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占い師になりたい  作者: つっちーfrom千葉
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第十七話 生徒会総選挙数日前Ⅵ

「どこへ行ってたの? みんな、心配してるよ。あなたまで生徒会に拉致されたのかと思って……」

ラルセは後ろから追ってきたブエナの存在にも気づいていたが構わずそう言った。

「だ、大丈夫だよ。何も悪いことはしてない。生徒会長に一言言ってやろうと思ったんだけど、彼は広報活動中でいなかったんだ。だから、おとなしく帰ってきたよ」

 本当は会長秘書を罵倒したり、上申書を書こうとしてタッサンに説教を喰らったりと色々あったのだが、これ以上彼女を心配させぬよう、僕はそれらの件については話さなかった。

「それならいいけど、ロドリゲス君があなたを心配して、本部まで様子を見に行ったみたいよ」

僕らの話が途切れたのを見て取ると、ブエナは走り寄ってきて、ラルセの手を取った。

「ラルセ! おめでとう! 晴れて占い師に合格したんですって? 親友が合格して本当に嬉しいわ! 私ったら、取り乱しちゃって……、本当に我が事のように喜んでるのよ」

落ちた僕が眼前にいるので、ラルセがおおっぴらに喜べないことをいいことに、ブエナは彼女の成功を必要以上に騒ぎ立てた。この女は勘が鋭いから、彼女の合格によって、僕ら二人の関係が揺らいでいることを知っているのだ。

「ブエナ……、ありがとう……、生徒会の人達にはいつも応援してもらって……」


「そんなこといいのよ…、生徒会でも、みんなあなたが合格するだろうって、数週間前から噂しあってたのよ。秘書のクレモネさんが、実は普段の成績はあなたより上位なんだけど、今回は落ちちゃって……(ここは声を小さく)、でも、あなたが我が校の代表として占い師になれるんならって……、みんな喜んでたわ。会長も協会から正式な通知が届く日には本部に合格者をお招きして軽いパーティーをしようって言い出して、今大騒ぎになってるところなのよ」

 僕はついさっき本部にいたが、生徒会の関係者は全員落ちたようで、全体的にかなり落ち込んだ雰囲気であり、リベラリストのラルセの合格を喜んべるような余裕があるはずはなく、ここまで嘘八百を並べられるとは、この女の外交戦術には驚くばかりである。

「ありがとう、ブエナ……。クレモナさん、落ちちゃったの……? 信じられない……。彼女ほどできる人はいないって普段から思ってるし、手紙を送りあったりして、お互いに尊敬する間柄だから、合格するときは一緒にって思ってたのに……。でも、彼女の実力なら、次の機会に絶対通ると思うから、私は何の心配もしてないわ……。彼女に会ったらよろしく伝えてね」

「あの受け付け女とそんなに仲良かったの?」

ブエナに聴こえないように、僕はラルセの耳元でそう囁いた。ラルセは僕の方に鋭い一瞥をくれた。


「仲いいわけないでしょ。あの人、私とすれ違う時にいつも足を踏み付けていくような仲よ。あの性格で受かると思ってるんだから、お気楽もいいとこよね。まったく、神様は全能だわ」

僕らの密談を聞き取ろうと、ブエナがさらに顔を近づけてきた。


「ラルセは知らないかもしれないけど、さっき、ここにいるパヌッチさんが生徒会本部に乗り込んできて…、みんなに大声で罵声を……、ううっ、クレモネさんなんて……『ここでわざとらしく涙を拭って』、立ち直れないほど精神的にダメージを受けてしまったらしいのよ……。ラルセや京介君がこれからパヌッチさんと一緒に本部に来てくれると嬉しいんだけど……。だって、彼一人だけじゃ、また気持ちが熱くなってしまうから、きちんと謝罪できないだろうし、また乱闘になりかねないですものね。次の選挙の投票のことで……『少しためらいがちに』、みんなに一筆書いてもらえたら、私もあなたたちをより強く弁護できると思うわ」

