルセも……」


 僕がそこまで言いかけた時、窓の外がピカッと光った。続けざまに雷光が二度三度と室内を明るく照らし出した。これから激しい雷雨になる前触れだった。ラルセの顔が再び窓の外に向けられた。ただ、不安そうな顔には見えなかった。彼女は当然起こるべき成り行きを見守っていくつもりらしかった。突然の雷鳴に、生徒の中の何人かが驚きの声をあげた。


 すべてが終わってしまった後から考えれば、この日は学内の生徒にとって特別な日ではないかと思われるほど、宿命的な出来事が多く起こっている、それは、講演会の日程が今日に設定されたこと、ムングが現れたこと、シュレッダーが壊れて会長がこの場に来れなくなったこと、天候が荒れ模様になったことなどだが、これから起こる大きな騒乱は、このいくつかの運命的な出来事に支えられていると言えなくもなかった。これらの条件が揃っていなければ、案外、講演会は円滑に進んだのではないだろうか。


 とにかく、この瞬間にまず起こったことは、一人の女生徒、会場の左側、僕らの逆側の窓際に座っていた、ひょろっとして背の高い女生徒が突然立ち上がったことだった。

「ダメよ! この講演会を続けちゃダメ! 早く家に帰らないと!」


 彼女は甲高い声でそう叫んだ。その目はカッと見開かれていて、まるで何かにとりつかれたようだった。みんなの興味の視線が彼女の方へ向けられた。彼女の名前はアリアといった。口数の少ない、大人しい生徒で、クラスでも目立つ存在ではない。賑やかなうちのクラスに馴染めていないといった方が適切かもしれない。長い付き合いの中でも、彼女の生態をほとんど知らない生徒も多いと思われる。なぜ、彼女がこの時に立ち上がったのかということを書き留める前に、彼女がどんな生徒なのかを説明しなければならないと思う。


 アリアは天候占いを専攻している生徒だが、彼女が得意としているのは、その中でも、『雷鳴占い』と呼ばれるものである。これは、すべての占いの中でもかなり知名度の低い占いで、数千人の占い師が通っているうちの学校でも専攻している学生はわずか数人である。ほとんどの生徒は名前ぐらいは聞いたことがある程度か、そもそも全くこの占いを知らない学生も多いと思われる。入学してから、どの占いを専攻するかは、それぞれの半生や性格が反映されると言われるが、この雷鳴占いを選ぶ生徒は、人間社会にうまく溶け込めない、偏屈で変わった学生が多い。なぜなら、そもそも、この占いは雷が鳴っている時にしか行うことができず、しかも、占える内容が他人の残酷な運命(突発的な事故での大怪我など)に関わることが多く、前もって占いの準備することが困難であるし、その結果も甚だ不明瞭であるからである。一般人にこのような難解な占いは受け入れられないのである。申請書を持っていくときに、受付係の先生に、『本当にこの占いでいいの? 人生にはもっと歩みやすい道もあるんだよ』と言われてしまいかねない。明日の天気を占う『天候占い』や、ラルセが得意としている『占星』の方が前向きであるし、極めて一般的である。さらに言えば、この国は雷天候になることが少ない。春先のわずかな期間と、夏場に十日に一度くらいの割合で、短時間の間に起こるくらいである。それも、夏場の雷雨はわずか数分でおさまることも多い。それが、どういうわけか、冬も近い、この時期にえらく激しく雷が鳴っているわけだが、こんなことは年に一回あるかないかの珍事である。この期待度の低さがこの占いをマニアックにしている最も大きな原因だと思われる。なにしろ、どんなに望んだところで、雷が鳴らない日は占いが出来ないのだから、それも当然であろう。アリアは雷研究の第一人者でもあり、天候が崩れない日は図書館に篭って天気の勉強をしているらしい。もちろん、雷が発生する日にはどういう傾向があるかを調べているのであって、気持ちの良い青空には興味はないのである。アリアは水晶や易の授業にも出席はするが成績はきわめて悪く、それ以前に一般的な占いにはほとんど興味がないらしい。例え、水晶の不出来によって進級が難しくなったとしても、彼女は雷のこと以外には興味は持たないであろう。彼女の嗜好のほとんどすべては自然災害に向けられている。例えば、他の国で大きな地震が起こったりすると、そこから何かの因果を見つけようとしたり、大きな台風が発生すると、それと人間の経済活動の動向を結びつけて考えたりもする。自然災害をこれからの国の行く末や、起こりうる大事件の伏線として見たりもするらしい。無論、彼女の目に興味として映るのは、災害によって困り果て、逃げ惑う人々の姿であり、それをこれまで人類が行ってきた行為(想像になるが、絶え間無い戦争による悲劇や、独善的な生産活動による自然破壊か?)への、天からの戒めとして受けとっているのである。つまり、災害は彼女にとって心を躍らせる楽しみであって、その心に慈愛はない。災害によって死の淵に立たされた被害者に目が向けられることは一切ない。あるのは、運命という魔物が突然引き起こす災害に対する本能的な興味だけであり、彼女はそれをすべて天からの啓示であるとか、運命によって引き起こされた神秘的なものとして、必要以上に高く評価している。災害が起こった翌日からの新聞は、主な新聞社のものをすべて購入してストックしておいて、後で友人に見せびらかしたりするらしい。


