転生ヒロイン殺人事件
唐突だが、私には前世の記憶がある。
前世の私は平凡だが少しオタク趣味のある地味目のOLだった。
最後の記憶は、社員旅行で行った某国の祭りで、誰かに投げられたトマトが後頭部に当たったことだ。おそらく死因はそれだろう。
情けない死因だと思わなくもないが、そのおかげで転生できたとすれば感謝するしかない。そう、私は転生したのだ! この『君の瞳はサニーサイドアップ』、通称「片面」の世界に!
しかも私は「片面」のヒロイン様!
先王の弟である父と駆け落ちした王宮のメイドだった母の間に産まれた私は、強大な光魔法の才能を見込まれて王立魔法学園へ特待生として入学させられる。そこで私は王国の第二王子をはじめとしたイケメンたちと恋に落ちるのだ!
しかし、平民の娘(王族であることは極一部しか知らない)である私に起こるはずのいじめイベントが起きない。
ゲームではいじめが起こるたびにイケメンたちが都合よ・・・ゲフン。運命的に私を助けてくれるのに。
仕方がないので自分で教科書を破いたり、靴に画鋲を入れてみたり、イケメンからのプレゼントを質に・・・盗まれたりと努力を惜しまなかった。ああ、私って健気!
努力の甲斐あって、今や隠しキャラ含むイケメン集団は私の取り巻きと化している。
そこまでは良かったのだが、どうもこのままではイケメン’sの中で一番地位の高い第二王子の妻にはなれそうにない。
なにしろ王子の婚約者は王国の中で最高の淑女と呼ばれる公爵令嬢。完璧すぎて婚約を破棄する隙がない。いじめの件を訴えようにも被害が小さすぎて問題にならないようだ。
こうなればやるしかないようね・・・。乙女ゲーム最大のイベントである階段落ちをっ・・・!
【階段落ち】
獅子が我が子を千尋の谷に突き落とすという故事より、古代中国では元服前の少年を数十段から数百段の階段から突き落とし、健全な肉体と武芸の冴えを周囲に披露する風習があった。
「清水の舞台から飛び降りる」というのは遣唐使よりこの風習を伝えられ、当時の日本で有数の高層建築物であった清水寺で再現した時の名残である。
ミンメイ書房 ~男と乙女の恋物語~
「これで私こそ真のヒロインよッ! レッツI☆KE☆DA☆YA!!」
「やはり自殺以外の証拠は見つからないか」
私は魔法学園で起こった、特待生の死亡事件について調べている騎士だ。
件の特待生は三日前の放課後、学園の北棟にある階段から落ち死亡した。目撃者のモブーダ男爵令嬢によれば、何事かを叫んだかと思えばいきなり宙に飛び出したらしい。
階段の状況を調べてもそれは真実だろう。
盆暗・・・いやボン・クーラ第二王子とその友人は王子の婚約者である公爵令嬢が突き落としたと言うが、彼女には放課後のアリバイが残っており犯行は不可能。
むしろ証拠もないのにあちらこちらで公爵令嬢が犯人だと騒ぎ立てる彼らの方が問題だろう。学園でもこの特待生に熱をあげ、貴族としての資質を疑問視されていたようだし。
・・・まあ、王子たちの進退について考えるのは私の仕事ではない。事件の調査結果と、聞き込みのついでに集まった学園での特待生と王子たちの行状をまとめ、陛下に提出するとしよう。