「そんなことがあったのね……。わかった……。行くわ。きちんと事情を説明しないとね……」

「ありがとう! じゃあ、私は一足先に本部に戻って、これからあなたが来ることをみんなに知らせておくね」

 ブエナはそう言ってから、サッと振り返り、後ろ髪をなびかせて走り去っていった。これで僕ら3名と生徒会幹部との直接対決が事実上決まってしまった。僕は胸の高鳴りを抑えきれなかった。


「なんで、一人で勝手に本部に行ったのよ? 気が立っていたのはわかるけど、それでどうにかできると思っていたなんて……、信じられないわ」

ラルセはブエナが消え去ると、僕の耳を強く引っ張って怒りだした。こういった彼女の計らいによって、気まずさが霧散して、かえって僕は打ち解けることができた。

「それで、あなたは誰と会ったの? 経緯を説明してよ。クレモネと長時間議論して後は誰と話したの? 会長はいなかったんでしょ?」


 僕は会長を呼び付けたかったのだが、受け付けにいたクレモネの牙城を崩すことができず、最終的には上申書を書こうとしてタッサンに止められ、彼に喫茶店で叱責を受けたことを正直に話した。

「今思うと、自分でも大胆なことをしてしまったと思っているよ。生徒会の本部に乗り込むなんて、権力にびくびくして、まだ大人しかった去年の僕には、とてもできなかったろうからね。それと、クレモネって女が、まさか会長秘書だとは思わなかったんだ。上品そうであまりに線が細かったから、たいした身分じゃないだろうって思い違いして、きっと、ちょっと顔が綺麗だからってことだけで受け付けを任されたんだろうなんて思い込みをしてしまって、それなら少し威圧的に迫ってへこませてやろうと、あんた呼ばわりなんかしちゃって、その上で散々怒鳴りつけてしまって……、まあ、向こうからもかなり言い返されたけど、ちょっと、やり過ぎちゃったかなあ……。どうしよう?」


「お願いだから、本部へ行くなら、もう少し敵を知ってから乗り込んでよね……。クレモネは生徒会の中で一番怖い存在だわ。顔の表面に薄皮の猫を被ってるけど、その下に、さらにぶ厚いぬいぐるみを被っているような、決して他人に自分の心を読ませないタイプの女でね……。まあ、あなた程度の人が言った悪口を、そんなに本気で受け止めたりはしていないだろうけど、途中でタッサンに救われて本当に良かったわね……。あなたが目を血走らせながら言ったことは、そのまま全部会長の耳に入ることになるのよ。彼女からは何も言われなくても、後でどんな嫌がらせを受けるかわかったもんじゃないわ。上申書なんて提出してたら、それこそ、私たち四人はしばらく自宅謹慎になるとこだったんだから……」

「あのクレモネって女は、もしかすると会長の彼女なの?」

僕は心に思いついたことを恐る恐る聞いてみた。

「当然でしょ……、って言いたいところだけど、実際はどうなのかしらね。なるべく話したくない相手だから、そんなこと尋ねたこともないけど…。授業で私が隣の席に座ると、まるで女神様のようにニコッとして『こんにちは~』って話しかけてくるけど、あの女のすました笑顔は本当に怖いわね。『ほら、こちらから声をかけてあげたんだから、早く丁寧な態度で言い返しなさいな』ってな感じに聞こえるのよね。寒気がするわ。あの女に比べたら、会長やブエナなんて全然怖くないんだけど……」

ラルセは僕の靴を自分の靴のつま先でコンコンと蹴りながら説明してくれた。

「これからどうする? ラルセが行きたくないなら、僕一人でもう一度本部へ行って、事情を説明してくるけど……」

「私も行くわよ。あなた一人で行かせたら、今度こそどうなるかわからないでしょ。京介は審査の結果で相当落ち込んでいるから、連れて行かない方がいいでしょうね。これ以上、話を錯綜させるのもどうかと思うし……」

 二人で靴を並べて歩きながら、そんなことを話し、もう一度僕は生徒会本部に向かうことになった。本部の入り口には先ほどと違って、竹刀を持った生徒二人が立っていて、緊張感がみなぎっていた。僕がここを訪れた件が大きな問題になっているのか、いつもよりさらに警備を強化しているようだった。