 そんな彼女には数人の仲間がいる。いずれも、他のクラスの生徒である。その全員が各クラスでアリアと似たような立ち位置にいる生徒で、雷がキーポイントになって出会ったらしい。この雷鳴占いを専攻している数人の学生の生態について少し語りたいと思う。この学校に入学する動機は様々だろうが、この世界に入ったからには、水晶であるとか、トランプによる占いなどを一度は体験するか、あるいはテレビや街頭公演などで目にしたことがあるはずである。彼女達とて、そういうポピュラーな占いを一度は目にして心を動かされ、自分もいつかこの世界に入ろうと決めたはずである。ところが、彼女たちが最終的に選んだのは、この世界で最もマイナーな雷鳴占い。いったいどういう体験から、この占いに魅力を感じたのだろうか。それとも、前世で起きた事件と何か因果があるのか、あるいは、たまたま町の片隅で購入した怪しげな魔術関係の本に影響を受けたのか、それは定かではないが、彼女たちが雷鳴に心を惹かれることになったきっかけには興味のあるところである。


 僕は、例えば陸上競技などでも、100メートル走やマラソン、走り高跳びなど、わかりやすい競技には魅力を感じるのだが、砲丸投げや、三段跳びなど競技人数の少ないマイナーな競技には存在意義を見出だせない人間である。ファンの多くが誰も目を向けない競技に取り組む選手の姿勢を、『たで食う虫も好き好き』という言葉や、人間の多様性という言葉で片付けてしまえばそれまでなのだが、幼い頃から、全員が同じ競技に取り組んだ方が、陸上選手としての力関係を量る上では、遥かに効率的なのではないかと考えてしまう。喫茶店などで、僕のこういう話を聞かされると、ラルセは即座に顔を曇らせて、「相変わらず、物事を雑にしか考えられない人ね。視野が狭いわ」と、あきらめ顔で呟いたりもするが、僕は包括的に物事を考えられない体質なので、自分のこういった極端な見解をかなり気に入っていたりもする。雷鳴占いも上に挙げたマイナーな陸上競技と同じく、この世界において、マニアックであるばかりでなく、『無ければ無いで困らないのではないか?』と思わせるような種類の占いである。言ってしまえば、雷鳴占いの学科がある日突然消え失せても、僕らは平然と生活を続けることができるのである。


 それでも、彼女たち、アリアの周りの数人の女生徒は雷に惹かれ続けている。まだ、何も起きてないうちから、それは雲一つない無風の晴れた日でも、あるいは、新聞の記事がスカスカになるくらい事件日照りの平和な日でもそうなのだが、彼女達は、世間で数日間に起こった小さな自然現象、例えば、近所の交差点で猫が十数匹まとまって走り去っていったとか、月がいつもと違う色に見えるとか、地面の温度がわずかに上昇しているとか、そんなことに興味を持って図書館に篭り、それを話題にして数人で話し合っているらしいのだ。彼女らは世間一般の人がすぐ話題にするような、芸能人のスキャンダルの話とか、人気スポーツの結果のこととか、流行の服装のことなど決して話題にしない。もちろん、政治経済や有名占い師の起こした事件のことなども眼中にないのである。これだけ多くの学生がワイワイと騒ぎながら生活している校内でも、彼女達はその輪に加わることは決してないが、それは自分たちの姿を、闇夜のカラスのように、図書館の薄暗い片隅の一部屋の中で静けさに同化させて、なるべく目立たないでいたいと願っているように見える。ただ、残念なことに、世間はこのような変わった組合のような集まりを決して見逃してはくれず(それはそのはずで、いつも同じメンバーで同じ部屋に篭っているからである)、時折、この集団の様子を興味本位で見に来る学生もいる。学生は誰にも秘密を持ってはいけないと考えているような真面目な学生ほど、このような災害目当ての不謹慎な活動を嗅ぎ付けるし、そんなコソコソとした集まりを許してはおけないものなのである。彼女達も周囲の状況の変化にはいつも気を配っているから、そんなスパイの存在に気がつくと、慌てて話題を変えたり、読んでいた本を伏せてしまったりする。誰も踏み込めない、自分たちだけの世界を構築し、そこに他人が首を突っ込んでくることを著しく嫌うのである。こういう人間たちの関係を甘くみることはできない。例えば、ラルセやロドリゲスのように、思想や趣味を気にせずに誰とでも付き合える人間の方が友人の数が必然的に多くなるという理屈はわかるのだが、一人ひとりの人間と話したり交流できる時間は限られているため、しっかりとした友人関係の構築までは至らないことも多い。ラルセもある友人と出かける約束を、別の知人の誘いによってすっかり忘れてしまい、友人との関係にヒビが入り、そのことを長期間悔いていたことがあった。八方美人という言葉は言い過ぎかもしれないが、一見理想とも思える、友人の多過ぎる生徒の人間関係にも隙があるということである。それに比べると、このアリアと数人の生徒の雷鳴占いを基軸にした付き合いは、ダイアモンドよりも強固であり、簡単には打ち崩すことはできない。それは、自分の最も興味のある問題と、最も恥ずかしく、他人に容易には知られたくない問題を、この数人で共有しているからである。彼女達はある意味で親族よりも固い絆で結ばれているかもしれない。アリアは親兄弟にさえも、学校生活の内容や自分の趣味や嗜好を語っているとは思えないからである。


この作品は長大なので少しずつ区切って投稿していきます。気軽に感想をいただければ幸せです。この作品はアラブ系千葉文庫(http://www9.plala.or.jp/applepig/)にも掲載しています。全部で十数個の短編作品を掲載しています。できれば、そちらの方にも遊びに来てください。

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