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春告鳥-Boys be ambitious!-  作者: 涼海 風羽
1/5

春告鳥(上)-1

春夏秋冬・歌物語【春】

 ***



「クッソー、テルユキめ、おぼえてろ!」


「へっへーんだ、あっかんべぇ! ……おい、大丈夫だったか?」


「ひっぐ……テル……」


「怪我してないな。ほら立てるか、ハルナ」


「ぐす、うわあぁ~ん! こわかったぁ!」


「わっ、抱きつくなバカ! あいつら逃げてったから。安心しろ、な?」


「うん……けどテル、怪我してる。ちょっとみせて」


「いいよ、ただの擦り傷だ。そのハンカチ、お前のお気に入りだろ」


「いいの。言うことをきいて」


「むぅ、好きにしろぃ! …………おっ?」


「テル、上見て。雪が降ってきたよ」


「本当だ。もう三月だってのに、今年はよく降るなぁ……そうだ。良いもの見せてやるよ。いつものとこ行こうぜ」


「丘の公園? もう夕方になるよ。帰りがおそいと怒られないかな」


「へっちゃらさ! 走れば間に合うよ、行こう!」


「いたいっ、テル、手つかむのいたいよぉ!」





「よっし着いたぁ! ほら、見ろよハルナ!」


「はぁ、はぁ……、テ、テル足早いってばぁ」


「ごめんごめん、でもこっからの眺めを見せたくって」


「ここからの? いつも遊んでるとこ、ろ……わぁぁ」


「面白いだろ、雪が降ってるのに山の向こうは夕焼けだぜ」


「きれい。町も、田んぼも、川もみんなオレンジ色になってる」


「お前もオレンジ色になってるぞ」


「テルだってほっぺた赤いよ」


「えっ、あっ、寒いからな、雪も降ってるしな。そうだよな」


「知らなかった。私たちの町がこんなにきれいだったなんて……テル、ありがと」


「いいってことよ。てか、あと二か月で中学生だぜオレたち。いやー、六年間はやかったな。忙しくなるんだろうな、中学生になったらきっと」


「……うん」


「あー、で、でも、お前ブキヨウだからなぁ。困ったときはいつでも言えよ。お、オレが絶対に助けてやるぞ!」


「そうだよね。テルは私が泣いてる時、いつも助けてくれたもんね」


「であるからして、だな。えーと、あの、こ、コレカラモカワラヌオツキアイヲ、じゃなくて、えとその、あぁ」


「テル?」


「オーケー、まずは落ち着くんだ。何といいますか、えーと、ぼく、ミヤマテルユキは……ハルナさんのことを──」


「テル。私ね、引っ越すの。来月に博多って町へ」


「えっ……引っ越、す? は、博多って福岡だよな、そんな、東京から福岡って言ったら」


「もうテルとは会えなくなる……ずっと言えなかった、ごめんね……ごめんね」


「お、おい泣くなバカ! やー、良いんじゃないのか? その博多って町の方がここより良い町かも知れないだろ? ほら、せっかくのカドデだ、祝ってやるぞ。あはっ、あはははっ、めでたいなぁ、めでたいなぁ!」


「テル……」


「向こうでも楽しくやれよ! あはっはっはっは! めでたいなぁ! あはは、め”て”た”い”な”ぁ”!」


「あのね、テル。私ね、まだ誰にも言ったことないけど、夢があるの」


「ゆめ? 何になるんだ……?」


「舞台の女優さん。ずっと憧れてたんだ。いっぱい歌って、いっぱい踊って、たくさんの人を笑顔にしたい」


「ふぅん、そっか。大変そうだけど、がんばれよな!」


「ありがとね、テル」


「じゃあさ、何か歌って見せてくれよ、未来のスターさん」


「……うん、わかった!」


「おぉっ、女優ハルナの誕生だ! こりゃ、めでたいなぁ!」




 丘の上から少女の歌が風に乗る。なごり雪が降る中で落ちた滴に気付くには、あの日の俺はまだ幼かった。


 小さな町が白むどこかで、一羽の(うぐいす)が鳴いていた。




***



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