「ほら、二人が見えたわよ!」

 忍び足で一階のロビーに一歩踏み込むと、ブエナが誰かに大声でそう呼びかけながら、鋭い視線を向け、殺気を漂わせながら僕らを出迎えた。彼女の声を聞き付けて、二階から静かに数人の生徒が降りてきた。そこには静かに微笑むクレモネの姿もあった。彼女がそれほどの重要人物だとわかってから見ると、その清楚なブレザー姿には威厳があるように感じられた。彼女は軽く笑いながら、ラルセの方に真っ直ぐに向かってきた。

「ラルセさん……、いらっしゃい……、久しぶりに会えて嬉しいわ。ますますご健勝のようで……」

そう言って彼女は利き手をラルセの方へ伸ばした。

「こんにちは、お元気そうね。さっき、パヌッチがそそうをしたそうで……、何と言うか……、申し訳なくて二人で謝りに来たの……。本当にごめんなさいね……」

 二人はそこでしっかりと握手した。そこには、これまで長きにわたって紛争を続けてきた国の首脳同士が初めて会談するときのような緊張感があった。


「ああ、そんなことで来てくれたの? パヌッチさんとは……、人間関係についてお互いの意見を軽く述べあっただけで、思想の違いがあって、多少熱くなる場面もあったかもしれないけど、お互いに何も不機嫌になるようなことはなかったのよ。もしかしたら、ブエナさんが大袈裟に伝えたから来てくれたのかもしれないけど……。私って、こんなつまらない女でしょう? 相手の話を黙って聞くことしかできないし……、それで、上手く助言することができなくて、パヌッチさんの機嫌を損ねてしまったのなら、こちらこそ謝らなくてはならないわね」

「パヌッチさんも、今期の選挙で会長に投票することを約束するためにわざわざ来てくれたんです」

横からブエナが出てきて、わざわざ余計な口を挟んできた。僕は一度愛想笑いを浮かべて、肯定も否定もしなかった。投票については、まだ、心を決めかねていたからだ。僕は彼女に歩み寄って深々と頭を下げてから話し始めた。

「クレモネさん、どうも……、些細なことですぐに気分を高ぶらせてしまうのは僕の悪い病気でして……、先ほどはちょっと熱くなって言い過ぎました。占い師の審査に落ちたのは、よく考えてみれば僕自身の責任なのに、思い込みを含んだ思想的な観点だけで話を進めてしまったのは間違いでした。どうも、すいませんでした」

「あら、いいんですよ。こちらもパヌッチさんの初めての来訪をみんなで喜んでいたんですよ。『処分や叱責を受けるために』いつ来られても、おかしくない立場のお方ですのに、入学してからの二年まるで来てくださらなかったので、こちらも不思議に思っていたんですよ。雰囲気が悪くなりますし、その件はもういいですから、選挙の投票のことで、みんなで少し向こうで話しませんか? 難しい話になりますし、立ち話は行儀が良くないですね。ちょうど午後から会議室が空いているんですよ。ロドリゲスさんも先ほど見えられて、今、会長と一緒に会議室で皆さんを待っておられますよ」

「ロドリゲスが来てるんですか?」

僕は驚いて聞き返した。

「ええ、先ほど大変顔を蒼くなされて来られまして、パヌッチさんの一件で話したいことがあるということでしたので、今、会長がお話を伺っているところです」

 ブエナとクレモナに案内されて、僕らはA会議室と書かれた部屋に入った。奥に黒板があり、壁にポスターが一枚貼ってあるだけの殺風景な中規模の部屋で、大きな長い机の周りに椅子が八つほど並べられていた。一番奥の席に生徒会長とロドリゲスが真剣な表情をして、向き合うように座っていたが、僕らが入っていくと、彼らは話すのを止めて、ロドリゲスは緊張した面持ちのままで僕の方に手を振ってくれた。

「どこで捕まえたんだ?」

 会長の鋭い質問が飛んだ。彼は本部に踏み込まれた一件を聞かされた直後の不機嫌を隠そうとはせず、僕を睨みつけた。

「それが、正門の外にいました。ご存知かもしれませんが、あそこには最近ホットドッグ屋が店を構えていまして……、なんというか、まあ、えーと……、私は直接主人と話したことはないですが、かなり偏った思想の持ち主らしいんです。パヌッチさんはその人と何か楽しげに雑談をされていまして、おまけにホットドッグを一つ購入されていました」

 ブエナが僕の行動をそのように説明すると、会長は今度こそかんかんに怒って、拳で机をたたきつけた。ドスンという大きな振動が離れた場所に立っていた僕のところまで届いてきた。その場にいた全員が身震いをした。

「なんだ、君は! 次から次へと罪を重ねて! 君のために何度審議会を開かせるつもりだ! 生徒会は忙しい組織なんだ。とても対処しきれないよ! 君の悪事だけで、生徒会委員全員を過労死させるつもりなのか?」

僕は一度ごっくんと唾を飲み込んで、気分を落ち着けてから返事をした。

「僕はホットドッグ屋の店主の実情に同情して、パンを一つ買っただけです……。彼の人生には多分に同情の余地があります。難しい言い方になりますが、生徒会が出ばっていくような相手ではないと思うのです。ええ、まるで小物です。自分の半生をかけて高速のビー玉を作っているとか言ってましたけどね。考えてみると、それも自分で作り出したただの妄想かもしれません。自分の境遇に耐え切れなくなって、そのような想像上の半生を捏造したのかもしれませんが、とにかく、とても哀れな親父で見てられませんでした。どうか、あれ以上の差別は勘弁してやってください……」

僕は会長の威圧感に多少びびりながら、下を向いたまま震える声でそう返事をした。

「それは生徒会への当てこすりだろうが! よくも、抜けぬけとそんなことを言ったもんだ。おまえなら、あの店がどんな店かわかっているだろうに! 何度同じ失敗を繰り返すつもりだ。特異な思想を武器にして公に反抗しても余計やりきれない気持ちに陥るだけだと、これまでの事件で、いい加減反省したものだと思っていたがな!」

僕はその剣幕に恐ろしくなって口がきけなくなってしまった。


「それで、そのホットドッグは全部食べたの?」

ラルセが会長の話を遮るように僕に尋ねてきた。

「うん、残らず食べたよ。前に来たときと味は変わってなかった。屋台の場所は変わっていたけどね」

ラルセは隣にいるクレモナの方を向いて微笑みながら尋ねた。

「昼休みに何を食べるかは、一応それぞれの生徒の自由よね? 食欲も無いのに、わざわざその店に行ってホットドッグを買ったのなら、何かを疑われても仕方ないけど……」

彼女の言い方には争いを止めて欲しいと哀願するような響きがあった。クレモネはその意見に一度頷いて、場を制するように話し始めた。

「一応、皆さんには座っていただきましょうか。お茶もお出ししますし、いくつかお話を伺いたいことがありますので」

 全員が席につくことに同意した。文字通り呉越同舟なので、思想ごとに左右に別れて座った。会長の横にクレモネが座り、書記を挟んで、ブエナが座った。ラルセはクレモネの真向かいに座り、ライバル同士で意見を真っ向から受け止める姿勢だった。全員が座ると、ロドリゲスが一度右手を挙げてから発言を始めた。

「えーと、それで、ホットドッグ屋の件ですけど、さっきの話を聞いていると、購入することを生徒会の誰かに見られていたということかな?」

「ブエナさんが正門のところで待ってたんだ。多分、また僕を見張ってたんだと思う」

ロドリゲスはそれを聞くと、正面に座っている会長の方を向き直った。

「会長、この間、りんごの木商店の店長がガンボレ祭のさなかに何者かに拉致されるという事件がありまして……」

「そんな事件は知らんな」

会長は最後まで聞かずに、つっけんどんにそう答えた。

「その時、僕らはサウズヘルズ地区で調査にあたったのですが、その日一日ずっとこのブエナさんという方が僕らのやることなすことを見張っていまして……」

「私はラルセの友達よ! 一緒にいて何が悪いのよ?」

ブエナがそう叫んで立ち上がった。ロドリゲスは意に介さず話し続けた。邪魔が入ることを予期していたかのように冷静沈着だった。


「それはいいんですが、ラルセさんはいまや生徒会とはまったく無縁のリベラリストですし『本人が例え否定されても、僕が見る限りはそうです』、いくら、入学したての頃は友人だったからと言って、思想が真っ二つに別れてしまった今になって、友人面をして後を付け回すというのはどうかと思うんです。いえ、あなたの言いたいことはよくわかっています。確かに、世の中には、思想的ないさかいを抜きにして子供からの付き合いを大事にしておられる方もいらっしゃいます。ですけど……、それはすでに消えかけた恩情に引きずられての友人関係ですし、僕に言わせれば、やはり、思想の分かれ目が人間関係の切れ目だと思うんです。心の最内に隠し事をしながらの友人関係とは美しいものではないですからね。僕はブエナさんが友人と称してラルセさんに近づく行為というのは、友人関係ではなく、生徒会の任務の一貫であると言わざるを得ないと思うのです」

「そういうことなのよ、ブエナ……。お願いだから、もう、馴れ馴れしくしないでね……」

ラルセは静かな声で相槌を打った。ブエナは彼女の方を見て、悔しそうに唇を噛み締めた。


「だから、それが何だと言うんだ? ブエナとラルセの友情なんて、もう壊れたものだ、今さらどうでもいい。いいか? おまえらみたいなアナキスト集団は、見張っておかないと何をしでかすかわからんだろ? 生徒会とすれば、それはしごく当然の行為だ……。だが、勘違いはするなよ。俺はおまえたちの偵察をしろなんて命令した覚えはない。そんな小さな事案に、忙しい俺がいちいち関わっていられるもんか。他の部所でよかれと思って勝手にやっていることだろう。不適切だとは思わんが、どうでもいいことだ」

会長は冷え切った声で強くそう反論した。

「しかし、生徒会にはブエナさんのようなスパイ行為を専門に行う部所があって、彼女以外にも、こういう他人の一番見られたくない部分をのぞき見るような行為を行っている部門があることは認めていただけるわけですか?」

ロドリゲスはボールペンで数回机を突きながら、落ち着いた口調で再び会長に尋ねた。

「今も言ったと思うが、俺自身がそんなちんけなことを画策したり、命令したりはしない。専門の部所があるかどうかについては、機構に関することだから詳しくは答えられない。ただ、あのパヌッチのような、思想のねじまがったどうしようもない人種を見張る必要性はあると思っているし、生徒会の他の幹部がそういう行いをやっているのであれば、俺はそれを是認する」

クレモネがそれに追従するかのように語りはじめた。


「そのことは私も知りませんでした。ブエナさんが他人を見張るような、そんな行為をしていたなんて……。ただ、私も会長のお側で日々働いていて知っていますが、会長自身がそのような薄汚いことに関わっておられることは誓ってないと言い切れます。会長は全校生徒のことを考えて、日々骨身を削って行動しておられる素晴らしいお方です。会長という役職はただそのためだけに存在し、宝石のように昂然と光り輝いているのです。ですから、生徒会の一員であるブエナさんが、そのようないかがわしい行為に及ぶには何か深い理由があると思うのです」

ロドリゲスはその発言には構わず、視線をブエナの方に移して質問を続けた。

「これは生徒会の議事録にも残る会議ですから、虚偽の発言をすれば、当然罰せられるわけですよね? では、ブエナさん、いったい、どこの部所の誰から指令を受けて僕らを見張っていたのかを教えてくれませんか?」

ブエナは緊張しているのか途端にぎこちなくなり、少し口元を震わせながら、会長やクレモネの方に一度視線を向けて、それすらまずい行為だと悟ったのか、今度は下を向いて、指先で机の上に何か文字を描くような仕草をしながら、口をもごもごとさせた。

「言いたくないのなら、言わなくてもいいんだぞ。会議には回答拒否権もあるんだからな」

会長の鋭い声が再び飛んだ。

「どうぞ、発言して下さい。ことの善悪を判断するためにはあなたの発言が重要なんです」

ロドリゲスは早く話すように促した。

「ええ、え……、私の独断です。誰からも命令を受けてはいません。友人のラルセとパヌッチさんが仲良くしているのが許せなくて彼らを見張ってました……。生徒会とは関係のないことです。不愉快でしたら、謝罪します。すいません……」

「それなら、僕がホットドッグ屋に行くところまで見張らなくてもいいだろ?」

「ごめんなさい……」

ブエナは屈辱にまみれた表情で、そう謝罪した。ラルセが一度クレモネの方を見てから、静かな声で質問した。


「クレモネさんはこの件について本当に何も知らなかったんですか? あなたとブエナさんは授業でも、いつも隣に座るほどの仲良しだし、二人とも私と面識があるし、会長が私たちを見張れとブエナさんに直接命令したっていうのは無理があると思うんだけど、あなたなら……、何か知ってませんか?」

鋭い質問にもクレモネの表情はまったく崩れなかった。彼女は余裕の笑顔を浮かべながら話し始めた。


「ごめんなさいね。授業の中でブエナさんといちいちどんな話をしたかは覚えてないです。学生同士の授業前の挨拶なんてあまりにも軽すぎて、話した側から空気の中に消えていくようなものです。ブエナさんという存在を軽視しているわけではないですよ。ただ、学業は教師の声に集中していればこそ身につくものですしね。私自身はパヌッチさんはともかく、ラルセさんのことはすごく尊敬していて、なんというか、勝つためには手段を選ばないところなんてすごいなっていつも思っています。ラルセさんは自分が最後に笑うためなら途中過程でライバルの身に何があっても平気みたいだし、あなたの論文に罵倒され、蹴落とされて、さめざめと泣いている占星学生もいっぱいいるのに、あなたは自分の後ろを振り向きもしないで、そういう背後で肩を落としている生徒達に何の配慮もなくズンズンと前に進んで行かれて、成功のためには友情なんていらないって思われてるんでしょうけど、お望みは友情の入る余地のない学生生活ですか? それもいいですよね。人間、墓の中に入るときはどうせ一人ですものね。そういうラルセさんの生き方をこれからも陰ながら応援していくつもりです。それと、誤解なさらないで下さい。私は応援のつもりであなたを見守っているのであって、行動を見張るとかそんな怖いことは考えてもいません『例え、誰か人を使って、あなたの行動を探らせていたとしてもですよ』。だいたい、権力も持たない一秘書に過ぎない私が、あなたがた自由人に手を出すことなんてありえませんものね。あなたは本当に尊敬できる人です……。他人とは向き合えない自由……、ふふふ」


 クレモネはそこまで言うと、こらえきれないように低く笑い声を発した。ラルセはそれを聞いて、一度目をそらして下を向いた。その口元がにや~っと笑い出した。こういうときは彼女の頭が熱くなってきて、怒りで心が爆発寸前になっている証拠である。

「私の人生が今のところうまくいっているのは、自分の努力の賜物で、ライバルさんたちが転んでくれたからではないですよ。ただ、私だって前を向いています。目は後ろに、転んでしまった方々が妬みの目をして座り込んでいる後方にはついていませんものね。それと、羨望っていうのは成功の後にしかついて来ないものです。もう一つ言わせていただければ、クレモネさんが権力の影に居座って、手を汚さずに美味い汁を吸っていても、私には関知しないことです。会長秘書ですって? 冗談じゃないですわ。そんなふしだらなポストに就くくらいだったら、組織に属さない自由人の方がよっぽど素敵ですわ。例え、どんなに地べたに近くても、私なら喜んでそっちを望みますものね」


 ラルセは完全に言い返し、感極まったようだった。ブエナは二人のぶつかり合いをなんとか止めたいようだったが、その場に漂うあまりの殺気に身体がブルブルと震えてしまい声が出ないようだった。僕も口を挟む余地がなく、今のところ、下っ端とエリートの格の違いを見せつけられる結果となっている。

この作品は長大なので少しずつ区切って投稿していきます。気軽に感想をいただければ幸せです。この作品はアラブ系千葉文庫(http://www9.plala.or.jp/applepig/)にも掲載しています。全部で十数個の作品を掲載しています。できれば、そちらの方にも遊びに来てください。

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